元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 盆地で多湿な祖国レイナス王国とは違う乾いたレイス王国の大地を月明かりを頼りに私たちを乗せた馬達が砂塵をその強靭な脚と蹄で巻き上げながらひた走る。


 この世界に転生してから知り得たのだけど、馬の目は夜の暗がりでもピカピカと猫のように光るのだ。


 つまり暗闇でも目が見えるため、昼夜にわたって放牧していても危険を察知すれば真っ暗な中を馬は支障なく走り抜ける。


 とはいっても私たち人間は馬に比べれば夜目が効かない。


 それでも今夜は双太陽の光を反射していると思われる惑星が夜空を照らしているため比較的周りの景色が見えやすい。


 惑星は双太陽の位置によってはまるで林檎の芯に近い部分だけを食べ残したような不思議な満ち欠けの仕方をするから面白い。


 煌々と松明が焚かれた防衛拠点基地となる関所が何ヵ所か有ったが、その全てを夕闇に紛れて突破した。


 この世界にも地球と同じく北極星と同じ役割をしてくれる星が有るため方角はわかるから、大体の方角を示してあとは馬達任せだ。


 空に広がっていた闇は薄れ、暖かな太陽が地平線から顔を出す頃、一段高くなった丘の上にたどり着いた。


 私たちの眼下に広がっていたのはドラグーン王国の旗を掲げた一軍とレイス王国の国旗が、双方にらみ合うように陣を敷いている。


「これからどうなさいますか? 使者を立てるおつもりならばご用意いたしますが」


 後ろから声をかけてきたのはゼスト殿だ。


 ほぼ一晩中馬で走り通したと言うのに、ゼスト殿も追従の騎士達も疲れた様子は見られない。


 最年長のロンダークは少しだけ疲れが見え隠れしている。


 やはり年齢には敵わないのか、昔ほど体力がもたないらしく、今回の旅でロンダークは引退するらしい。


 今後はミリアーナ叔母様と共に領地へ行き家族四人で暮らしながら子ども達の教育していくようだ。


 私は視線を真っ直ぐに両陣営へと向けた。


「使者は出さないよ、自分で行く。 レイナス王国の国旗出して」


 そう告げれば、丁寧に折り畳まれていたレイナス王国の国旗を差し出される。


 馬具に固定していた荷物から短い筒四本が纏められている袋を取り出し次々と筒と筒を繋げるようにして連結していく。


 本皮に細工を施した刃物入れから笹の葉に形がにている穂と呼ばれる刀身を取り出して筒に嵌め込み、外れないように細工を施す。  


 臨時の武器としても使用できる短槍が出来上がった。


 基本的には有事の際には愛剣であるシルバを使用するけれど、もし剣が使用できなくなったりした時のためにレイナス王国の騎士達は剣と組立式の短槍を携帯し、どちらも使用できるように訓練を受けている。


 先程受け取った国旗を短槍の太刀打ちと呼ばれる部分にある銅金と言う複数嵌められた輪状の金具にくくりつけた。


 石突いしつきと呼ばれる柄の底につける金具を帯剣に使用する本皮のベルト付けられた細長い筒に差し込み、ぐらつかないようにしっかりと固定する。


 準備を終える頃、他の騎士たちも数名が私と同じように旗を掲げて騎乗している。
 
 私がレイナス王国の国旗を掲げてアルフォンスを走らせ始めれば、それに続く形でゼスト殿とロンダーク、追従の騎士達が馬を駆け始めた。


 一直線に向かうのはレイス王国軍の陣営。


「絶対にアールベルトに会ってやる!」
 





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