元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
目が覚めると見知らぬ馬車の中にいた。
ガタゴトと揺れる馬車の天幕を見上げて回りに視線を走らせた。
屋根に布を張った幌馬車の荷台に寝かせられていたようで、身体を起こすとポトリと濡れた布が額から荷台に落ちた。
「痛っ~」
起き上がった拍子に脇腹に走った痛みに腹部を押さえて見れば、清潔な布を使った包帯が幾重にも巻き付いている。
よく見れば腕や足にも巻かれているため、どうやら気が付かないうちに小さな怪我を量産していたらしい。
「あっ、起きた!? 良かったよーもう目を覚まさないんじゃないかって心配したんだから」
幌馬車の出入り口となっている馭者台から顔を出したのは私とあまり変わらない年格好の少女だった。
こんがりと健康的に焼け肌にクセの強い茶色の髪の毛を二つの三つ編みにしている。
顔は可愛らしく、小さな鼻の上にはそばかすが散っている少女はまるでお日様のように暖かい笑顔をむけてきた。
「えっと……」
なにから聞けば良いのか分からずに居れば、馬車を停めて馭者台から恰幅のいい壮年の男性が顔を出した。
「おっ、目が覚めたね。 気分はどうだい?」
「おかげさまで良くなりました。 あの私は……ここはどこですか?」
「ん? もしかしてまだ記憶が曖昧なのかな? 君は川縁で倒れていた所をアンに拾われたんだよ。 意識が戻るまでずっと看病をしたのもこいつだ」
男性が茶髪の少女の頭を乱暴にグリグリとかき混ぜる。
「ちょっと! 父さん、髪の毛がぐちゃぐちゃになるじゃない!」
「あははっ、すまんすまん。 私はトーマスと言う。 こいつは娘のアンジェリカだ、私達はあちらこちらの国を巡りながら行商をしている」
豪快に笑うトーマスさんとアンジェリカさんに頭を下げた。
「この度は危ないところを助けていただきありがとうございました。 私の名前はシ……レオルです」
普通にシオルだと名乗りかけてレイナス王国に帰るまでは本名を隠した方が良いのではと思い直し、ドラグーン王国とマーシャル皇国の国境を越えるときに使った偽名に直した。
「シレオル?」
「いえ、レオルです」
「レオルね。 よろしく! はいこれ飲んで」
そう告げると強烈な青臭い臭いを放つ液体を渡してきた。
「それ傷にすっごく良く効く薬なの。 ささ、飲んだ飲んだ」
いや、飲めと言われてもこれは飲むのに勇気がいるよ!?
「確かに味は壊滅的だが、効き目は折り紙つきだ、諦めて飲め」
トーマスさんとアンジェリカさんに進められて、私は薬湯がなみなみと入ったコップを前に生唾を飲み込んだ。
「あっ、ありがとうございます」
覚悟を決めて目をつむり一息に口内に流し込む。
薬草を磨り潰したことで、粘度を増した薬湯が口腔内を暴れまわる。
えずきながらもなんとか飲み下すと、肩を震わせたアンジェリカが顔を背けながら器を渡してくる。
「いやぁ、まさか本当にあの薬を飲み干すとは恐れ入った。 俺には出来ない」
「はい!? 飲めって言いましたよね」
「飲めとは言ったぞ、飲めるとは言ってないがな」
ガハハハッと豪快に笑うトーマスさん、くそぅ謀られた。
そんな私の様子を見終えて、トーマスさんは馭者台に戻り、二頭の馬の手綱を握ると、ゆっくりと馬車が動き出した。
小石を踏んだり、地面の穴に落ちたりした車輪は衝撃を吸収することがなく、ダイレクトに悪路の振動を身体に伝えてくる。
「はい、口直しよ。 果実を砂糖で煮付けたものなんだけど」
砂糖漬け!? 
アンジェリカさんの手から器をひったくり口に含めば甘味が口内を急速に癒していく。
「う~、薬湯を飲んでない状態で堪能したかった……」
「すっごくわかるわその気持ち!」
ガバッ! と私に詰め寄るアンジェリカを見てトーマスさんがにやついている。
「アン、いくらレオルが色男だってな近すぎだ」
馭者台にもどり、馬車を動かしながら
「へっ!? わっ、ごっ、ごめんなさい」
慌てて離れたアンジェリカが顔を真っ赤にして両手で顔を扇いでいる。
なんだろう、可愛い……。
そういえば前世では恋愛対象は男性だったけど、男に転生した今の私はやはり女性と恋愛をすることになるの……かな?
私はレイナス王国の王太子だ。 いずれは王妃となる女性と婚姻結び、レイナス王国を次代に繋いでいく事になるんだよね。
生まれ変わってからというもの、男性だとか女性だとかあまり気にならなくなっている気がする。
異性だろうが同性だろうが可愛い人は可愛いし、カッコいい人はどちらだってカッコいいんだ。
好きな人は好きだし、嫌いな奴はどこまでいっても嫌いだ。
……人を好きになるのに性別は関係ないのか?
急に黙り込んだ私の様子に不審に思ったのか、アンジェリカが私の顔を覗き込む。
「大丈夫? 夕方には王都に着くからそれまで寝てたら」
そっか、王都に着くのか……、王都!?
「王都ってマーシャル皇国の王都ですか?」
「うん、そうだよ! 早く治して一緒にカイル皇子の誕生を祝うお祭りに行こうね? ついでに店番も手伝ってくれると嬉しいな」
元気いっぱいのアンジェリカが話してくれる行商の旅の話はとても面白く、現地で見たもの聞いたことなど、とても参考になった。
時間を忘れながら揺ったりと馬車に横になったまま時々馬車が石に乗り上げ振動で地味にダメージを受けていると、それまで鼻唄を歌いながら上機嫌に運転をしていたトーマスさんが馬車の中に声をかけてきた。
「そら王都が見えたぞ!」
腹部を庇いながら見た馬車の遠方にはドラグーンの王都ほどでは無いものの、高い城壁に囲まれた巨大な都市が見えた。
ガタゴトと揺れる馬車の天幕を見上げて回りに視線を走らせた。
屋根に布を張った幌馬車の荷台に寝かせられていたようで、身体を起こすとポトリと濡れた布が額から荷台に落ちた。
「痛っ~」
起き上がった拍子に脇腹に走った痛みに腹部を押さえて見れば、清潔な布を使った包帯が幾重にも巻き付いている。
よく見れば腕や足にも巻かれているため、どうやら気が付かないうちに小さな怪我を量産していたらしい。
「あっ、起きた!? 良かったよーもう目を覚まさないんじゃないかって心配したんだから」
幌馬車の出入り口となっている馭者台から顔を出したのは私とあまり変わらない年格好の少女だった。
こんがりと健康的に焼け肌にクセの強い茶色の髪の毛を二つの三つ編みにしている。
顔は可愛らしく、小さな鼻の上にはそばかすが散っている少女はまるでお日様のように暖かい笑顔をむけてきた。
「えっと……」
なにから聞けば良いのか分からずに居れば、馬車を停めて馭者台から恰幅のいい壮年の男性が顔を出した。
「おっ、目が覚めたね。 気分はどうだい?」
「おかげさまで良くなりました。 あの私は……ここはどこですか?」
「ん? もしかしてまだ記憶が曖昧なのかな? 君は川縁で倒れていた所をアンに拾われたんだよ。 意識が戻るまでずっと看病をしたのもこいつだ」
男性が茶髪の少女の頭を乱暴にグリグリとかき混ぜる。
「ちょっと! 父さん、髪の毛がぐちゃぐちゃになるじゃない!」
「あははっ、すまんすまん。 私はトーマスと言う。 こいつは娘のアンジェリカだ、私達はあちらこちらの国を巡りながら行商をしている」
豪快に笑うトーマスさんとアンジェリカさんに頭を下げた。
「この度は危ないところを助けていただきありがとうございました。 私の名前はシ……レオルです」
普通にシオルだと名乗りかけてレイナス王国に帰るまでは本名を隠した方が良いのではと思い直し、ドラグーン王国とマーシャル皇国の国境を越えるときに使った偽名に直した。
「シレオル?」
「いえ、レオルです」
「レオルね。 よろしく! はいこれ飲んで」
そう告げると強烈な青臭い臭いを放つ液体を渡してきた。
「それ傷にすっごく良く効く薬なの。 ささ、飲んだ飲んだ」
いや、飲めと言われてもこれは飲むのに勇気がいるよ!?
「確かに味は壊滅的だが、効き目は折り紙つきだ、諦めて飲め」
トーマスさんとアンジェリカさんに進められて、私は薬湯がなみなみと入ったコップを前に生唾を飲み込んだ。
「あっ、ありがとうございます」
覚悟を決めて目をつむり一息に口内に流し込む。
薬草を磨り潰したことで、粘度を増した薬湯が口腔内を暴れまわる。
えずきながらもなんとか飲み下すと、肩を震わせたアンジェリカが顔を背けながら器を渡してくる。
「いやぁ、まさか本当にあの薬を飲み干すとは恐れ入った。 俺には出来ない」
「はい!? 飲めって言いましたよね」
「飲めとは言ったぞ、飲めるとは言ってないがな」
ガハハハッと豪快に笑うトーマスさん、くそぅ謀られた。
そんな私の様子を見終えて、トーマスさんは馭者台に戻り、二頭の馬の手綱を握ると、ゆっくりと馬車が動き出した。
小石を踏んだり、地面の穴に落ちたりした車輪は衝撃を吸収することがなく、ダイレクトに悪路の振動を身体に伝えてくる。
「はい、口直しよ。 果実を砂糖で煮付けたものなんだけど」
砂糖漬け!? 
アンジェリカさんの手から器をひったくり口に含めば甘味が口内を急速に癒していく。
「う~、薬湯を飲んでない状態で堪能したかった……」
「すっごくわかるわその気持ち!」
ガバッ! と私に詰め寄るアンジェリカを見てトーマスさんがにやついている。
「アン、いくらレオルが色男だってな近すぎだ」
馭者台にもどり、馬車を動かしながら
「へっ!? わっ、ごっ、ごめんなさい」
慌てて離れたアンジェリカが顔を真っ赤にして両手で顔を扇いでいる。
なんだろう、可愛い……。
そういえば前世では恋愛対象は男性だったけど、男に転生した今の私はやはり女性と恋愛をすることになるの……かな?
私はレイナス王国の王太子だ。 いずれは王妃となる女性と婚姻結び、レイナス王国を次代に繋いでいく事になるんだよね。
生まれ変わってからというもの、男性だとか女性だとかあまり気にならなくなっている気がする。
異性だろうが同性だろうが可愛い人は可愛いし、カッコいい人はどちらだってカッコいいんだ。
好きな人は好きだし、嫌いな奴はどこまでいっても嫌いだ。
……人を好きになるのに性別は関係ないのか?
急に黙り込んだ私の様子に不審に思ったのか、アンジェリカが私の顔を覗き込む。
「大丈夫? 夕方には王都に着くからそれまで寝てたら」
そっか、王都に着くのか……、王都!?
「王都ってマーシャル皇国の王都ですか?」
「うん、そうだよ! 早く治して一緒にカイル皇子の誕生を祝うお祭りに行こうね? ついでに店番も手伝ってくれると嬉しいな」
元気いっぱいのアンジェリカが話してくれる行商の旅の話はとても面白く、現地で見たもの聞いたことなど、とても参考になった。
時間を忘れながら揺ったりと馬車に横になったまま時々馬車が石に乗り上げ振動で地味にダメージを受けていると、それまで鼻唄を歌いながら上機嫌に運転をしていたトーマスさんが馬車の中に声をかけてきた。
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