元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 ドラグーン王国の城下町は復興が遅々として進まず、多くの住民が倒壊の恐れがある住居ではなく、野外で日夜をすごしている。


 合同葬儀と言うこともあり、住民の多くが愛する家族や親しい友をあの世……こちらでは天国とは言わず双太陽神の庭というのだが、神の元へたどり着けるように祈るため、周囲に人の気配はない。


 ミリアーナ叔母様の身体を自分の背中に背負い、幅広の帯でくくりつけて、叔母様ごと長い丈の灰色のローブを纏ったロンダークさんを先導するように、葬儀会場となっている王城前とは反対に位置する使用人達が出入りに使っている出口から城外へと出ることができた。


「宰相閣下からこちらをお預かりしております。 馬は東の大門に四騎ほど準備させてあります。 本来であれば馬車をご用意したかったのですが……」


 そう言ってローブを纏った私たちを出迎えた兵士が渡してくれたのは、長方形の木の枠に横木を渡し、肩にかけるひもをつけた背負子だった。


 中には地震以降中々手に入らない硬く焼き締められたパンや保存が効くナッツや乾燥させた果実、革袋を加工した水袋が納められていると、兵士さんが説明してくれた。


 よく見れば兵士さんは今朝がた宰相閣下と一緒に部屋を訪れたうちの一人だった。


 申し訳なさそうにする兵士さんに感謝を伝えてずっしりと重い背負子を背負う。


 動きは阻害されてしまうが、地震以降物資の調達は難しく、身を隠しながら移動することを余儀無くされるため、道中の補給は限られるため、これ等の非常食はありがたい。


 しかも城門の外には馬まで用意してくれているらしい。
 
「王妃陛下をお願いいたします」


「ありがとう……」


「ご武運を」


 そう告げると兵士は何事もなかったように持ち場である城門へと戻っていった。


「ロンダークさん、大丈夫ですか?」


 足場の悪い道程を人目を避けて兵士さんが話していた東の大門へ進んでいく。


 城から離れれば離れるほどに、手が入らない住宅や瓦礫の道が増えていく。


 大門に近付いた時、一際大きな鐘の音が響き渡った。


 葬儀が済み犠牲者の遺体に火が放たれたのだろう。


 背後から上がるひとすじの煙を見据える。


「こちらです!」


 大門から出てきた私達に、茂みに身体を隠しながら声をかけてきたのはやはり今朝早く訪ねてきた男性だった。


「ご武運を」


 男性は私に二頭、ロンダークに二頭分の手綱を手渡すと、大門の中へと走っていった。


 用意されていた馬は私とロンダークさんの愛馬、そしてミリアーナ叔母様の愛馬と、見知らぬ白馬が一頭。


 素早く愛馬に騎乗すれば、とくに行き先を示すこともなくレイナス王国へ向けて歩き始めた。


「ロンダークさん、ミリアーナ叔母様の容態は?」


「そうですね、呼吸は安定されておりますので少しであれば馬での移動も可能でしょう。 しかし胎児の事を考えれば強行軍は……」


 妊婦を野宿させないだろうと推測がたつ以上追手は街を捜すだろう。


 追っ手がかかる街を避けてレイナス王国の領土へ入らなければならない……か。


「わかった、ドラグーン王国を南下して一度マーシャル皇国領へ入る」


「マーシャル皇国ですか? あそこはたしか第一王子がお産まれになったばかりで、誕生を祝う祭りが行われていた……なるほど」


 人気が少ない最短距離を行くよりも、距離は伸びるが、お祭りで込み合う場所の方が見付かりにくい筈だ。


「マーシャル皇国にはレイナス王国の密偵も入っている筈だ。 彼等に上手く合流できれば安全性も増すはずだ。 ミリアーナ叔母様の体調をみて休憩を挟みながら向かう」


「御意」


 迷いなく返事をしたロンダークさんと並び帰国への一歩を踏み出した。 



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