元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 さて厨房へ移動した訳ですがアレホさんに続いて私とロンダークさんが入室するなり、厨房で働いている人達が慌てて作業をやめて叩頭し始めたので、作業を続けるように促した。


 厨房の端には山積みのソイ豆が抱えるほどの大皿に乗せられていた。


 カラカラに乾燥してあったソイ豆は、十分に吸水させてから蒸した為に、体積が二倍に膨れて量が増していた。


 手にとって見れば、親指と人差し指で潰れる位の固さだ。確か親指と小指で潰せるほどに軟らかくしなければならなかったはずだ。


 十年以上前の前世の記憶を必死に掘り起こし、蒸し上がったソイ豆の半分を大きな鍋で煮直す。


 もったいないような気もするけれど、はじめから上手くいくはずはないので、何パターンか実験の意味もかねて仕込む予定だ。


 既に記憶の彼方で埃を被っているあやふやな知識で味噌を再現するって言う無謀をするわけだから、料理長のアレホさんには悪いが成功するとは思ってない。


 煮直していない方のソイ豆を麺棒に似た木の棒で擂り潰しながら時折塩を入れて練り込み。


 丸くなるようにして団子にしていく。 赤味噌は空中の菌が繁殖して発酵して出来上がったはずなので、あとはドラグーン王国に糀菌が飛んでいることを願うしかない。


 無数に飛んでいるだろう菌よ! 我に糀菌を与えたもう! これはもはや神頼みに近いかもしれないな。


 まぁ失敗を怖れたら成功はあり得ない。 やってみてから考えよう!


 少しずつ加える塩の量を変えながら、出来上がったソイ豆の玉を皿に乗せて、分かりやすく番号をふって順番に並べていく。


 羊皮紙にソイ豆の吸水から塩分量をそれぞれ記入していく。


 そうこうしているうちに、再度煮てもらった残り半分のソイ豆はゆで汁を吸い上げ、乾燥時の三倍ほどまでふやけていた。


 一粒確認したら、今度は親指と小指で潰すことが出来たので、ゆで汁を小さな鍋に一つ分だけ取り除き、残りは薄い木板を編み込んだ笊にあげて水洗いして水気をきっ……まっ、待てよ?


 水洗いしてから気が付いたけど、もしかしなくても生水じゃない?


 自室に用意された飲み水は一度煮沸消毒が施された物だが、長距離の移動の際には必ず煮沸した水を飲むようにしている。


 綺麗に見える生水を、つい前世の水道水の感覚で飲んでしまい、嘔吐、腹痛、下痢と言う三重苦を伴って思い知らされた。


 生水危険。 生野菜や果物も一度煮沸した水で綺麗に洗ってから食べましょう。 二日ほどトイレの住人と化した私の教訓だった。


「この水って一度煮沸した水ですか?」


「はい、食品に使う為に朝一で井戸から汲んできた水です。 煮沸は済んでいますので安心してください」


 はぁー良かった。セーフだ。焦った……。


「良かったぁ、生水だったら煮直さなければならないところてした」


 こちらもアレホさんとロンダークさんの手を借りて、ガンガン擂り潰していく。 いやぁ人手があると作業が捗って早いなぁ。  


 ちょくちょく休憩をはさみつつも、次第に出来上がったソイ豆ペーストをあらかじめ煮沸して貰った大人の掌ほどの深さがある土製の甕に塩と混ぜて詰めていく。


 塩分量を変えながら出来上がった甕に、既存の輸入味噌を涙を飲んで加えていくアレホさん。


 ちなみに輸入味噌は買ったときの倍額でこちらで半分ほど譲って貰った。


 空気に触れないように紙……はないので後で作ることにしてひとまず羊皮紙で蓋をした。


 出来上がった甕達を夏場でも涼しい地下に作られた食料庫へと運びいれていくと、気が付けばかなりの時間が経過していた。


「いやぁー。 良い仕事したなぁ。 アレホさん! 成功するといいですね!」


「勿論だ! 俺のお宝を半分も減らして成果無しなんて認めねぇ」


 味噌未満の甕を睨み付けるアレホさんに部屋の管理を任せて部屋へ戻り、軽く夕食と入浴を済ませてベッドへ潜……。


「そうはさせませんよ? 本日分の勉強と明日提出予定のカリキュラムが出来ておりません」


 首根っこを掴まれて捕獲され、執務机の椅子へと強制連行された。


 わっ、わすれてたぁぁぁぁあ! 



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