元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 まさかの王子妃自らのお出迎えに騒然とするドラグーン騎士達に、レイナス一行は苦笑いです。


 ミリアーナ叔母様はお嫁にいっても変わらないですね。


「お久し振りです。 この度はご結婚おめでとうございます」


「ありがとう! 最後にあったのは赤ん坊の頃だったのに覚えていてくれたのかい?」


「叔母様はどこに行っても叔母様ですから」


 笑って誤魔化すと背後でミナリーが笑いを堪えるように小さく震えている。


「シオルは良い子だなぁ。 あとで稽古を着けてやろう? うん! それが良い!」


 ぎゃー! ひとりで何を納得してるんですか!? 父に決意を告げた翌日一振りの刀剣を携えて部屋にやって来た父様は「今日から剣術の稽古をするぞ~!」と子供には重い剣を鞘ごと投げて寄越した。


「お、お手柔らかにおねがいします」


 その日から暫く常に自分の身長とかわらない剣を背負っての生活が始まりました。


 初めは歩くどころか立ち上がれすらしませんでしたよ。だって自分の体重と大差無い重さなんだもん。


 父様いわく『体に剣を合わせるんじゃない。 剣に合わせて体を成長させていくんだ』そうな。


 肩に食い込む刀剣の重みに挫けそうになりつつも、相棒となった刀剣と寝食を共にしていたら、剣がないと落ち着かなくなりました。


 すっかり剣が体に馴染んだ頃から素振りが開始されたんですけどこれまた重くて腕の力では持ち上がらない!


 重心と遠心力を意識し初めてからは体格が大きく変化したはずはないけれどだいぶ振り回すことは出来るようになったし、よろけなくなりました。


 頑張った私! 前世では運動音痴でしたがとりあえず、稽古中に地面に転がされても受け身が取れるようになりました。


「どのくらい強いのかなぁ。 楽しみだなぁ」


「うっ、受け身は上手くなりましたよ」


 そう、受け身はできる。 受け身はだ。


「ちょっとその剣貸してくれるかな?」
 
 今日も当たり前のように背負っている剣を降ろすとミリアーナ叔母様に手渡した。


 よもや背中の重みがなくなって違和感を感じるようになるとは思ってなかったわ。


「兄上、この剣……」


「何か不都合あるかい?」


 にっこり微笑む顔が黒く見える気がする。 その剣何かあるの?


「全くないですねぇ。 あえて言わせてもらうなら将来が楽しみです」
 
 うむ、良くわかんないけどまぁいっか。


「それではご案内します」


 ミリアーナ叔母様の先導でレイナス一行が動き出した。


 暫くなんの変哲もない草原を進むと、また麦の畑に出た。 ドラグーン王国は年間の寒暖の差があまりなく、年間を通して麦を作っているとのこと。


 確か二毛作? 違うな二期作だったか。


 畑に降りて金色に色付いた麦穂を見るが、あまり身が入っていないのだろう。 収穫時期が近いはずなのに垂れ下がる様子もないような気がする。


「あのう、ミリアーナ叔母様。 麦なんですけど今年はあまりできが良くないのですか?」


「いや、豊作ではないけれど例年と変わらないはずだよ?」


 例年通りでこの実入りでは不作になれば直ぐに飢饉に繋がる。 ドラグーンのように大きな国で二期作が可能なら少しは対策もたつのだろう。


 しかしこれがレイナスのように寒暖の差が激しい地域では二期作も難しい。


 父様に視線を向ければ実入りを確認している。


「ドラグーン王国は国土も広く肥沃だから麦の実入りも良くて羨ましいよ」


 本当にこの状態で実入りが良いのか!?


「うちは国も小さくここまで良い麦は育たないからなぁ、輸入に頼らざるをえないんだよなぁ」
 

「あのう父様? ちなみに作付けってまさか土を耕して種を蒔くだけだったり?」


「他に何があるんだ? 大地の肥沃さは神の恵みだ。 流石に堅い地面では種を蒔いても芽吹かないからな」


 はぁ、まさかのラノベにありがちパターンと遭遇ですか。 絶対追肥してないし、輪作もしてないな。


「叔母様、結婚祝いに一つだけ宜しいでしょうか?」


「ん?なんだい?」


「ものは相談なんですけど、新しい農法試しませんか?」


「「新しい農法?」」


 

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