元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?
ほえ~、あの王太子殿下以外と力持ちだったのねー。
ミリアーナ叔母様を横抱きにしたまま颯爽と会場から去っていくクラインセルト王太子を見送り、先程までの大捕物にざわつく室内にパンパン! と二度ほど響いた音に目を向ける。
どうやら音は父様が玉座から立ち上がり掌を叩いた音だったらしい。
「皆騒がせてしまいすまなかった。 宴を続けてくれ」
鷹揚に告げた声にそれまで、騒ぎに止まっていた演奏が再開されると、殺伐とした空気が弛む。
しかし……。
「いやー、王女殿下はえげつないのぅ。 仮にも反逆者じゃから庇いはせんが、あれは……」
視線をあげるとなんとも言えない表情を浮かべて苦笑するロブルバーグ大司教様。
うん、まだ経験は無いけれどあれは痛いだろう。
まださち子だった時分に平均台を踏み外して見事に打ち付けたときはあまりの痛さに暫く動けなかったのを思い出した。
今回の捕縛者はクラインセルト殿下に直接刃を向けた男を含めて五人、会場から騎士達が目立たないように引き摺っていく。
「あーふ?(これでおわり?)」
「わからんの、まぁ陛下に任せておけば問題ないじゃろうて」
「あぶあーふ(まぁ出来ること無いしね)」
目の前で何事もなかったかのように繰り広げられる祝賀会は赤ん坊の身体では疲れてしまったのだろう、うつらうつらと眠気に負けて気が付けば柔らかな寝具の中で目を覚ました。
******
「王女殿下! お気をつけて!」
「ドラグーン王太子妃殿下万歳!」
寝起きと共にいつものごとく色違いの真っ赤なカボチャパンツ(マジでこれしかないの!?)に着替えさせられて、現在ドラグーン王国へと旅立つミリアーナ叔母様とクラインセルト殿下の出国見送りに正門まできていた。
昨晩の麗しい姫君はどこへやら、騎士服を改造したいつもの上下に身を包み、ミリアーナ叔母様は父様の前に深く頭を下げる。
うん、今日も叔母様は凛々しいです!
「ミリアーナ、レイナス王国の名に恥じぬよう。 誠心誠意クラインセルト殿下をお支えするように」
「レイナスの名に恥じぬよう努めて参ります」
「うむ、しかし無理はせず、何時でも帰ってきなさい」
「兄上……」
「きちんと食事は取るのだぞ? それから腹を冷やさぬように、それから」
「兄上! 私はもう子供ではありませんよ?」
どうやらよほどミリアーナ叔母様を嫁に出すのが心配なのか、なおもいい募ろうとする父様の言葉を慌てて遮った。
クスクスと漏れ聞こえる笑い声は優しさに包まれており、この兄妹が愛されている証かなと思う。
実質的にミリアーナ叔母様がドラグーン王国へ輿入れすれば、自動車も鉄道もないこの世界ではそう簡単に里帰りなど出来ないのは目に見えているし、誰よりもわかっているのは父様だろう。
「クラインセルト殿下、妹をよろしくお願いいたします」
ミリアーナ叔母様の一段下で家族の別れを見守っていたクラインセルトに声をかけて頭を下げると、倣うようにして家臣達も一斉に続く。
「必ず幸せにすると御約束いたします」
「じゃ! 行ってきまーす!」
輿入れのために用意された二頭立ての馬車に乗り込むと元気良く千切れんばかりに手を振って城門を潜るドラグーン王国王太子夫妻を見送る。
城と城下を隔てていた大きな扉が開け放たれると、わあっ! と歓声が城下から上がったのが聞こえてきた。
先導する騎士達に続き姿を現したミリアーナ叔母様の祝福に、沢山の民が駆け付けてくれた。
それは彼女が愛される姫君だという証だろう。
「行ってしまわれましたね……」
「ああ、相変わらず落ち着きのない奴だ。 まるで嵐のような嫁入りになってしまった」
寂しそうな呟きが聞こえ、目を向けるとリーゼが目頭をハンカチで押さえている。 父様が小さく震える肩口を抱き締めると愛しげに背中を撫でた。
「リーゼは俺とミリアーナのもう一人の母だからな、あのお転婆をここまで支えてくれてありがとう」
「はっ、はい。 微力ながら御二人にお仕えでき私は幸福者です」
「これからもシオルのことや色々と苦労をかけると思うがよろしく頼む」
「我が主の仰せのままに」
父様の労いに決意を新たに先程までとはうってかわり恭しく頭を垂れた。
「皆もこれからもこの国を支える力として私の補助を頼みたい。不甲斐ない王かも知れないが、よろしく頼む」
「我が主の仰せのままに」
自嘲混じりの懇願に家臣団が口を揃えて国を支えると誓ってくれた。 頼もしい限りでよかったよかった。
大国の王太子殿下ご訪問とミリアーナ姫の嫁入りは途中アクシデントはあったものの、滞りなく済んだ。
国内のミリアーナ姫の隠れ婿希望者は、かなり分かりやすく撃沈したものの、男装の姫君と大国の王太子の恋愛を題材にした本が発売されるやいなやあっという間にベストセラーになったそうな。
嫁いだ叔母様はさておき、事件はドラグーン王太子夫妻が出立してから数日後に起こった。
外交訪問の影響で滞り山積した国政を解消するべく、執務室に籠りがちになっていた父様の仕事が最近やっと本来の有るべき姿に戻ってきていた。
それまで何故か執務室にシリウス伯父様と引きこもり仮眠をとっていたのだが、ようやく自室へと戻って来ることができるまで回復したらしい。
目に見えて窶れていく様は、妻のお母様やリーゼさんが心配して執務室へと差し入れる軽食に睡眠薬でも一服盛ろうかと画策している最中だった。
いやぁ、いつか本当に盛るのじゃなかろうかとヒヤヒヤした。 なにせこの話をしているときのお母様は相変わらず美しく微笑んで居たけど、目が一切笑ってなかったのよ。
「あーうー……(怒らせないようにしよう……)」
そう心に誓いつつ、何時ものように赤ん坊の義務をこなして数日、父様がきちんと寝室で休むようになった。
脱走以来、寝室を移されてお母様と同室になったのだと思っていたけれど、どうやらこの国は夫婦同室が基本のようだ。
仕事に疲れた父様を自室にてお母様が迎え、同じ寝室で親子三人眠りにつく訳だけれども、どうやらすっかり忘れてしまっていた。
父様もお母様も現役バリバリの若人だと言うことを!
何時もよりも早めに仕事を切り上げて、親子仲良く夕食をとり、いつも通りに白湯で身体を清めて居間で父様に遊んでもらう(構い倒される)。
その後お母様にあやされて寝落ちしたまでは良かったのだ、うん。
夜中に物音が聞こえてベビーベッドで目が覚めたのが間違いだった!……
「」
「……、……」
うん? なんの声?
聞き取れないほどの小さな小さな声がして寝返りをうつ。
「……!?」
そろりそろりと天蓋付きのベットから忍び足でベビーベットへとやって来た人の気配に、咄嗟に寝たふりをした。
「……大丈夫だ。 ちゃんと寝てるよ……」
えっ、起きてちゃ不味い?
ベットを振り返り呟かれた言葉に、ついつい薄目をあけて声の主をみれば、見事に鍛え抜かれた裸体が!
うおう! 父様良い身体してますね! 前世の美術室にあったダビデ像どころか、鍛え抜かれた某ダンスユニット顔負けの胸板と腹筋に目が離せません!
「そ、そう。良かった……」
ベットの上から聞こえたお母様の声に、又顔を覗く為に動き出した父様に気付かれないように良い子のシオルちゃん(自分で言うな)は必死に寝たふりを続行中。
「だから大丈夫だって言っただろう?」
「……そうね……」
「リステリア……」
急に甘さを含みだした父様に一瞬にして凍りつく。 何だろう、急に雲行きが怪しくなってきましたよ!?
「アル……あっ……うん……」
「リステリア……愛してる……」
「私も……はぁん」
うぎゃー! 始まった! これは間違いなく前世で縁がなかったあれだ!
熱い吐息と甘い声、軋むベッドぉ~!
なぜ良い子ぶってしまったのか、寝たふりをしてしまったんだ私! 父様が裸だった時点でなぜ気がつかなかったんだ~!
その後すっかり覚めてしまった眠気を呪い寝たふりを繰り返し、時折覗きつつ営みが終わるまで堪能した私に言えること……。
父様は絶倫でした……。
ああ、空が明るくなってきた……さぁ寝よう……。
翌日スッキリした父様と気だるげなお母様にまぁ、夫婦仲が良いのは善いことだとおもったさ。
でも甘かった、スッゴク甘い希望的観測だったんだ!
それからと言うもの毎晩聞こえてくる悩ましい美声!
御免なさい! もう夜中に脱走しません! お願いだから、お願いだから自分の前の部屋に戻して~!
ミリアーナ叔母様を横抱きにしたまま颯爽と会場から去っていくクラインセルト王太子を見送り、先程までの大捕物にざわつく室内にパンパン! と二度ほど響いた音に目を向ける。
どうやら音は父様が玉座から立ち上がり掌を叩いた音だったらしい。
「皆騒がせてしまいすまなかった。 宴を続けてくれ」
鷹揚に告げた声にそれまで、騒ぎに止まっていた演奏が再開されると、殺伐とした空気が弛む。
しかし……。
「いやー、王女殿下はえげつないのぅ。 仮にも反逆者じゃから庇いはせんが、あれは……」
視線をあげるとなんとも言えない表情を浮かべて苦笑するロブルバーグ大司教様。
うん、まだ経験は無いけれどあれは痛いだろう。
まださち子だった時分に平均台を踏み外して見事に打ち付けたときはあまりの痛さに暫く動けなかったのを思い出した。
今回の捕縛者はクラインセルト殿下に直接刃を向けた男を含めて五人、会場から騎士達が目立たないように引き摺っていく。
「あーふ?(これでおわり?)」
「わからんの、まぁ陛下に任せておけば問題ないじゃろうて」
「あぶあーふ(まぁ出来ること無いしね)」
目の前で何事もなかったかのように繰り広げられる祝賀会は赤ん坊の身体では疲れてしまったのだろう、うつらうつらと眠気に負けて気が付けば柔らかな寝具の中で目を覚ました。
******
「王女殿下! お気をつけて!」
「ドラグーン王太子妃殿下万歳!」
寝起きと共にいつものごとく色違いの真っ赤なカボチャパンツ(マジでこれしかないの!?)に着替えさせられて、現在ドラグーン王国へと旅立つミリアーナ叔母様とクラインセルト殿下の出国見送りに正門まできていた。
昨晩の麗しい姫君はどこへやら、騎士服を改造したいつもの上下に身を包み、ミリアーナ叔母様は父様の前に深く頭を下げる。
うん、今日も叔母様は凛々しいです!
「ミリアーナ、レイナス王国の名に恥じぬよう。 誠心誠意クラインセルト殿下をお支えするように」
「レイナスの名に恥じぬよう努めて参ります」
「うむ、しかし無理はせず、何時でも帰ってきなさい」
「兄上……」
「きちんと食事は取るのだぞ? それから腹を冷やさぬように、それから」
「兄上! 私はもう子供ではありませんよ?」
どうやらよほどミリアーナ叔母様を嫁に出すのが心配なのか、なおもいい募ろうとする父様の言葉を慌てて遮った。
クスクスと漏れ聞こえる笑い声は優しさに包まれており、この兄妹が愛されている証かなと思う。
実質的にミリアーナ叔母様がドラグーン王国へ輿入れすれば、自動車も鉄道もないこの世界ではそう簡単に里帰りなど出来ないのは目に見えているし、誰よりもわかっているのは父様だろう。
「クラインセルト殿下、妹をよろしくお願いいたします」
ミリアーナ叔母様の一段下で家族の別れを見守っていたクラインセルトに声をかけて頭を下げると、倣うようにして家臣達も一斉に続く。
「必ず幸せにすると御約束いたします」
「じゃ! 行ってきまーす!」
輿入れのために用意された二頭立ての馬車に乗り込むと元気良く千切れんばかりに手を振って城門を潜るドラグーン王国王太子夫妻を見送る。
城と城下を隔てていた大きな扉が開け放たれると、わあっ! と歓声が城下から上がったのが聞こえてきた。
先導する騎士達に続き姿を現したミリアーナ叔母様の祝福に、沢山の民が駆け付けてくれた。
それは彼女が愛される姫君だという証だろう。
「行ってしまわれましたね……」
「ああ、相変わらず落ち着きのない奴だ。 まるで嵐のような嫁入りになってしまった」
寂しそうな呟きが聞こえ、目を向けるとリーゼが目頭をハンカチで押さえている。 父様が小さく震える肩口を抱き締めると愛しげに背中を撫でた。
「リーゼは俺とミリアーナのもう一人の母だからな、あのお転婆をここまで支えてくれてありがとう」
「はっ、はい。 微力ながら御二人にお仕えでき私は幸福者です」
「これからもシオルのことや色々と苦労をかけると思うがよろしく頼む」
「我が主の仰せのままに」
父様の労いに決意を新たに先程までとはうってかわり恭しく頭を垂れた。
「皆もこれからもこの国を支える力として私の補助を頼みたい。不甲斐ない王かも知れないが、よろしく頼む」
「我が主の仰せのままに」
自嘲混じりの懇願に家臣団が口を揃えて国を支えると誓ってくれた。 頼もしい限りでよかったよかった。
大国の王太子殿下ご訪問とミリアーナ姫の嫁入りは途中アクシデントはあったものの、滞りなく済んだ。
国内のミリアーナ姫の隠れ婿希望者は、かなり分かりやすく撃沈したものの、男装の姫君と大国の王太子の恋愛を題材にした本が発売されるやいなやあっという間にベストセラーになったそうな。
嫁いだ叔母様はさておき、事件はドラグーン王太子夫妻が出立してから数日後に起こった。
外交訪問の影響で滞り山積した国政を解消するべく、執務室に籠りがちになっていた父様の仕事が最近やっと本来の有るべき姿に戻ってきていた。
それまで何故か執務室にシリウス伯父様と引きこもり仮眠をとっていたのだが、ようやく自室へと戻って来ることができるまで回復したらしい。
目に見えて窶れていく様は、妻のお母様やリーゼさんが心配して執務室へと差し入れる軽食に睡眠薬でも一服盛ろうかと画策している最中だった。
いやぁ、いつか本当に盛るのじゃなかろうかとヒヤヒヤした。 なにせこの話をしているときのお母様は相変わらず美しく微笑んで居たけど、目が一切笑ってなかったのよ。
「あーうー……(怒らせないようにしよう……)」
そう心に誓いつつ、何時ものように赤ん坊の義務をこなして数日、父様がきちんと寝室で休むようになった。
脱走以来、寝室を移されてお母様と同室になったのだと思っていたけれど、どうやらこの国は夫婦同室が基本のようだ。
仕事に疲れた父様を自室にてお母様が迎え、同じ寝室で親子三人眠りにつく訳だけれども、どうやらすっかり忘れてしまっていた。
父様もお母様も現役バリバリの若人だと言うことを!
何時もよりも早めに仕事を切り上げて、親子仲良く夕食をとり、いつも通りに白湯で身体を清めて居間で父様に遊んでもらう(構い倒される)。
その後お母様にあやされて寝落ちしたまでは良かったのだ、うん。
夜中に物音が聞こえてベビーベッドで目が覚めたのが間違いだった!……
「」
「……、……」
うん? なんの声?
聞き取れないほどの小さな小さな声がして寝返りをうつ。
「……!?」
そろりそろりと天蓋付きのベットから忍び足でベビーベットへとやって来た人の気配に、咄嗟に寝たふりをした。
「……大丈夫だ。 ちゃんと寝てるよ……」
えっ、起きてちゃ不味い?
ベットを振り返り呟かれた言葉に、ついつい薄目をあけて声の主をみれば、見事に鍛え抜かれた裸体が!
うおう! 父様良い身体してますね! 前世の美術室にあったダビデ像どころか、鍛え抜かれた某ダンスユニット顔負けの胸板と腹筋に目が離せません!
「そ、そう。良かった……」
ベットの上から聞こえたお母様の声に、又顔を覗く為に動き出した父様に気付かれないように良い子のシオルちゃん(自分で言うな)は必死に寝たふりを続行中。
「だから大丈夫だって言っただろう?」
「……そうね……」
「リステリア……」
急に甘さを含みだした父様に一瞬にして凍りつく。 何だろう、急に雲行きが怪しくなってきましたよ!?
「アル……あっ……うん……」
「リステリア……愛してる……」
「私も……はぁん」
うぎゃー! 始まった! これは間違いなく前世で縁がなかったあれだ!
熱い吐息と甘い声、軋むベッドぉ~!
なぜ良い子ぶってしまったのか、寝たふりをしてしまったんだ私! 父様が裸だった時点でなぜ気がつかなかったんだ~!
その後すっかり覚めてしまった眠気を呪い寝たふりを繰り返し、時折覗きつつ営みが終わるまで堪能した私に言えること……。
父様は絶倫でした……。
ああ、空が明るくなってきた……さぁ寝よう……。
翌日スッキリした父様と気だるげなお母様にまぁ、夫婦仲が良いのは善いことだとおもったさ。
でも甘かった、スッゴク甘い希望的観測だったんだ!
それからと言うもの毎晩聞こえてくる悩ましい美声!
御免なさい! もう夜中に脱走しません! お願いだから、お願いだから自分の前の部屋に戻して~!
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