元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 案内された医務室は扉から訓練場の周りをぐるりと回り込んだ先に在りました。


 アルスさんは扉を数回軽く叩くと、返事を待たずに扉を開けて中に入っていく。


 アルコールのつんとした臭気が部屋を満たしている。


「失礼します。 先生いらっしゃいますか?」


 アルスさんの問い掛けに答える声がない。どうやらこの部屋の主は出掛けている模様。


 部屋に十基ほど設置されたベットのひとつにアリーシャさんを座らせると、大丈夫だと言うアリーシャさんを半ば強制的に寝かし付ける。


 医師の使う机の上にはこの世界の文字が書かれた羊皮紙が置かれていたけど残念ながら読めないんだよね。


 言葉が同じなんだから日本語表記でいいじゃんね?


「どれどれ……アルス殿、どうやら医師殿は王妃殿下の元へと向かわれたようじゃから儂が呼んでこよう」


 おっ! ナイスロブルバーグ大司教様!


「いや、しかし」


「気にする事はない。 シオル殿下の授乳の時間じゃからそのついでじゃ。 それにそちらのお嬢さんも一人で残されては不安じゃろう。 医師殿が来るまで付き添いを頼みたいのじゃよ」


 ニコニコと人の良い笑顔を浮かべてベットに横になっているアリーシャさんを見る。


 アリーシャさんも不安なのだろう。 無意識にアルスさんの服の裾を掴んでいたのだが、その事に気が付いて恥ずかしくなったのか、掛布を引き上げると顔を隠すように潜り込んでしまいました。


 うん、反応が可愛い。 女子力とはこう言う何気ない仕草も含めての名称なのかも。


 前世の私には出来なかった技術。


「判りました。 申し訳ありませんが、お願いいたします」


「任された。 医師殿を連れてくるまでお嬢さんから離れてはならんぞ?」


「はい」


 一応念には念を推す。 ここでアリーシャさんを害されては本末転倒だものね。


「ではシオル殿下行こうかの?」


「あぶあぶば!(いざ参らん父様の元へと!)」


「その前に王妃陛下の元じゃ」


「ぶー(はーい……)」


 取り敢えず重要参考人は確保した。


 リステリアお母様の私室へと向かっていると、途中でリーゼさんと出くわした。


 どうやら私を捜していたらしい。


「ロブルバーグ大司教様、シオル殿下のおしめを交換したくお預かりしたいのですがよろしいでしょうか?」


 おしめ……嫌だ……。


「あ~ま、あ~とぶぁ?(ロブルバーグ大司教様、リーゼさんにトイレに連れてってくれるように頼んでくれません?)」


「くっくっ! 解った解った。 リーゼ殿、試しにシオル殿下をトイレに連れて行ってみてはどうだろう?」


「はぁ、宜しいですが。 まだ早くありませんか?」


 まぁ、普通の子供って早くても一歳半年過ぎてからだもんね。


「まぁ、ダメもとじゃ」


「ダメもとですか……判りました」


 リーゼさんが了承するとロブルバーグ大司教様が私の身体をリーゼさんに手渡した。


「リーゼ殿はこれから王妃陛下の所へ行かれるのですかな?」


「はい、授乳の時間ですから」


「ならば王妃陛下の所に医師殿が行っているはずじゃ。 すまんが私の所へ回ってくれるように伝えてくれんかの?」


「ロブルバーグ大司教様の所へ? どこか具合でも?」


「いやいや、儂も歳だからのぅ。 色々とガタがきとるんじゃよ」


 ガタが来てるようには見えませんがね。


「判りました。 大司教様はこれからどちらへ?」


「儂は陛下の執務室へ向かう」


「お伝えしておきます」


「あば!(よろしく!)」


 私の赤毛をくしゃくしゃと撫でるとロブルバーグ大司教様は執務室方面へと消えていった。


「ではシオル殿下、ダメもとでおまるに座ってみましょうか?」


「あい!(はーい!)」


 おまるかぁ……羞恥プレイは変わらないけど、オシメよりましかな、うん。


 あっちは任せた! 大司教様ならきっと上手くやってくれるだろう!

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