元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 昼間とは違い静まり返った城内は散策するには中々の雰囲気を醸し出している。


 見上げる視線には何処までも続く暗い通路。ここまで来て怖気付けませんよね!?


 懲りずにローリングを繰り返して、巡回の光が見えたら壁と床の境目に張り付くと、足元までランプの光で照らしても、気がつかないで通りすぎていく。


 う~ん、うちの国あんまり裕福じゃないのは知ってたけど、夜中に通路に灯りがないのは働く人達には辛いんじゃないかい?


 経費削減で護衛対象が脱け出しても気が付かない、もしくは通路に転がってて気付かないのは警備上まずいでしょ。


 暗がりを進むと小さな声が聞こえてきた。高めの声は女性のものだろうか。


 夜更かしか、夜勤巡回の侍女かと思い近くに設置されたテーブルの下に一応隠れる。


「クラインセルトは見付かったか!?」


「まだよ。 自室に戻られたはずだけど」


 なになに?


「レイナスは守りが薄い、外遊中に仕留めろと命が出ているんだ。 探せ!」


 小声で話してますけど足元にいるからバッチリ聞こえですよ?しかし内容が物騒だなぁ。


 仕留めるってドラグーン王国の王子殿下を暗殺でもしようってか?


「母は無事なのでしょうね!?」


「それはお前次第だ……」


「そんな……」


「さっさと探しだして案内しろ!上手くやれば母親は解放してやる」


 涙声でその場にしゃがみこんだ侍女に焦ってもっと後ろへ下がる。


 絶対にここで見つかれば始末される可能性が高いだろう。 そうなればこの姿じゃ逃走は無理だ。


 顔は見えないが胸元まで見える。長い黒髪の巻き毛の女性だ。
「わかったわ、少しだけ時間を頂戴……御願い!」


 よろよろと立ち上がったかと思うと、女性が男に詰め寄った。
「良いだろう。明日の夜まで待ってやる」


 それだけ告げると男は何処かへ去っていった。


「お母様……」


 うわー、これかなりの外交問題一歩手前の状況じゃない?


 今のやり取りって明らかにあのキラキラ物好き王子の暗殺狙い確定だよね。


「早く捜さなきゃ」


 そう言うと鼻をすすって涙を拭うと侍女がテーブルから離れていく。


 パサリと目の前に落ちてきた布を急いでテーブルの下へと引きずり込む。


 どうやら女性は落とし物をしたことに気が付いていないようでその場に戻っては来なかった。


 ラッキー! よっしゃあ物的証拠ゲット!


 まだ思い通りに動かない短い指を四苦八苦しながら使って寝間着の懐へ仕舞い込む。


 持ち主が分かればさっきの話の先手を打てるかもしれない。
 幸い今レイナス王宮にはロブルバーグ大司教様という最強の通訳がいるのだ。


 たぶん彼なら私の証言も信じてくれるような気がする!


 寝返りを繰り返して部屋に戻る途中、窓から空を見上げると日の出が近いのだろう。光度を取り戻し始めていた。


 やばい! 早く戻らないとバレる!?


 気持ちは最大限に焦りつつローリング! 悲しいかなスピードアップを図れば目眩が、くっ! あと少し!


 部屋に近い曲がり角に差し掛かると案の定人が集まっています。 


 はぁ、遅かったか。 仕方ない笑って誤魔化そう。 うん、それしかない!


「シオル殿下はどこだ!? 曲者が紛れているかもしれない!」


「手分けしてお探ししろ!」


 目の前をバタバタと近衛やら侍女が走っていく。


「あぁ、シオル、シオル~!」


 ヤバイ、リステリアお母様マジ泣きさせてしまったようです。 
 青ざめながら床に座り込むようにして泣き伏すお母様の肩を父様が抱き締めながら背中を擦っている。


「リステリアすまない、シオルは必ず捜しだすから」


「うっ、あなた……」


 生後半年で早速親不孝してご免なさい。


「あ~う……(盛り上がっとる……)」


 出ていきづらいわぁー。 小さく声を出すと、それまでうつむいていたお母様が顔を上げでキョロキョロと忙しなく周りに視線を走らせた。


「シ、シオル? あなた! 今シオルの声が!」


「なに!? どこから」


 父様もキョロキョロしてますよ。 そんな中先に私を見つけたのはお母様でした。


「あっ! シオル~!」


 父様を振り払うように立ち上がり、体勢を崩しながら私のもとへ駆け寄ってくる。 


「シオル、シオル! 怪我はない?」


 お母様に抱き上げられると、腕の中でくるくると全身を回しながら怪我の有無を確認された。


 うわっ! 寝間着めくって確認しないで下さいよ! オムツの中も無事です。 大丈夫です、お母様! 怪我はないですから!


「よ、良かった。無事ね。 あなた一体どこに行ってたの?」


 全身くまなく脱がせる勢いで確認を終えると、ほっとしたように問い掛けてきました。


「あーうー(ごめんなさい)」


 心配をかけたのは確実なので伝わらないのを覚悟でお母様に手を伸ばして笑いかける。


「あなた、シオルの寝室ですが」


「俺とリステリアと同室に移動しよう」


 迷うことなく断言すると、父様がテキパキと侍女や使用人に指示を出してベビーベッドを運び出していく。


「シオル、今日は親子三人で一緒に寝ましょうね?」


「あーう(はーい)」


 元気よく返事をしたものの、後に私は後悔するのだ、今日この時を。



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