元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

「んあー(あ~あ、よく寝た)」


 ベビーベットから起き上がり廻りを確認。


「あーう! (おはようございます!)」


 声を出して自己主張してみたもののどうやらまだ誰もいないようです。


「ぶー……(う~ん、困った……)」


 この状況で今の赤ん坊のまま出来ることはなんでしょう?


 その一、誰か来るまで良い子で二度寝する。


 その二、ベビーベッドから脱走。


「あーう! あう(その二! 脱走)」


 そうと決まれば脱走でしょう。 幸い赤ん坊用のベットには転落防止用の柵がついてますが、まだ寝返りと少しの移動しか出来ないと思っているミナリーは柵を低く設定していったもよう。


 脱走してくださいって言ってるようなもんでしょ、これは。


 カーテンが引かれているとは言え、陽の光が差し込まない所を見るとまだ夜明け前。 この世界には電気も無いため部屋は暗い。今更ながらに電気の偉大さを痛感しますよ。


 夜遅くまで読書やネットサーフィンに興じられたのって先人達の功績有ってこそだったのね。


「あふあふあ(よし見えてきた)」


 慣れとは凄いです、数回ぱちぱちと瞬きを繰り返しているうちにぼんやりと周りが見え始めるんですもん。


 夜目ってこういう見え方をするんだなぁ、はじめて知ったよ。
 暗い空間に黒い物体が点在している。 それが家具なのは日中の記憶と照らし合わせればわかる。


 ベビーベッドは子供部屋の中央に設置されているし、転落しても怪我をしないように配慮されて周りにはクッションや毛足の長いふかふかの絨毯が敷き詰めてあるはずだ。


「あーうあーう(怖くない怖くない)」


 柵から下を覗くと、以外に高い。 七十センチ位の高さだと思うけど、やっぱり高いわ子供目線だと。


 ゆっくりと足から先に乗り越えると、重心が入れ替わりそのまま絨毯へダイブ! くっ! 痛い! 背中と尻を打ったぞ。


 でも泣きませんよ? 泣いたら苦労と痛い思いが無駄になるじゃあーりませんか。


 幸い、落ちた衝撃は絨毯とクッションが概ね吸収してくれたので落下音も響かなかったし。 上出来でしょう! 痛かったけど(泣)


 さてベットから脱出成功、実は自力での移動が可能になって以来、色々と室内や見廻りの間隔を確認済み。


 ちなみに私は夜泣きも、離乳食のお陰で飲まなくても大丈夫ですよワハハ!


 夜に起きたら気配が分かるように少しだけ開けられた扉まで移動すると、燭台に灯された明かりがテーブルにうつ伏せでミナリーを照らしている。


 こりゃ完全に爆睡しているようだ。 規則的な寝息が静かな室内に響く。


 今日のシオル様係はどうやらミナリーのようだ。


「シオル様~、もっと食べないと恰幅が良い紳士に育ちませんよ~……ぐぅ~」


 なんだ寝言かぁ、驚かせないでよ。 ってかまだ諦めてなかったんかいシオル様理想の殿方化計画。


 ミナリーの理想の男性、それは前世で言う相撲取りタイプ。男性に産まれたからには、折角なら父様みたいなごりマッチョ系かシリウス伯父様みたいなインテリ系が良いかなぁ。


 一見細身で脱いだら凄いですってのも良いかもしれないけど、折角だし、THE男って感じになってみたい。


 ミナリーを起こさないように最短距離をローリング寝返りで部屋の奥へ。


 実はこの奥に小動物が出入りしていただろう古い出入口があるのだ。出入り口だと解らないように壁に偽装されているけど回転式の扉になっているようなのだ。忍者屋敷かいこの城は!


 こっちにいるかわからないけど小型犬や猫が出入り出来るくらいの大きさがあるそれは幼児では無理でも赤ん坊には脱け出せちゃうんだなこれが。


 なぜ知ってるか、フフフッ。 寝返り練習中、壁にぶつかったときに壁が動けば気づくでしょ。


 穴に頭を突っ込んで廊下を確認しようとしたら、目の前に革靴が降ってきた! あぶなー、踏まれるとこだった!


「お疲れ様、異常はないか?」


「おっ、交替か? ありがてぇ。 シオル殿下は問題なしだ。 さっきミナリーが確認したときはすやすや良く寝ておられたよ」


 部屋の入り口を守っていた近衛が話している声を盗み聞きする。


「そうか、シオル殿下はきっとアルトバール陛下のようにこの国を良いように導いていってくれるはずだ。 健やかに育って欲しいな」


「そうだなぁ、リステリア陛下が嫁がれてきてからやっと授かった大事な王太子殿下だ、何かあっちゃまずい」


「しかしなぁ、アルトバール陛下の子煩悩振りには驚いたな」


「それな、隙をみて陛下が執務を脱け出すもんだから、宰相閣下がいっそアルトバール陛下の隣にベビーチェアを用意してシオル殿下を座らせようと画策してるらしいぞ?」


 はい? 何だって?


「はははっ! 宰相閣下ならやりかねんな、誰情報だよそれ」


「執務室担当の侍女。 俺彼女と結婚すんだ」


 お~! おめでたい!


「結婚だ? めでたいがよく家が許したな?」


 まぁ、自由恋愛が主流だった前世みたいにはいかないわな。 げんにミリアーナ叔母様もドラグーン王国の銀髪王太子殿下との婚姻はもはや避けられないだろうし、御破算になるとすればドラグーン王国が婚約を白紙に戻したときだろう。


「愛の力で反対は乗り越えたさ。まぁ、御互いに婚約者が居たからちょっと揉めたが」


「お前の婚約者って子爵家の長女だっけ?」


 えっと~確か、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士爵だったかなぁ、元農家と兼業サラリーマン家庭生まれの私としてはあんまり馴染みが無いが、確か順番的にそんな感じだとおもう。


 子爵だと確か四番目だったよね。


「そう、俺は伯爵家だけど三男だからさ。家督継げるわけでもないし、彼女の家は男児居ないから婿に行くのよ、俺自身は騎士爵しか持ってないしさ」


 お婿さんですか、頑張れ!


「そうか、じゃあ独身の内に花街連れてってやるよ」


「ははは、まぁ期待せずに待ってるさ。 後は頼んだ!」


「おぅ!ゆっくり休めな」


 どこか幼さの残る近衛の兵士さんが任務を変わると通路の暗がりへと消えていった。 さて行動開始の好機ですよ。


 もぞもぞと穴から這い出すと、そのまま寝返りで通路の暗がりへとローリング寝返りで初の夜間放浪しゅっぱーつ!
 

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