元喪女に王太子は重責過ぎやしませんかね!?

紅葉ももな(くれはももな)

 ひとまず今分かる事を整理してみようと思います。


 まず日本語と同じ言語を話しているようなので言葉には不自由せずにすみそうです。


「陛下、早急に御祝いの準備をいたしませんと!」


 目の前で陛下と呼ばれているアニメに出てきそうな赤髪に琥珀色の瞳のごりマッチョはアルトバールと言う名前の父親らしい。


「あなた、もうこの子の名前は決めてありますの?」


 私を抱いたままアルトバールに声をかけている金髪の超絶美女が母親らしい、名前をリステリアさん。


「あぁ色々調べて悩んだが、レイナス建国の初代国王陛下から頂くことにした」


 キラキラとした瞳で私の頭を撫でる。


「お前の名前はシオル・レイナスだ」


「シオル・レイナス」


 はい、新しい情報が一つ増えました。 新しい名前はシオルちゃんと言うそうです。


「あぶー」


「返事をしたわ! 気に入ったようですわね」


「ふにゃー」


「あらあらオシメかしら、それともミルク?」


 んー、漫画やアニメ、小説等大好物な私の推測だと、現状を表現できる単語が一つ。


「さぁさぁ交換しましょうね。 リステリア様、シオル様を」


 転生、しかも異世界。


「リーゼ、お願い」


 リーゼと呼ばれた体格の良い女性に私を抱き渡すと、リーゼさんはすぐに私を子供用の柵のついたベッドへ寝かせ、てきぱきと布製のオムツをはずしに掛かった。


「ふんにゃー! ふんにゃー! (ちょっ! なにする気!)」


「ハイハイ、直ぐに気持ちよくなりますよー」


 生を受けて二十八年、前世の記憶と思考回路が両足を持ち上げられて下の世話をされなければ生きていけない無情な事態に私は力の限り抵抗を試みる。


 いかんせん赤子の、それも新生児の身体では抵抗することも儘ならない、スルスルと手際よく解かれたオムツがはだけた次の瞬間あるはずがないものが視界に映り眼を見張った。


 それは女で喪女であったさち子の時には二十八年間縁の無かった物。


「ふみゃー! (嘘だといって~!)」


 転生による人生やり直し。 しかも“男”として……!? 嫌~!


「えっ!? ちょ!? リステリア様! アルトバール様! シオル様が!?」


「何があった!?」


 この二度目の生を受けて、度重なる精神的ダメージから私は意識を手放した。


「シオル! シオル! アルトバール! シオルが!」


 リステリアはこれまでの人生で一番の動揺をみせながら必死に自分の夫であるレイナスの国王にすがり付く。


 貴族の常として政治的に結ばれた婚姻だったが婚礼後の夫婦仲は非常に良好で、直ぐにでも後継ぎに恵まれるだろうと言う国民の期待を裏切り中々吉報はもたらされなかった。


 長年待ち望んでもなかなか妊娠の兆しが得られず世継ぎを望む臣下や民の為に、最愛の人へ側室を迎えてくださいと涙ながらに訴えたこともあった。


 それでもアルトバールは側室を迎えることはなく、焦らなくて良いと慰めてくれる。


 結婚してから二年、やっと授かり数時間前に命からがら産み落とした我が子が意識不明に陥ってしまったのだ。


「大丈夫だ! 直ぐに医師を呼べ! リーゼ!」


「はっ! はい!」


 大きな身体を揺らして、躓きながら駆けていくリーゼの代わりに騒ぎを聞き付けた助産師達が部屋に駆け込んでくる。


 産後の疲労で動かない身体でベッドから立ち上がるが、バランスを崩してから床に倒れ込む。


「危ない!」


 リステリアの身体を抱き止めたアルトバールと助産師の手によってベッドに戻されてしまった。


「シオルは! シオルの容態は!?」


「ご安心下さいリステリア様、 シオル殿下は少しお疲れになられたのでしょう。 産んだリステリア様同様に環境の目まぐるしい変化に、疲れてしまわれたのかも知れません。 呼吸も安定されておられますし、直ぐに眼を覚まされますよ」


「ほっ、本当ですか、良かっ……」


 無理に動いたせいだろうか、グラリと傾いだリステリアの身体を抱き締めると、アルトバールはゆっくりと支えながらベッドへと寝かせてくれた。


「大丈夫だ、シオルは俺に任せて今はゆっくり身体を休めてくれ」


 真剣な顔をしてリステリアに言い聞かせると、ふと表情を和らげて、アルトバールはリステリアの唇に軽い羽毛のようなキスを落した。


「リステリア、素晴らしい宝物をくれてありがとう」



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