『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

第四十七話『主従決戦』フォルファー視点  

 ソレイユ殿と入れ代わり立ち代わり目の前で円環状の武器を操る戦士へと攻撃を加えていく。  

「フォルファー、今は目の前のこいつに集中しろ。 カイザー殿下ならそう簡単にやられたりしないさ」

 ソレイユ殿が上半身へ斬りかかる動きに合わせて下半身狙いに長剣を打ち払う。

 この目の前の戦士とこうして剣を交えて戦うのは二度目だ。
 
 ローズウェル王国の宝物庫に保管されている筈の宝飾品が父上の治めるドラクロア領内で見つかった事が発端だった。 

 元々ローズウェル王国の王姉だった母上が開催した茶会で貴族の御婦人の装飾品に見覚えが合ったことで宝物品が流出しているのではと気が付いたのだ。

 どうやら屋敷へやってきた宝飾を扱う商人から買い取ったらしいのだが、内密に事情を説明した所、王家へ品物の所在を確認することに了解を頂けたため母上が買い取りセオドア陛下へと献上したのだ。

 どうやらこの商人は他にも数点貴族家に宝飾品を売買していたようで、その足取りを調査した際に取引があったと思われる貴族家に関しては母上が品物を確認して見覚えがあるもののみ買い取った。

 直ぐに母であるセイラと一緒に王都へ赴き、母上とは別行動をしながら城下町で色々と情報を集める。

 幸いと言って良いのか、この顔は女性に好まれるため街を歩けば向こうからかってに寄ってくる。

 「君のエメラルドのような瞳は吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だね」

 にっこり挨拶代わりに微笑めば、顔を真っ赤にして色々と情報を自主的に提供してくれるから楽だ。

 その中にブラッシュ子爵のご令嬢がおり、見せびらかすように子爵家の家格にはまるで似つかわしくない宝石を使用した髪飾りをつけている。

 数度の交流の末に事前に用意した髪飾りをプレゼントすると言う状況を作り出してどさくさにまぎれて髪飾りを手に入れ母上に確認して頂いたところ、やはり貴重な宝石を使用していたらしい。

 そう……ローズウェル王国から遠い国でしか採掘されない宝石で産出量を国が管理しているため流通が限られローズウェル王国で現存が確認されているのは旧グランテ王が国庫を投げ打ち手に入れた宝飾品のみ。

 ローズウェル城へと登城し、母上がシャイアン王妃とお茶会をした時も、シャイアン王妃の様子に何ら変わりがなかったらしい。 

 この件に関わりがありそうなブラッシュ子爵について色々と調べたところ、ブラッシュ子爵は現在、ローズウェル王国の保有する装飾品の宝物庫
の管理を任されているらしく、何やら忙しそうにしている所に身分を伏せてブラッシュ子爵に近づき宝飾品を見せると、ギョッとした様な顔をして周囲を確認したあと私を連れて近くにあった部屋へと引き込んだ。

「コレの件、どうなさるおつもりか」

「いい加減にしないか! 既に陛下の耳に触れた以上宝物庫盗難事件の疑いの目がこちらに向く前に早く逃げなければ縛り首になるんだぞ」

「今動けばかえって怪しまれます」

「しかし、宝物庫に宰相の手の者が入った。 グラスティア侯爵の指示で勤務予定者の移動を融通していたのが発覚するのも時間の問題だっ!」

「尻尾(実行犯)は始末(確保)して有りますから、尻尾から我々(ドラクロア辺境伯)にたどり着くことは無いでしょう」

 我ながら伏せ字だらけで呆れるが、私にとって嘘は言っていない。

 ブラッシュ子爵は信じるべきか判断出来かねて居るのだろう、不安なのか視線が泳いでいる。

「それは……」

「ですから(貴方の共犯者がでてこなくなるから)怪しまれる行動を慎んで(囮は)政務にお戻りください」

「ふん、私が捕まればそなたも同罪。裏切ればどうなるかわかっておろうな?」

「えぇ、それはもちろん(わたしは悪いことしておりませんから)」

 裏切ればどうなるか……まぁこれは消してやると言う脅しだろう。

 ブラッシュ子爵を送り出したあとリシャーナ妃殿下と遭遇したり、盗難事件の犯人扱いされて一時的に貴族向けの地下牢に入れられたりしたが、陛下に内緒で母上も一緒に登城していたため直ぐに解放されることになった。

 牢屋で母上が来ていると知った時の陛下の慌て具合は素晴らしかったからな。

 程なくルーベンス殿下はリシャーナ妃殿下と共に再教育のためドラクロア辺境伯領への留学がきまった。

 その事実にシャイアン王妃殿下はかなり取り乱されたようだが、渋々ルーベンス殿下をドラクロアへ行かせることを承諾されたらしい。

 母上がドラクロアへ帰領される際にルーベンス殿下一行も一緒に出発されると言うので、お見送りの為に母上に同行したのだが、そこで再会したのがカイザー殿下だった。

 幼い頃に命を狙われる事が多かった第二王子がダスティア公爵家に女装で匿われていた事があり恥ずかしながら女装姿のカイザー殿下に一目惚れし、その場で告白まがいまでした私はすぐさまフラれ撃沈した。

 相手が男性だと知ってからも、何らかの形で側に居たい。

 そんな感情に蓋をして、陛下からくだされた命令に従事する。

 ブラッシュ子爵を罪人として秘密裏に拘束したロベルト宰相は自宅であるダスティア公爵家から数点の宝飾品を取り寄せて、ブラッシュ子爵を尋問した際に証言した言にのっとりその宝飾品の受け渡しの監視に私を向かわせた。

 どうやら受け渡しは城下町の中でも王都をぐるりと囲む外壁に近い宿屋件酒場らしい。

 受け渡された宝飾品は複数の商人の手から手へと渡っていき、行き着いた先はローズウェル王国とフレアルージュ王国、ゾライヤ帝国三国の緩衝地帯だった。

 国内までならば追跡は容易だが、現在戦時となっているフレアルージュ王国やゾライヤ帝国の国土に武力をもって立ち入れば、ローズウェル王国も争いに加わる事になる。

 三角地帯でそれまで運び屋だった商人が宝飾品を手渡した相手、それが目の前で戦っているこの男だ。
 
 あの時は見慣れないこの円環状の武器や舞うような動きに翻弄されて、手も足も出ずにやられてこの男は颯爽と去っていったのだ。

 そう、私はもうこの男に負けるわけにはいけないんだよっ!

 ソレイユ殿と連携を図りながら攻撃を繰り返すが、二人がかりでも中々攻撃が通らない。

「フォルファー、一度下がれ!」

 ソレイユ殿が上体を低く沈めて足元に一閃を放つと、バク宙を決めるように避ける。

 下がれと言われて距離を置いてみれば戦士の足取りは常にポンポンと、飛び跳ねるような足捌きをしているのだ。

 くるりと回転を加える時もあまり踏み込みは強くない分速度が早く、ソレイユ殿の剣戟を受けてその力を回転速度に変換しているようなのだ。

 そしてその回転は常に私から見て右回転……それならば!

「ソレイユ殿!」

長剣を構えて走り出し戦士へ肉薄する寸前でソレイユ殿に声を掛けて左脇へ横から長剣を繰り出せば、素人であれば見逃す可能性があるレベルだが、それまでの動きが嘘のように崩れる。

 そう、私もソレイユ殿も右利きとなる為どうしても右からの攻撃が主流となる。

 重量のある長剣は片手で持ち上げる事はできても、振り回されずに武器としての殺傷力を持たせて扱おうとすればどうしても両手で取り回すようになる。

 日頃から長剣を素振る型の動きは訓練するし、実戦形式で両刃を切れないように潰した剣で対人訓練も行っている。

 重さに振り回されずに取り扱う技術は目の前の戦士のように武器に振り回されながら戦う相手には不利だ。

 特に右手が利き手となる相手と向かい合った状態で左から斬りかかるとどうしても威力がおちる。

 そして目の前の戦士は自分が受けた攻撃力を回転して受け流してしまい、右からの攻撃は効きにくいのだ。

 やはり向かって左半身を狙った攻撃は苦手なのか戦士の反応が鈍い。

「ふっ!」

 続けざまに左側を狙って攻撃を繰り返せば少しずつ後退していく。

 気取られないようにしているが、確実に左側を庇っている。

 足……いや違うな、下半身を狙った攻撃は比較的軽やかに躱している。

 武器を操る姿を確認しても綻びは感じられなかった事を考えれば腕も手も違うだろう。

 となれば……

「せいっ!」

 持っていた短剣を左眼の死角となる場所へ投げつければ、明らかに回避速度と回避距離が増えた。

「ソレイユ殿、やつは右目が見えてない!」

「あぁ見ていて分かったよっ!」

 普通なら両手で扱う武器を片手で左から右へ振り払うソレイユ殿からバックステップで逃げる戦士を二人で追い詰める。

「くっ、追い詰められたか」

 壁と壁の隅に追い詰められて回転を使えなくなった戦士を二人で取り囲む。

「素直に投降せよ!」

「お前達の命令など聞くつもりはない!」

 至近距離で円環状の武器をこちらへ投げつけて両腰に携帯していた半月型の短剣でこちらへ距離を詰めると、体の前で交差させた短剣で攻撃を仕掛けてくる。

 それまでの大振りな剣舞ではなく、無駄を排除した研ぎ澄まされた刃のように鋭い動きで一気に距離を詰めて迫る。

「フォルファー止めろ!」

「ぐっ、うらぁぁあ!」

 ソレイユ殿ではなくこちらのほうが倒しやすいと判断したのだろう、私だってもし相手が自分かソレイユ殿だったら自分に行くだろう。

 正面から、その刃を必死で受け止め、その強い力をにズリズリと後退を余儀なくされたながらも耐えているうちに戦士の死角から背後に回ったソレイユ殿が戦士の首の後ろに長剣の柄を叩き込む。

「お前にはまだまだ遊……聞かなければならない事がたくさんある、大人しく寝ていてもらおうか!」

 戦士の意識を刈り取って満足そうにしているが、貴方今遊ぶっていいかけませんでした?

「とりあえず意識が戻ってもこれ以上動けないように縛っておきましょう」

 ソレイユ殿は機嫌がいいほうがありがたいのでおもちゃ認定されたこの戦士を哀れに思いながらも私は戦士を喜々として縛り上げるソレイユ殿を止めることはしなかった。 

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