『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
第三十七話『俺は田舎でスローライフをおくりたい』ルーイ視点
俺ルーイ・ローズウェルは物心ついた時には既にローズウェル王国とレイス王国、ドラグーン帝国の国境に隣接する辺境で暮らしていた。
両目は見えずとも聴覚や嗅覚は他の人よりも優れたようで、雑多な臭いの強い都会よりも空気の澄んだ辺境の方が体が楽だった。
常に人に囲まれ気を張り続けなければならない暮らしが嫌だからと、俺の目が見えない事が発覚した頃に、会ったことすらない俺の両親にさっさと王位を譲渡し、退職金をたんまりせしめて楽隠居を決め込んだ祖父母と共に暮らしている。
「あれま、ルーイ様ってばまーたこないなところで昼寝して、風邪ひぎますよ?」
訛の強い言葉遣いで話しかけてきたのはこの平民の屋敷より気持ち広い屋敷で働いているメイドのひとりだ。
屋敷には国王時代からの腹心だった執事長と侍女長、親子の料理人が二人とその妻と娘メイド、農夫兼庭師の家族が三人、通いの馬丁が一人いて祖父母と私の世話をしてくれている。
「ん、リラかおはよう、今何の刻だい?」
「さっきだ六の鐘が鳴っただよ」
日が登ってから暮れるまでに七回、時を報せる鐘が鳴る。
「もうそんな時間か」
ムクリと身体を起こして近くにあるはずのステッキを捜せば、気を利かせたリラが俺の手に持ち手を握らせてくれるのだ。
「そろそろ戻らねば晩飯食いそびれるべ」
「ふふふっ、リラは食べることが好きだからね」
俺の手を自分の肩に乗せて先導して歩き出したリラに着いていく。
「お屋敷のご飯はうまいかんね、父ちゃんが今夜は鹿肉だって言ってたんよ、だから早く帰るべ!」
いつも明るくて負けず嫌いで裏表がない良心の感の塊みたいな幼なじみのリラとリラの母親を祖父母はいたく気に入っている。
そしてリラの父親と弟は我が家の料理人と見習いとして働いてくれているのだ。
祖父母はこの田舎に越してくる際に、伴を二人しか連れてこなかった。
しかも二人が元国王夫妻だと知っている執事長とメイド長は現地で雇ったリラ達一家や、庭師一家、馬丁に祖父母の身分も俺の立場も話していない。
リラが俺や祖父母へ様を付けて呼ぶのは単に雇い主だからだ。
「ルーイ様石があるからひだりさ避けるよ」
このあたりで親しまれている歌を鼻歌交じりで奏でながら進むリラの歩幅は常に一定だ、
メイドとしての仕事中は自在に歩幅を変えてくるくるとよく働居ていることは、足音ですぐにわかる。
軽やかで楽しげで、弾むような足音で彼女が来るとすぐにわかる。
ときおり屋敷内を走って侍女長に叱られて落ち込むこともあるけれど、ひたむきに生きるその姿に惹かれるようになるまでそう時間は掛からなかった。
「お祖父様お祖母様、リラと生涯を共にしたいと言ったらどうしますか?」
夜も深まり使用人たちそれぞれが割り当てられた自室へ下がったあと、俺は今の自分の気持ちを素直に伝える事にした。
執事長の話によれば、昔身分の違いの恋に夢中になり平民の女性をダスティア公爵夫人として迎えることを許したらしい二人なら、俺とリラを祝福してくれるのではないかとおもったのだ。
「駄目だな」
「だめねぇ」
しかし二人から帰ってきた返事は否だった。
「なぜですか!?」
「なぜって、リラちゃんを見ていればわかるわ。 あの子貴方を弟としてしか見てないもの」
「だよな、共に生きたいとお前は言ったが、リラちゃんにその気持ちは伝えたのか? 伝えてないだろう?」
問いかけではなく断定されて動揺する。
「目の事や身体が弱いこともあって甘やかし過ぎたか、自分の恋愛すら人任せにするよな軟弱者にリラちゃんは嫁にやれんのぅ」
「そうですわね、働き者のリラちゃんはルーイにはもったいなさすぎるわ」
すき放題言われているが、図星過ぎて否定できない。
目が見えない自分では他の男達のように働いて収入を得るのが難しいかもしれない。
歩き慣れた身の回り位なら移動できるが、杖や案内が無ければ移動すらままならないのが現実だ。
「わかりました、まずはリラに伴侶候補として……男として認めて貰うことから始めればいいのでしょう! やってやりますよ!」
気合を入れてから早数年、俺をヘタレだとあざ笑い、父親そっくりだと言った祖父は亡くなり、それでも今だに思いを伝えることすら出来ていない俺です。
ぬるま湯のようなふたりの関係のままでもいいかも知れないなんて思っていた当時の自分を殴ってやりたい。
平和だった俺の日常は突如やってきた複数の襲撃者によってもろくも崩れ去ったのだ。
「王子を捕らえろ! 王太后を捕らえろ!」
混乱に陥る屋敷内で真っ先に俺のところまでたどり着いたのはリラだった。
「ルーイ様、はやく隠れるだーよ」
「どうして来た! お前だけでも逃げてくれ!」
この不自由な目では素早く逃げるなどできるはずが無い、幸い襲撃者は俺を捕らえようとしているようだし、すぐに殺される事はないだろう。
「ぜったいにルーイ様を置いて逃げるなんておらはしない!」
急かすようにクローゼットへと押しやるリラの身体を反転させて抱きしめる。
俺よりの頭一つ分小さなリラの頭に右手を置いて手のひらを滑らせるようにして頬に右手を置く。
「リラ、いつもお前に助けられてばかりの俺だけどな、こうゆう時くらい男として愛するお前を守らせてくれ」
「は……? えっ!?」
「お前は俺の弱点なんだよ、だから逃げてくれ、な?」
右手の親指で唇の位置を確認してゆっくりと距離を詰めれば、小さく震える柔らかな感触に心が満たされた。
珍しくもすっかり稼働停止してしまったリラをクローゼットへ入れる。
リラは停止したら復活するまで少し時間がかかるのだ。
壁伝いに廊下へ出ればすぐに周りを囲まれてしまった。
「ルーイ・ローズウェルだ、屋敷の者たちに手を出さないでもらいたい」
すぐに半ば引きずられるような速度で連行され、階段から何度か足を滑らせて支えられながら屋敷の外に引き摺り出される。
どうやら抵抗したらしい使用人の男達は傷を負い、お祖母様は人質として囚われたようだ。
「ルーイ殿下、シャイアン王妃陛下のご命令でお迎えに上がりました」
声からしてリラの父親との同じくらいの年齢だろうか、こちらをバカにするような気配を隠しもしない男の声に腹が立つ。
「こちらは用などない! お祖母様を解放しろ」
「そうは行きませんなぁ、こちらとしても王妃陛下のご命令です。 手荒な手段となり申し訳ありません」
「申し訳ないと思っているならば、お祖母様はお歳のせいもあり長旅には耐えられん! お祖母様の介護に使用人は必要だ! お祖母様と使用人たちをすぐに解放しろ、それならばお前達に同行してやってもいい」
『お前は列記としたこの国の第一王子だ、胸を張れ!』
亡くなった祖父の激励を思い出し、恐怖に震える足を気力で抑える。
「良いでしょう、正し彼らは人質です。 余計な真似をすればどうなるかわかっておられますね?」
「あぁ……」
フンッと荒く鼻息をなにか指示を出したのだろう、背後で解放されたらしい使用人達が同じく解放されたらしいお祖母様へ駆け寄る気配が感じられる。
「ご案内いたします」
手を取られた為振り払いたい衝動を抑え込み用意されていたらしい馬車へと乗り込むとあまり間を置かずに鋭い鞭の風切り音と馬の嘶きが聞こえ馬車が動き出した。
「護衛は数名残してありますからご安心ください」
「見張りの間違いだろう……」
無事に戻ってこられるかわからないが、それでも何とか気持ちは伝える事ができた。
王妃陛下が捨てられた俺をわざわざ呼び戻す理由など考えたくは無いが、なりべく早く帰れるように努力しよう。
何なら王族籍から抜いてもらったって構わないのだ。
リラの唇の柔らかさを思い出して口元を右手で隠した。
くそっ、絶対に死ねない。
まだなにか話しかけてくる男を無視して寝たふりをする事にした。
王妃陛下のいる王城までどれ程の時間がかかるのか分からないけれど、こんな男の相手をするくらいなら夢の中でリラと過ごすことを俺は選んだ。
両目は見えずとも聴覚や嗅覚は他の人よりも優れたようで、雑多な臭いの強い都会よりも空気の澄んだ辺境の方が体が楽だった。
常に人に囲まれ気を張り続けなければならない暮らしが嫌だからと、俺の目が見えない事が発覚した頃に、会ったことすらない俺の両親にさっさと王位を譲渡し、退職金をたんまりせしめて楽隠居を決め込んだ祖父母と共に暮らしている。
「あれま、ルーイ様ってばまーたこないなところで昼寝して、風邪ひぎますよ?」
訛の強い言葉遣いで話しかけてきたのはこの平民の屋敷より気持ち広い屋敷で働いているメイドのひとりだ。
屋敷には国王時代からの腹心だった執事長と侍女長、親子の料理人が二人とその妻と娘メイド、農夫兼庭師の家族が三人、通いの馬丁が一人いて祖父母と私の世話をしてくれている。
「ん、リラかおはよう、今何の刻だい?」
「さっきだ六の鐘が鳴っただよ」
日が登ってから暮れるまでに七回、時を報せる鐘が鳴る。
「もうそんな時間か」
ムクリと身体を起こして近くにあるはずのステッキを捜せば、気を利かせたリラが俺の手に持ち手を握らせてくれるのだ。
「そろそろ戻らねば晩飯食いそびれるべ」
「ふふふっ、リラは食べることが好きだからね」
俺の手を自分の肩に乗せて先導して歩き出したリラに着いていく。
「お屋敷のご飯はうまいかんね、父ちゃんが今夜は鹿肉だって言ってたんよ、だから早く帰るべ!」
いつも明るくて負けず嫌いで裏表がない良心の感の塊みたいな幼なじみのリラとリラの母親を祖父母はいたく気に入っている。
そしてリラの父親と弟は我が家の料理人と見習いとして働いてくれているのだ。
祖父母はこの田舎に越してくる際に、伴を二人しか連れてこなかった。
しかも二人が元国王夫妻だと知っている執事長とメイド長は現地で雇ったリラ達一家や、庭師一家、馬丁に祖父母の身分も俺の立場も話していない。
リラが俺や祖父母へ様を付けて呼ぶのは単に雇い主だからだ。
「ルーイ様石があるからひだりさ避けるよ」
このあたりで親しまれている歌を鼻歌交じりで奏でながら進むリラの歩幅は常に一定だ、
メイドとしての仕事中は自在に歩幅を変えてくるくるとよく働居ていることは、足音ですぐにわかる。
軽やかで楽しげで、弾むような足音で彼女が来るとすぐにわかる。
ときおり屋敷内を走って侍女長に叱られて落ち込むこともあるけれど、ひたむきに生きるその姿に惹かれるようになるまでそう時間は掛からなかった。
「お祖父様お祖母様、リラと生涯を共にしたいと言ったらどうしますか?」
夜も深まり使用人たちそれぞれが割り当てられた自室へ下がったあと、俺は今の自分の気持ちを素直に伝える事にした。
執事長の話によれば、昔身分の違いの恋に夢中になり平民の女性をダスティア公爵夫人として迎えることを許したらしい二人なら、俺とリラを祝福してくれるのではないかとおもったのだ。
「駄目だな」
「だめねぇ」
しかし二人から帰ってきた返事は否だった。
「なぜですか!?」
「なぜって、リラちゃんを見ていればわかるわ。 あの子貴方を弟としてしか見てないもの」
「だよな、共に生きたいとお前は言ったが、リラちゃんにその気持ちは伝えたのか? 伝えてないだろう?」
問いかけではなく断定されて動揺する。
「目の事や身体が弱いこともあって甘やかし過ぎたか、自分の恋愛すら人任せにするよな軟弱者にリラちゃんは嫁にやれんのぅ」
「そうですわね、働き者のリラちゃんはルーイにはもったいなさすぎるわ」
すき放題言われているが、図星過ぎて否定できない。
目が見えない自分では他の男達のように働いて収入を得るのが難しいかもしれない。
歩き慣れた身の回り位なら移動できるが、杖や案内が無ければ移動すらままならないのが現実だ。
「わかりました、まずはリラに伴侶候補として……男として認めて貰うことから始めればいいのでしょう! やってやりますよ!」
気合を入れてから早数年、俺をヘタレだとあざ笑い、父親そっくりだと言った祖父は亡くなり、それでも今だに思いを伝えることすら出来ていない俺です。
ぬるま湯のようなふたりの関係のままでもいいかも知れないなんて思っていた当時の自分を殴ってやりたい。
平和だった俺の日常は突如やってきた複数の襲撃者によってもろくも崩れ去ったのだ。
「王子を捕らえろ! 王太后を捕らえろ!」
混乱に陥る屋敷内で真っ先に俺のところまでたどり着いたのはリラだった。
「ルーイ様、はやく隠れるだーよ」
「どうして来た! お前だけでも逃げてくれ!」
この不自由な目では素早く逃げるなどできるはずが無い、幸い襲撃者は俺を捕らえようとしているようだし、すぐに殺される事はないだろう。
「ぜったいにルーイ様を置いて逃げるなんておらはしない!」
急かすようにクローゼットへと押しやるリラの身体を反転させて抱きしめる。
俺よりの頭一つ分小さなリラの頭に右手を置いて手のひらを滑らせるようにして頬に右手を置く。
「リラ、いつもお前に助けられてばかりの俺だけどな、こうゆう時くらい男として愛するお前を守らせてくれ」
「は……? えっ!?」
「お前は俺の弱点なんだよ、だから逃げてくれ、な?」
右手の親指で唇の位置を確認してゆっくりと距離を詰めれば、小さく震える柔らかな感触に心が満たされた。
珍しくもすっかり稼働停止してしまったリラをクローゼットへ入れる。
リラは停止したら復活するまで少し時間がかかるのだ。
壁伝いに廊下へ出ればすぐに周りを囲まれてしまった。
「ルーイ・ローズウェルだ、屋敷の者たちに手を出さないでもらいたい」
すぐに半ば引きずられるような速度で連行され、階段から何度か足を滑らせて支えられながら屋敷の外に引き摺り出される。
どうやら抵抗したらしい使用人の男達は傷を負い、お祖母様は人質として囚われたようだ。
「ルーイ殿下、シャイアン王妃陛下のご命令でお迎えに上がりました」
声からしてリラの父親との同じくらいの年齢だろうか、こちらをバカにするような気配を隠しもしない男の声に腹が立つ。
「こちらは用などない! お祖母様を解放しろ」
「そうは行きませんなぁ、こちらとしても王妃陛下のご命令です。 手荒な手段となり申し訳ありません」
「申し訳ないと思っているならば、お祖母様はお歳のせいもあり長旅には耐えられん! お祖母様の介護に使用人は必要だ! お祖母様と使用人たちをすぐに解放しろ、それならばお前達に同行してやってもいい」
『お前は列記としたこの国の第一王子だ、胸を張れ!』
亡くなった祖父の激励を思い出し、恐怖に震える足を気力で抑える。
「良いでしょう、正し彼らは人質です。 余計な真似をすればどうなるかわかっておられますね?」
「あぁ……」
フンッと荒く鼻息をなにか指示を出したのだろう、背後で解放されたらしい使用人達が同じく解放されたらしいお祖母様へ駆け寄る気配が感じられる。
「ご案内いたします」
手を取られた為振り払いたい衝動を抑え込み用意されていたらしい馬車へと乗り込むとあまり間を置かずに鋭い鞭の風切り音と馬の嘶きが聞こえ馬車が動き出した。
「護衛は数名残してありますからご安心ください」
「見張りの間違いだろう……」
無事に戻ってこられるかわからないが、それでも何とか気持ちは伝える事ができた。
王妃陛下が捨てられた俺をわざわざ呼び戻す理由など考えたくは無いが、なりべく早く帰れるように努力しよう。
何なら王族籍から抜いてもらったって構わないのだ。
リラの唇の柔らかさを思い出して口元を右手で隠した。
くそっ、絶対に死ねない。
まだなにか話しかけてくる男を無視して寝たふりをする事にした。
王妃陛下のいる王城までどれ程の時間がかかるのか分からないけれど、こんな男の相手をするくらいなら夢の中でリラと過ごすことを俺は選んだ。
「恋愛」の人気作品
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