『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

第三十六話『奪われた王宮』

 ソレイユ兄様は預かって来た入国許可証をフォルファーに手渡すと、仕事は終わりだと言わんばかりの態度で現在クラリーサが入れてくれた紅茶を優雅に口へと運んでいる。


 なぜかちゃっかり私を膝に載せたままで……解せぬ、頭にスリスリしながら癒やされるーって髪型崩れるじゃない!せっかくクラリーサがきれいにしてくれたのに!


 抵抗を試みるもどういう訳か絶妙な力加減の拘束から抜け出せず、紅茶も器用に躱すから溢れる事もなく私の体力だけが削られて疲れてるのが解せぬ。


「ソレイユ兄様、いい加減おろしてください!」


「いやだ、まだリシャが足りない!」


「カイ! 助けて!」


「済まないがソレイユ殿が居なくならないように接待していてくれ」


 エッ、ここはこう、ヤキモチとか助けようとかする場面でしょ!


 ちゃっかり嫁を義理の兄の人身御供に差し出す旦那様ってどうよ!?


 不毛なやり取りを繰り返すダスティア兄妹を苦笑いで眺めつつカイが宰相であるお父様からの封書を受け取って、フォルファーが差し出したペーパーナイフで封蝋を開け、中から紙を取り出した。


「こちらはダスティア公爵からになります」


「お父様はなんて?」


「王妃殿下が第一王子を呼び戻して、城へ聖職者を招き寄せているらしい、城下町にある神殿への参拝を勧めたがそれを拒否したようだな」


 陛下へも王妃殿下を諌めていただけるように進言したらしいけれど、仕方が無かったとは言え、実子である第一王子だけでなく本人の希望とは言え、第一位王位継承権を放棄したルーベンスの事もあり、王妃殿下は精神的にかなり不安定らしい。


「陛下が動く様子もなく、兄様の婚約者候補へ招待状を送り、父上が兄様達を準備のためにダスティア公爵家へ返したすきに城を乗っ取られたと、いくら上司の目が無くなったからからといって騎士団や近衛騎士達の職務怠慢も良いところね」


「全くです」


 私の言葉にフォルファーが頷く。


「なんにせよ、籠城しているなら解放しなければならないが、あれでも防御は堅いからな城攻めは難航しそうだな」


 ため息を吐きながら頭をガシガシと掻いたせいでボサボサになってしまったカイの頭に手を伸ばし撫でつける。


「そう言えばルーベンス殿下は? 捕まったの?」


「いや、ルーベンス殿下はダスティア公爵家に滞在されているよ。 父上がリシャがカイザー殿下のお妃になるのなら少しでも使えるように教育し直すと言っていたからね、ソルティス兄上と一緒に行動されていたんだ」


 ドラクロア辺境伯領で生活してからルーベンス殿下は殿下なりに色々考えたらしい。


 王位継承権を放棄したその足で自ら進んでカイの力になりたいと宰相をしている父上に申し出たらしく、現在は宰相補佐官見習いとして奮闘しているし、その間の護衛がソルティス兄様だ。


 まあ、今回はドラクロア辺境伯領とダスティア公爵領の生活様式を見比べたいと言ってソルティス兄様に同行していたらしいけど、私は母親であるシャイアン王妃殿下から逃げ出す口実だったのではないかと予想している。


「まぁ無事なら良かったわ」


「それで囚われているのは陛下と第一王子か」


「父上もだね、陛下の執務室で話し合いをしていた所に踏みこまれたみたいだから」


 国王、宰相、第一王子……か、どうするのこれ。


「城に仕える者達は皆地下の牢屋に閉じ込められてるみたいだよ、クラリーサもう一杯くれる?」


「坊ちゃま、お行儀が悪いですよ?」


 あっけらかんと答えてカップを差し出して紅茶の追加を要求するソレイユ兄様にクラリーサが窘めながら紅茶を注ぐ。


「それで城内の情報はどれだけ入ってきているのかしら?」


「ふふふっ、それなりにかな。 何人かは地下にいるみたいだから全て把握出来ている訳ではないけれど、双太陽神教会にも何人か潜り込ませているからね」  


 私の言葉にパチリとウインクを投げて寄越すので、ウインクを掴んで後へ投げ捨てる真似をすれば分かりやすく狼狽した振りをしてみせた。
   
「ふふふっ、相変わらず仲がよろしくて」 


 昔からのダスティア公爵家兄弟間でやり取りにクラリーサが懐かしげに微笑む。


「なんにせよ、王都に戻ろう」


「いつでも出発出来るように準備は整っております」  


「明日日の出と共に出立する、リシャはソレイユ殿と共に後からダスティア公爵家」


「嫌よ」


 カイの言葉に被せる。


「リシャ」


「私も一緒に行きます」


「王都は危険だ、俺はもうお前を危険に晒したくない」


「あら、奇遇ですわね。 そっくりそのままお返ししますわ」


 脳内に結婚前に死にかけたカイの姿がフラッシュバックされ、血の気が引く。


 私の知らない所で大切なものを失いたくはないのだ。


 ポコッ


 ん!? お腹の中から反応があって視線を下ろす。


「動いた!」


「えっ! 本当か?」


「うん、ほらっ!」


 ガシッとカイの手を掴んでお腹の振動を感じた所に押し当てる。


「……動かないな」


「嫌われたんじゃないですか?」


 ニヤニヤと笑うソレイユ兄様の言葉に分かりやすく狼狽するカイの姿が可愛くてついつい笑ってしまった。


 そして嬉しそうに跳ね回るドラタマが凄い。


 ガツンガツンと音を立てているけど、床壊れないよね。


 そして跳ねられるのかぁ器用な卵だなぁ、卵に対する認識がだいぶ変わりましたよわたしゃ。
 
「あなたもお父様と一緒に居たいわよねー?」


 お腹を撫でてあげればポコリと動く。


「「動いた!」」


 カイと二人で顔を見合わせる。


「くっ、産まれる前からおねだりとか流石リシャの娘だな」


「あら、ソレイユ坊ちゃま。 王子殿下かもしれませんよ?」


「どちらにしてもリシャに似たら色んな意味で可愛くて、やんちゃで大変だなぁ」


 私達をニヤニヤうふふっと笑う兄様とクリスティーナにつられて笑ってしまう。


「それならカイに似るかもしれませんよ?」
 
「どちらに似ても構いませんから、バンバン産んで下さい」


 フォルファーの真剣な様子にみんなで笑い合う。


「……リシャ、一緒に来てくれるか?」 


「もちろんよ!」


 バシッとカイの背中を叩けば、うっと小さく呻いた。


「女性の尻に敷かれる男に貴賤は無いんだよな」


「いくら小さく幼気に見えても女性は強いですからね、うちにも押しかけてひと回り以上歳上の父上に嫁いだ強者がおりますよ」


 ソレイユ兄様の言葉にフォルファーが遠い目をしてドラクロア辺境伯領があるであろう窓の方へと視線を向けた。


 本当にそっちなのかは知らんけど。


「そうだな、まぁリシャになら尻に敷かれても本望だ」


「あらまぁ、良かったですねリシャーナ様、御本人から許可が降りましたから存分にお尻に敷けますわよ?」


「ふふふっ、それじゃあ我が家に帰りますか!」











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