『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

第三十五話『そんなフラグはいりません!』

 ローズウェル王国から使者がこのレイス王国とローズウェル王国との国境の街に来たとの情報を得て、使者の元へ向かったはずのフォルファーが寒気がするような嘘くさい笑顔で帰ってきた。


「どうやら使者は我々ではなく王妃殿下のご命令で双太陽神教会の大司教ヴゥラド猊下を迎えに来たようです」


 ついでに言えば、使者は私達がこの国境の街で足止めされている事を知らなかったようで、すぐに本国へ問い合せると焦っていたらしい。


「しかしヴゥラド大司教猊下を国賓に迎えるために、王妃殿下自らが采配を振るって準備を進めているとは一体何を企んでおられるのでしょうか?」


 王妃殿下とは、国王陛下以上に直接面識がない。


 なにせ私達の結婚式も体調不良を理由にご欠席されている。


 実の息子であるルーベンスを王にするべく、後ろ盾を欲した王妃殿下は初期の婚約者候補として私を指名した訳だけど、初対面で暴言を吐いたルーベンスに飛び蹴りを入れた事により破談した。


 それからと言うもの王妃殿下からの覚えは、あまり良くは思われていないと感じている。


 元々王家と縁続きになろうなんて考えてすらいなかったしなぁ。


 結局カイに捕まったけどさ。


「なんにしてもろくでもないことだろうな、普段は王妃としての責務はしっかり果たす方だが、思い込みも激しいからな」


 吐き出された深い深い溜め息はこれまでのカイの苦労を物語っているようで、隣に座るカイの左手に自分の右手を重ねる。


「ルーイ殿下を呼び戻されたことも今回の事態と関係があるのでしょうか」


 難しい顔で考え込む二人には悪いけど、推測しか出来ないこんな情報が揃わない所で悩むだけ無駄なのよね。


 それになにか企みが有ったとして、宰相の地位にいる父様が知らないとは考えられない。


 意図的に放置している可能性は否定できないけれど、むしろそっちだろうな。


「まぁ、王宮から迎えが来なくても、ダスティア公爵家からは来るでしょうし」


「まぁ、たしかにな」


「来るでしょうね、あの兄君達なら」


「えぇ、ダスティア公爵家の皆様はリシャーナ様を溺愛されていらっしゃいますから」


 当然ですと頷きながらクラリーサがお茶を入れ直してくれている。


「ダスティア公爵が強行した義兄上達のお見合いもどうなった事やら」


 苦虫でも噛み潰したような顔をしたカイの言葉に、そう言えば新婚旅行の最初の方にそんな事を言ってたなぁと思い出した。


「物理的にリシャーナ妃殿下を引き離しましたし、きっとうまく行っていますよ、たぶん」


「坊ちゃま達もそろそろ奥様を迎えていただかないと困りますからねぇ」


 あらまぁとわざとらしいため息を付いて見せるクラリーサが面白くてついクスクスと笑ってしまう。


「お見合いのお相手に王妃殿下の横槍が入らないとも限りません」


「入るかもしれないけど、素直に受けるとも思えないんだよね」


 妹可愛い可愛いフィルターが分厚く掛かっているあの兄様達だ、一筋縄じゃ行かないだろうし、シスコンに嫉妬するような女性はストレスが凄い事になりそう。


「どこかに空並みに心が広いご令嬢居ないかな、クラリーサが若返って二人まとめて引き受けてくれたら良いのに」


 いや真面目にクラリーサみたいな肝っ玉母さん入ってる貴族のご令嬢居ないかな。


 肝っ玉母さん令嬢、なんつうパワーワード。


「リシャーナ様、それは無理ですわ、しかし坊ちゃま方の御結婚は決して他人事ではございませんよ? お二人が結婚されずお世継ぎがなかった場合、リシャーナ様がお産みになった御子息を養子とされるかもしれませんもの」 
 
「そんなバカな、いくらなんでも王子様を養子にする? それ以前に養子に出せるくらいそんなポンポン子ども産めないし、もし産めても男の子とは限らないじゃない」


「亡きダスティア公爵夫人は四人ものお子様を立派に出産されておりますからリシャーナ妃殿下もカイザー殿下の御子をバンバン産んでいただければと臣下一同心待ちにしております」


 終いには王太子妃としての執務はいくらでも補佐するから子づくりに励んで頂きたいとフォルファーがカイに力説している。


 そんなフォルファーに真剣に相槌をうつ旦那様が恐い。


 これはフラグじゃないよね、回収はしませんよ私ガクブル


 そんなこんなで国境の町でブラブラして過ごしたある朝、案の定ダスティア公爵家からソレイユ兄様が迎えにきた。


「リシャー! 会いたかったよー!」


室内に案内されてきたソレイユ兄様が私をみつけるなり、素早く襲撃かと警戒せざるを得ない勢いで私を抱き締めるといつものごとくグリグリと擦り寄った。


「ソレイユ兄様お迎えに来ていただきありがとうございます」


「ふふっリシャのためなら私は隣国の王城だろうが戦場だろうが喜んでむかえにいくよ」


「いやぁ、王城なんだけどね、王妃殿下が占拠しちゃったんだよね」
 
「「「はぁ!?」」」



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