『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

第三十三話『甘やかな香り』シャイアン王妃目線 

 コツリ、コツリと小さな靴音を響かせながらローズウェル王国王都に設置された双太陽神教会大聖堂の礼拝室で跪きながら双子の神に熱心に祈りを捧げる。


 わたくしがこれ程までに神々に心を寄せるようになったのはいつからだろうか?


「どうして、どこで間違ってしまったのでしょう?」


 握り締めた両手は力が入り過ぎたのかかすかな痺れを伴うけれど、祈らなければ自分が壊れてしまいそうだった。


  婚約者を亡くされてから喪に服されており、なかなか婚約者を得ようとしないセオドア様に業を煮やした先代国王陛下の計らいで開かれた舞踏会で、グラスティア侯爵である伯父上からの紹介でお会いしたのが当時まだ王子殿下だったセオドア・ローズウェル陛下だった。


 身分違いだったものの、セオドア様はお優しく子爵令嬢と地位も低くおとなしい性格だったわたくしにも親切に接してくださいました。


 本来なら恋心を寄せるなど不敬だと言われてもしかたがないのですが、どうしてもと言うセオドア様の強い懇願により生家のマッドウェル子爵家から多少家格が釣り合うようにと本家であるグラスティア侯爵家の養女となり王家に輿入れしました。


 ただ愛しいセオドア様のお側にいたい一心で身の丈に合わないにも関わらず、セオドア様の恥とならないように必死に学ぶ日々。


 輿入れのため王宮へ上がり、セオドア様から紹介されたのは黒髪が美しいスラリとした乳兄弟で侍女のタリア様でした。


 セオドア様がタリア様へ向ける表情はとても気安く、最側近で幼馴染みで乳兄弟だと説明を受けましたが、ひと目でタリア様は私よりもセオドア様にとって特別な存在なのだとわかりました。 


 二人の関係は愛ではないと自分の心に言い聞かせて、セオドア様の大切な人だからと、もっとも信頼できる部下だから愛する私の近くで侍女の仕事をしながら腕もたつので護衛を任せられると紹介されほほえみ返した。


 セオドア様とタリア様の間に流れる、無理に言葉に出さなくてもそれぞれの些細な機微を理解する、そんな二人のやり取り。


 そんなやり取りすら長い付き合いがあってこそだと理解している。


 わたくしが入れない特別な信頼関係を羨ましく、そしてモヤモヤした気持ちに蓋をする。


 それでもそのやり取りに入れぬ疎外感に静かにけれど感情のままに振る舞うことはしてはいけないと王妃教育を受けたことで嫉妬心を無理やり抑え込み、鬱屈した心を押さえ付けて無理やり微笑む。


 セオドア様が正式に国王に即位されて正式に王妃となった後も、内心では自分を軽視している高位貴族の貴婦人達を相手に社交を頑張ったが、跡継ぎを望まれる重圧と王妃と言う責任の重さに次第に笑う事すら辛くなり疲弊していくのがわかる。


 社交に疲れて夜会の会場を抜け出したある日、同じく会場から逃げ出していたダスティア公爵夫人のアリーサ様と出会い、自分と同じく身分違いの恋から、ダスティア公爵様の泣き落としで仕方なく公爵夫人になったと苦笑しながら教えてくれました。


「普段宰相だー、公爵だーってキリッと偉そうにしてるけどねぇ、娘や息子たちを前にしたあの人は煮すぎた野菜みたいに顔が崩れてるからねぇ」


 そう仕方なさそうに、しかし幸せが隠せない様子で屈託なく笑うアリーサ様に救われたようだった。 


 アリーサ様はやられたらやり返すのよ!と明言されていて、昔話をしてくれます。


 まだ公爵夫人になったばかりの時にはロベルト様を慕う貴族令嬢からわざとワインでドレスを汚される嫌がらせを受けて、相手のご令嬢の顔面にワインを思いっきり掛けてしまったことがあるそうです。


 アリーサ様と交流を重ねるうちにやっと授かった第一子ルーイ・ローズウェルは……虚弱な上に両の眼が見えていませんでした。


 目の見えない王子に王太子は務まらないと判断され、私はこの腕に満足に息子を抱くことなく、あの子が自らの力で立ち上がり歩く姿を見る機会すら与えられず、療養と言う名目で辺境で隠居されていらっしゃる王太后陛下のもとへ送り出し、泣く泣くその愛しい小さな手を放さなければなりませんでした。


 失意の悲しみに気力が削がれ、産後の肥立ちも悪いなか、忙しい政務の合間を縫って、セオドア様は気にするなと、お前はよく頑張ってくれていると慰めてくれているけれど、それでも何かで気持ちを紛らわせないと自分を保てそうにありません。


 ベッドの上に、執務の書類を持ち込む私を心配して、お茶やお菓子などを用意してくれる侍女たちの心遣いが嬉しくて、早く元気にならなければと少しだけ前に進めるような気がします。


 少しずつ少しずつ、自分の心と身体を立て直し、夜の生活の許可も医師から出るようになった頃、いつも近くで笑っていたタリアの姿が見当たらない事に気が付き、侍女の一人に問いかけました。


 いつもの様にテーブルの上に用意された香り高い紅茶は、生家であるマッドウェル伯爵領の特産品で、飲み慣れた一番好きな茶葉の物。


「あら、タリアは? しばらく顔を見ていないわ」


 わたくしの問い掛けに困ったような表情で互いに視線を交わす侍女たちの様子に不安がよぎる。


「王妃殿下、タリアですがこの度陛下の御子を身籠り、側室に上がる事になりました」


 そっ、側室? なんで? どうして?


 侍女の言葉が理解出来ない、いや、したくなかった。


 私がちゃんとした世継ぎを産んで差し上げる事ができなかったから?


 既にセオドア様の御子を授かっているですって?


 自分に笑いかけるセオドア様、慰めに抱きしめてくださったセオドア様、セオドアさ……セオドア陛下と交わした情、全てがガラガラと自分の中で崩れ落ちていく。


 手に持っていた茶器が、力が入らなくなった両手から滑り落ち、床に落ちてガシャリと壊れた。


「王妃殿下! 大変、お怪我はありませんか?」


 気が付けば、寝台に横になっていた。


 寝台の隣に椅子が寄せられ、そこには項垂れるようにしながらセオドア陛下が座っている。


「セ……ア……へっ……か……」


 声を掛けようとしたけれど、喉が渇いて上手く声が出ない。


 小さな声しか出なかったけれど、それでも声は届いたようで、セオドア陛下がハッとした様子で勢いよく顔をこちらへ上げてみせた。


「シャイアン、大丈夫か? 誰か直ぐに飲める物を持ってきてくれ」


 セオドア陛下の指示に侍女たちが慌ただしく部屋を出ていった。


「そなたは部屋で倒れニ日ほど目を覚まさなかったのだ」


 その顔に浮かんでいたのは本心からの心配で、捨てられた訳ではないのだと言う安堵感と、裏切られた絶望感とが自分の中でごちゃごちゃに混ざり合う。


「陛下、白湯をお持ちいたしました」


 侍女たちが用意してくれた白湯を手ずから飲ませてくれる陛下に、もしかしたら夢だったのではないかと思い出す。


「陛下、その……側室を迎えられたという話は真実ですか?」 
 
 夢であって欲しい。


「あぁ、すまない。 私が不甲斐無いばかりに」 


 きつく、きつく抱き締められながら謝られ、嘘であって欲しいと言うわたくしの願いが崩れ去る。


 それから陛下は医師が来るまでひたすら謝罪していたらしいけれど、良く覚えていない。


 幽鬼のように呆然と過ごす日々、何もやる気が出ない。


「神よ、なぜ?」  


 ボロボロと溢れ出る涙が止まらない。


「わたくしの不幸が他へ移ればいいのに」


 わたくしは悪くない……全てはわたくしから子どもを取り上げ、陛下すら奪っていったあの女……タリアがわたくしの幸せを奪っていったのが悪いのよ!


 自分を正当化するために、誰かに悪意を向けずには居られなかった。


 セオドア陛下が不用意にタリア・ブロギンスに手を出したことで、わたくしとタリアのどちらとも友人関係を気付いていたアリーサ様は憔悴するわたくしを心配し、公爵夫人はセオドア陛下は軽率な行いだとこっぴどく叱り飛ばされました。


 本来であれば王族を叱り飛ばすなど不敬罪に咎められても仕方が無いのですが、陛下がダスティア公爵夫妻以外を人払いをした上で、さらに正論で責められては反論のしようも無かったようです。


 またタリア・ブロギンスの生家であるブロギンス家は建国時からの忠臣の家系だったため、彼女の側室入りは歓迎される方向へ流れていった。


 側妃として召し上げられた翌年、世継ぎとなる男児カイザーが産まれ、喜びに湧く民の祝福の声すら、わたくしの心を容赦なく踏みつけていく。


 そんなある日、陛下が思い詰めた様子でわたくしの部屋へとやってきた。


「シャイアン、タリアが死んだ」


 そう言ってわたくしを抱きしめ悲嘆に暮れる陛下が愛しく、そして憎らしい。


 セオドア陛下に放たれた刺客を我が身を代償に返り討ちにしたタリアはそのまま息を引き取ったらしい。 


 わたくしから陛下を奪ったあの女が死んだ。


 ふふふっ、神は私を見捨てては居なかった。神はあの女よりもわたくしを選んだのよ! 


 陛下を慰めるべく優しく優しくそのせなかを撫で下ろす。


 ふふふっ、うふふふ、ああいい気味だわ……貴方を愛しているのは私だけなの、ねぇ私だけを見て?


 仄暗い歓喜を胸に、陛下の薄い唇へ自分の唇を重ねる。


 直ぐに深まった口付けに、側室が出来た理由を知ったような気がした。


 陛下もルーイと産後の肥立ちが悪かったわたくしのことが心配でお心が弱っていたところをあの女狐に唆されたのだと。


 その晩、わたくしは第二子となるルーベンスを身籠った。


 わたくしとそっくりの輝く金色の髪と陛下の青い宝石のように透き通った瞳を持つ愛しい子。


 今度こそ誰にも奪わせてなるものか。


 忌々しいことに、女狐は死ぬ前に男児を産み落としている。


 カイザーと名付けられた第二王子、母親亡き今ブロギンス家などほぼ名ばかりで実質なんの後ろ盾もない王子に何が出来よう。


 可愛い可愛いルーベンスの輝かしい未来に障害物など必要ないわよねぇ?


 本来なら居てはいけない過ちの子どもだもの。


 視界に入れることすら吐き気がして、離宮へ追いやった。


 わたくしを苦しめたあの女の子供だと思うだけでも赦せなくて、でも殺す度胸などなくて嫌がらせのように少しずつ体調を崩すくらいの……死なない程度の弱い毒を混ぜる。


 第二王子も虚弱体質に見えればルーイのように王位継承するに相応しくないと判断されるかもしれえない。


 可愛いルーベンスが国王になれるように、そして大好きだったダスティア公爵夫人の忘れ形見をそばに置きたくて、建国時からの忠臣でセオドア様を支える宰相でもあるダスティア公爵の末の愛娘を婚約者にしようとしたけれど、現れた丸々と肥った娘を厭うたルーベンスが台無しにしてしまった。


 まぁダスティア公爵の後ろ盾を得られなかった事は残念だけど、わたくしのルーベンスの伴侶にあのアリーサ様に似ていない肉団子はふさわしくない。


 ルーベンスの健やかな成長を喜びながら、目障りなカイザーへ刺客を送るが、忌々しいことにダスティア公爵が庇うせいで上手く行かない。


 母親に似て本当に取り入るのがお上手ですこと。


 そう、わたくしの願いを聞き届けた神々によってそれ以外は順調に進んでいたのだ。


 ダスティア公爵家からルーベンスの後見を得られなかった以上、ルーベンスが王位に着くためには他の後ろ盾が必要なのよ。


 養父であるグラスティア侯爵の紹介で、領土拡大を主張する強硬派を少しでも増やすべく、あえて中立派から選ばれたのは権力を持たせても無害な筆頭スラープ伯爵家のクリスティーナ嬢だった。


 本来ならばグラスティア侯爵は強硬派からルーベンスの婚約者を立てたかったはずなのに
なぜあえて中立派を選んだのか疑問に思いつつも、それがグラスティア侯爵家がルーベンスを後継者として支持する条件だというならばと受け入れた。


 そしてルーベンスが王となった暁には自分の子供であるレブラン・グラスティアとまた同派閥のクワトロ侯爵家のイザーク・クワトロをルーベンスの側近として遇する約束を要求してきたため受け入れる。


 ルーベンスがこの先、王になるためには優秀で信頼できる側近の存在は必須になる、将来的に他にも側近を増やさねばならないけれど、それはルーベンスが入学した王立学院で多くの貴族令息、御令嬢の人となりを見て側近に取り立てていけばいい。


 それならば大人の中で生活するルーベンスにとって同年代のレブランやイザークは良き遊び相手となるかもしれない。


 グラスティア侯爵が連れてきたレブランはどこか大人びた雰囲気の美少年で、逆にクワトロ侯爵が連れてきたイザークは騎士に憧れ剣を振り回す活発な少年だった。


 一見両極端に見えるこの二人だったが、ルーベンスともうまく付き合ってくれているようで胸を撫で下ろした。


 王立学院に入学し新入生代表として挨拶を読み上げる姿に感情が昂り、溢れそうになる涙を堪える。


 このまま何事もなければ、ルーベンスは陛下の跡を継ぎ、陛下と同じように良き王になれる。


 そんな中わたくしの耳に飛び込んできたのはルーベンスが婚約者であるはずのクリスティーナを蔑ろにして男爵家のマリアンヌに懸想しているという情報だった。


 ルーベンスと一緒に王立学院に入学し、ルーベンスがおかれている現状に詳しいそうなレブランを王宮に呼び寄せる。


 久しぶりに会った義理の甥は、甘やかな香りを身に纏い、わたくしの前にやってきた。


「お久しぶりでございます義叔母上」


「ええ久しぶりね、あまりに顔を見せないからわたくしの事など忘れてしまったのではと心配しておりました」


「義叔母上のようにいつまでもお美しい方を忘れるなどあり得ません、こちらは義叔母上への贈り物です」


「あら何かしら?」


「双太陽神教会が販売している香で悪い事を祓い幸せを呼ぶ祝福がされている『聖香』といいます。辛い疲れを忘れさせてくれるありがたいものです、どうやらお疲れのようですし、試されませんか?」


「あら、ではお願いしようかしら」


「では少々お待ちください」


 そう告げると、レブランは香炉を持ってくるように侍女に指示を出して、持ってきた香炉の上へと小指の爪ほどの大きさの塊を置いた。


 『聖香』と思わしい固形物に用意してもらった火種を近づければ、わずかばかりの熾火からゆっくりと煙が上がる。


 甘い香りが室内に広がっていく。


「あらいい香りだこと」


 その香りを堪能するべく煙に顔を近づけて深く吸い込めば、吸い込むほどに鬱々とした気持ちが薄まり、お酒でも飲んだあとのような心地よい酩酊感に幸せな気持ちが膨れ上がる。


「ふふふっ、いい贈り物をありがとう」


「お気に召していただけて何よりでございます」


「さてレブラン、ルーベンスに泥棒猫がすり寄っているそうだけれど、本当なのかしら?」


 王立学院内で起こったことは基本的に学生同士で解決するのが暗黙の了解になっているけれど、ルーベンスまでもが婚約者がいるにもかかわらず他の女に手を出すようになってしまったのでは無いかと、聖香のおかげでいっとき遠ざかった筈の切迫感に襲われ手入れされた右手の親指の爪を何度もかじり自分の気持を落ち着ける。


「落ち着いてください義叔母上、ルーベンス殿下は優秀ですからね、殿下との縁を繋ぎたい御令嬢たちが集まってきているだけです」


「そう、あの子の一番近くで見ているあなたがそういうならば信じましょう、しかしあの子は王になる者、婚約者以外の娘と必要以上に仲良くなるのは、あの子のためになりません」


「どうせよと?」


「遠ざけなさい、あの子に群がる害虫など不要なの」


「……御意」 


 これでルーベンス(セオドア)にすり寄るタリアはいなくなる。


 レブランの答えに満足気に微笑めば、レブランは懐から一通の封書をこちらへ渡してきた。


「それはそうと義叔母上、父上よりこちらの書状を預かっております」


 本来ならば毒や刃物などが仕込まれていないか検閲を通す物だが、グラスティア侯爵家はわたくしが養女になったことで王妃の生家となっている為こうして直接手元に届くのだ。


 手渡された羊皮紙でできた封書には蜜蝋でしっかりとグラスティア侯爵家の印が押されている。


 中を確認すれば、重要な役職を提供する代わりにルーベンスが王位につけるように根回しする資金を、同派閥の貴族達に出してもらうから、現在わたくしが人事の管理権限を持つ宝物庫の警備責任者の変更を承認して欲しいとの要請だった。


 確かに変更は可能だけれど、王妃として宝物庫の警備責任者は信頼できるものにしか任命することはできない。


「人となりがわからない人材に重要な役職を預けるなど……」


「ローズウェル王国はセオドア陛下が即位されて以降大きな戦や災害もなく平和ですからね、わがグラスティア侯爵家をはじめとしたルーベンス殿下を指示している軍閥貴族は年々立場が弱くなりつつあるのですよ」


 ニコリと微笑むレブランが何を言っているのか理解したくなかった。


「セオドア陛下とロベルト宰相の統治は素晴らしいですが、その宰相閣下はカイザー第二王子に目を掛けているとか?」


「ロベルト宰相は建国より続くダスティア公爵家の御当主、肥沃な領地を治める領主でもあります、その公爵がカイザー殿下を陛下の後継者にしようとすれば、我々の財源力ではこれ以上の支持を集めることは難しいでしょう」


「このままですとルーベンスを次期国王に据えるのは難しいでしょうね」 
 
「なっ、約束が違うではありませんか!」


「ですから戦場に出る事がかなわない軍閥の屈強な兵士たちを大切な宝物庫を守護する地位につけていただき、少しでも彼らへ役職手当をまわしていただきたいのですよ」


 確かに軍閥の者達はこの平和な治世では国内の治安維持や害獣駆除などで身柄を立てるしかなく、彼らに渡る貴族年金は少なくなって等しい。


 ルーベンスへの支持を集める事を考えれば彼等へ優先して仕事を回す程度の優遇は必要でしょうね。


「わかりました、こちらで手配いたしましょう」


「ご配慮感謝いたします、それからこちらの聖香は今後も継続してお届けしましょうか?」


 部屋に充満した甘やかな香りは身体から強張りを拭い去ってくれたようで、ここ数年無かったほど身体が軽い。


「そうね……お願いしようかしら」


 座っていたソファーに背中を預けて背筋を伸ばすようにそり返る。


 目を瞑り天井を仰ぐわたくしの様子をレブランがどのような顔で見ていたかなど知りようもない。


 このままならルーベンスが問題なく王となれるだろう、そう信じて疑わなかったの。


 可愛い可愛いルーベンスが辺境へ追いやられるまでは。





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