『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

三十話『入国拒否されました』

 レイナス王国とレイス王国との国境となる街で捕らえられた襲撃者達は国を守る国境警備騎士へと引き渡された。


 道中護衛をしてくれたレイナス王国の騎士達とはここで別れることとなる。


 短い間ではあったものの、なかなかに濃い旅路を共にした騎士達はこれからしばらく国境警備騎士として任務にあたることになるらしい。


 在任の騎士達は交代して王都に戻り、今回捕らえた賊を連行していくと話していた。


 そんな彼らにしっかりと礼を告げてローズウェル王国一行はレイス王国へと入国を果たした。


 ここからはローズウェルの騎士達だけで護衛となるらしい。


 本来ならばレイス王国の王家との交流も予定していたのだが、私の妊娠だけでなく襲撃を受けたこともあり、日を改めて訪問することにしたようだ。


 襲撃を警戒して野営は極力行わず、先駆けが進路上の村や街で宿を手配してくれている。


 これと言った襲撃もなくレイス王国とローズウェル王国との国境となる街で、一行は足止めをくらってしまった。


「えっ、ローズウェル王国に入れないってどういう事よ?」
 
 ここ数日、つわりも落ち着いてきたため調子が良く、街の観光もかねて少しだけ散歩出来ないかと考えていた矢先に馬車へやって来たカイに告げられた言葉に驚いた。


「どうやら双太陽神教会の異端審問官が居るみたいで、勝手に検問を敷いてお布施を強要しているみたいです」


 クラリーサの入れてくれた紅茶を受け取りフォルファーは深い深いため息をつく。


「いくらこの大陸の主となる宗教とは言うものの近年の双太陽神教会の横暴ぶりは目に余りますねぇ」


「あらあら、困りましたわね」


 国境を越える際にはそれぞれの国が人の出入りに対して税が掛けられる。


 それはローズウェル王国でも同じことだけれど、双太陽神教会が単独でお布施と称して金品を巻き上げるなど今だかつてあり得ないことだった。


 数十年前、双太陽神教会の総本山があるスノヒス国で当時の双太陽神教神子とうだいそうたいようしんきょうみこと教皇聖下がほぼ時を同じくして主神の身元に召される(亡くなられる)と言った事件があった。


 各国に教会を通して通達があり、新たに神子と教皇聖下がたたれた訳だが、なぜか各地で教会が信者を集め不穏な動きを見せ始めたらしい。


 死後、双太陽神の身元に召されるためには生前の善行として多額のお布施が必要であり、お布施が足りないものは死後悪霊となり永遠にさ迷う事になるらしい。


 この新たな教えに一部の聖職者は反論したらしいが弾圧され、信者たちは困惑したらしいが今では死後さ迷わずに済むようにと教会へ多額のお布施を支払っている。


 ローズウェル王国も教会へ多額の寄付が年間の国家予算に組み込まれていることは、王太子妃としての妃教育でもおしえられた。


 またローズウェル王国の王妃殿下は敬虔な双太陽神の信者として有名で、自分の信仰心が低いせいで初子であった第一王子が視覚障害を患って産まれたてしまったのだと自身を責め、更に宗教にのめり込んで行ったらしい。


「殿下と一緒に責任者に話を通しに行って来ましたが、全く話が通じない猿……頭の硬い御仁のようでして参りました」


 せっかく言い直したみたいだけれど、あんまり意味は変わってないんどけどなと苦笑しながら紅茶を口に運ぶ。


「それで? どうするの?」


「とりあえず国境を挟むレイス王国側の街で宿をとり、無駄かもしれませんが交渉を続けつつ、王宮へ伝書鳥を飛ばしましたのであまり時間を掛けずに状況を改善策出来るかとおもいます」


「そっかぁ、暫く動けないのは仕方ないね……でもこのまま馬車や宿に缶詰めにされるのもなぁ……」 
 
「あのぅリシャーナ様“カンヅメ”とは何です?」


 聞き覚えのない単語に首をかしげているフォルファーにクラリーサがクスクスと笑って答える。


「ふふふっ、リシャーナ様は昔から謎の言葉を作り出しては兄君達や姉君と暗号化してよく遊んでおられましたわね」


 クスクスと昔の事を思い出しているのか楽しそうに笑うクラリーサに幼い頃にやらかしたあれやこれやの黒歴史を思い出して苦笑する。


「まぁ、いろいろな暗号がダスティア公爵家にあるのよ、さーて今日中に出発出来ないのは確定したんでしょ? なら少し街の観光もかねてお散歩しましょう?」


 ずっと馬車のなかで過ごしてきたし、レイナス王国で負った怪我も回復してきているし悪阻も落ち着いた。


「落ちた体力を戻さなくちゃ難産になっちゃうわ」


 内側から馬車の扉の取っ手に手を掛けておもいっきり引き開けた。


「はい!? ちょっと妃殿下、おまちください!」


 フォルファーが停めるまもなく突然現れた私に驚いて動きが遅れた護衛の手を借りずに馬車からピョンっと地上へ降り立つ。 


「妃殿下!?」   


「クラリーサ、早くいきましょ!」
 
「うふふっ、すっかりお元気になられて安心しました。 今参りますから少しだけお待ちください」


「おいこら、一体どこに行くつもりだ」


 ワクワクとクラリーサが出てくるのを待っていたら後ろから伸びてきた右腕が私の肩から胸に回され、背中がトンっと硬いけど弾力性のある何かにぶつかった。


「おかえりなさい、カイ! ちょっとレイス王国の街を散策にいこうって話してたのよ」
 
「……はぁ、足止めされたからな、最近は体調も落ち着いてきたから何か行動を起こしそうだとは思っていたがやっぱりか、どうせ止めても聞かないんだろう?」


「だって新婚旅行ですもの、観光しなきゃ」


「相変わらず恐ろしく前向きだよなお前は」


「うふふっ、お褒めに与り光栄ですわ」 
 
「いや褒めてないから、本当に大丈夫か? はしゃぎ過ぎてまた熱が出たらどうする」


 身体を抱き締められながら頭の上に顎を乗せられたせいでずっしりと重い。
 
「大丈夫よ、今はしっかりもののストッパーが着いてるもの」


「すとっぱーってなんだ?」


「暴走した私を止める役目」


「「「なるほど」」」


 納得したのか示し会わせたように三人の声が被る。


「それじゃあ俺はすとっぱーとして君に同行させて貰おうかな」


「うふふっ、私はあとから参りますわ」


「あっ、私も一緒に」


「フォルファーは離れて護衛しろ」


「殿下のご命令では仕方ないですね」
 
 そんなやり取りを聞いていたら頭上でカイのぐっとくぐもった呻き声が聞こえてきた。


 原因だろう自分の足元に視線を落としたので私もそちらを見ればドラタマがカイの右足を踏み潰していた。


「ドラタマも一緒に行くって」


「くっ、特別に同行させてやるから俺の足の上から下りろ」


 コロンと素直に靴の上からおりたドラタマが私の足に甘えるように擦りよる。


「この卵俺のこと嫌いだろ……」      


 私への対応の違いを見せつけられて恨めしそうに呟くカイとドラタマの間で火花が散っているような錯覚を覚える。


「頑張って仲良くならなきゃね」


 とりあえず外出の許可はもぎ取れたし、地物の美味しい食べ物探さなくちゃ!

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