『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
二十一話『お話し合いinカイザー』
レイナス王国の王城では夜更けにも関わらずあちらこちらで篝火が焚かれ、夜半にも関わらず、武官、文官総出で懸命な救助活動が行われている。
竜を讃える祭りの真っ只中に発生したファングの乱心により、竜達の住み処となっている森から始まり王太子の相棒であるロゼが暮らす竜舎も含め城の一部が破損し、逃げ遅れた数名がいまだに瓦礫の下に取り残されているらしい。
既にレイナス王国の国王より謝罪は受けており、警備責任者等の降格や賠償などの話し合いは友好国として迅速かつ穏便に終了している。
そんな中、被害者の救出に混乱する現場とはまた違った混乱に城の一室、レイナス王国の主だった有識者や権力者達が激論を繰り広げていた。
「ダメだ! 竜は我が国の貴重な戦力にして国家財産だ。 他国に出すなど言語道断!」
「竜はただ一人の人間と生涯を供にする、竜王シオル陛下亡き後、次の相手を選んではいただけないかと試行錯誤を繰り返したが初代竜であるサクラ様、そしてファング様も決して次の人間を相手に選ぶことはなかった」
「さよう、我ら竜学者はさまざまな情報を集め、サクラ様の降臨以降は何年も竜の生態解明に取り組んできましたがその生態はいまだ謎だらけです」
「前例に当てはめれば本来は相手となると人物の元へ障害となる物を全て破壊して馳せ参じ、卵から孵る生き物、それが竜!」
「しかし今回は孵ってはおらん! ローズウェル王国の王太子妃殿下が竜の相方ではない!」
様々な意見が食い違い紛糾する会合に呼ばれて来たけれど、どうせ呼ぶならばレイナス王国側の意見が纏まってからにしてほしかったと思うのは仕方がないだろう。
「申し訳ありません、カイザー殿下」
心底済まなそうにこちらへ声をかけてきたのはあの夜会の夜最後にリシャと話していたセリオン・ヒース侯爵令息だった。
プラチナの髪に煌めき、珍しい赤い瞳をした整った容姿をしている彼がもしあの晩リシャを引き留めていてくれたならこのような騒ぎにはならなかったはずだ。
……いや、違うな、いくら社交のためとはいえ、友好国の王女に誘われたからといって情緒不安定なリシャから離れるべきではなかったのに、彼女をひとりにしてしまった自分のせいだ。
「いぇ、セリオン殿はガブリエラ王女殿下とご一緒なさらなくてよろしいのですか?」
ガブリエラ王女は先のファングの襲撃の際に、天井から落ちてきたシャンデリアを避けるため足を痛めたようだと情報がまわっていた。
「お恥ずかしながら、どうやら私は女性の感情の機微に疎いようで、ガブリエラ王女殿下のお叱りをいただいてしまいました」
異変が起きてすぐ、ガブリエラ王女に駆け寄り、その身を盾にシャンデリアから王女を守った婚約者に、ガブリエラ王女が大変分かりやすく熱い視線を送っているは周知の事実なのだが、素直になれないガブリエラ王女の態度は一番伝わってほしい相手に一切伝わっていないらしい。
ガブリエラ王女はセリオン殿に焼きもちを焼いてほしかったらしく、身分で釣り合いがとれる当て馬として白羽の矢がたったのが俺だったと泣きながら謝罪を受けた。
婚約者同士のすれ違いに巻き込まれ、はっきりいって迷惑きわまりない。
だけど、あのどこか飄々としたリシャが焼きもちを焼く姿は愛しさが込み上げて溢れ、夫婦仲も大層深まった。
出来れば怪我をしたリシャに付き添っていたい、しかし既にこの場に来てから時告げの鐘が二つ(約二時間)鳴っている。
今回の竜の暴走にリシャが巻き込まれ、負傷したことはレイナス王国側の警備が不足しており、ローズウェル王国としては被害者であるという主張を覆すつもりはない。
たまたま夜会の会場から夜風に当たるために庭園に降りたリシャが卵泥棒に遭遇し、竜の暴走に巻き込まれ、たまたま転がってきた竜の卵に付きまとわれるようになっただけだ。
そぅ、たまたま……一体どうしてこうなった。
昔から、いく先々で想定外の騒動を起こしては、ものの見事に周りを振り回し、本人はまるで自覚がない。
きっと問い詰めたところでキョトンとしているだろう妻の反応を想像していると、パンパンと両手を打ち鳴らす音が聞こえ、そちらへと目を向けた。
「皆の意見は聞かせて貰った」
会議室の最も上座に座ったエルナン国王陛下の言葉にそれまでの喧騒が嘘であるかのように静まり返った。
それほど大きな声で話している訳ではないのだが、皆が陛下の言葉を聞き漏らさぬようにきちんと意識を向けている。
強制された訳でもないのに、きちんとお言葉を聞こうと耳を澄ます姿に、エルナン陛下が国民に慕われている賢王だと感じさせられた。
竜の相方がいるわけではない、蛮勇という訳でもない。
しかしその穏やかな治世はしっかりとレイナス王国を富国へと導いた。
「我が国の守護神とも言える竜達を他国に出すべきではないと言う貴族達の意見も、研究対象である稀少な竜を他国へ渡したくないそなたらの意見も最もだ」
エルナン陛下に自分の意見にたいして理解を得られたことで貴族達も学者達も満足げに頷いている。
「竜の卵が付きまとっているのが我が国の民であったならその者を王家が保護することも可能であったが、かの竜卵が侍っているのはそちらに隣席されておられるローズウェル王国のカイザー王太子殿下の妃殿下だ」
エルナン陛下の言葉に皆の視線がこちらへ流される。
この中には明らかに俺が隣席していたことを今知ったとばかりに驚いている者が数名が見受けられて思わず苦笑する。
「竜は我々が知らぬ独自の生き方をしており大変興味深い、次から次へと新しい発見があるのが竜だ」
その発言に竜学者たちが大きく頷いている。
「しかし、皆忘れてはおらんか?」
お互いに視線をあわせて何か忘れているのだろうかと考えているようだ。
「我らがここでいかに議論を交わそうとも、竜を止められるのは彼らの相棒となる者と同じ竜のみ」
その言葉に会場にいた全ての視線が一斉にレオル殿下へ、そしてその相方であるロゼへと集まる。
「私にあの竜卵を止める事は出来ないからね、ロゼは……多分協力してくれないと思うよ」
まるでレオル殿下の言葉を理解しているのではないかと思えるほどにロゼは器用にレオル殿下の肩の上で身体の向きを入れ換えると、背中を向けてしまった。
「いくら血気盛んなレイナス王国の民だとしても相棒を求めて暴走する凶器を止めたい命知らずがいるなら止めないけどね、私はやらない」
「ですが!」
「それともリシャーナ王太子妃殿下を監禁でもするつもり?」
にっこり笑ったレオル殿下の微笑みの黒さに気圧されたように声をあげた貴族の男性が怯む。
「それは、我が国に対する宣戦布告ですか?」
両手を組みながら椅子に深く腰かけ、低く威圧するように声をかける。
「ご冗談を、私はやっと平安を手に入れ幸せに暮らす民達を自ら戦乱へ追いやるつもりはありませんよ、もちろん戦乱の目はきちっと潰しますし、自衛はしますがね」
「そうですか、安心しました。 協力が必要なときはご相談ください」
俺とエルナン陛下のにこやかで物騒なやり取りにそれまで喚いていた貴族たちが押し黙った。
「ではもし竜卵が自らの意思でローズウェル王国まで自力で移動するようであれば、我が国の竜学者たちを数名同行させローズウェル王国へ受け入れて頂きたい」
その言葉に耳を疑う。 レイナス王国の竜についての知恵者は竜を狙う各国が喉から手が出るほど欲しがっている人材でもある。
想定外の事態に動揺しながらも、悟られないように微笑みを浮かべたままエルナン陛下の言葉を待つ。
「竜の生態についてはまだまだわからないことの方が多い、この度の竜卵の行動は前例すらありません。 そしてローズウェル王国に現在竜はおらず、その飼育に必要な知識も少ない」
「その通りです、はっきりいって竜にこられたとしてこちらとしては対応しきれないでしょう」
竜の生態は未知数だ。 いや、ほぼわかっていないに等しい。
そしてわかっているのは子供の時に聞かされる寝物語や英雄譚にでてくる初代竜王シオル・レイナス王に生涯仕えたとされる紅の竜。
「この度の竜卵はこれまでの竜達と行動が違いすぎる、かの卵から産まれた竜を観察すればまた竜の生態を解き明かす鍵となろう」
「ならばなおのことあの卵はレイナス王国で!」
納得できて居なかったであろう貴族の一人が声を上げる。
「そこまで言うならグローブ侯爵が反対派ものたちを集め、責任を持ってあの卵を止めてみせろ」
尊大に言い放つと、エルナン陛下が命を下した。
城さえも破壊する竜の卵を止めろと言われ、顔を青くしたグローブ侯爵は同じく反対派らしき面々に助けを求めるように視線を送るが、ことごとく反らされている。
誰だって命は大切だ。
「カイザー殿下と妃殿下がローズウェル王国へご帰国される際にはレイナス王国とレイス王国との国境まで我が国の軍の中でも精鋭の騎士達に護衛させます」
竜を止めるために、竜卵が付き纏っているリシャへと矛先が向くのを警戒しているのだろう。
祖国から護衛は連れてきているが、もともと新婚旅行への護衛だったため同行数は少なく、多数に包囲されては今の人数ではリシャを守りきれるか不安が残る。
「ご配慮頂きたいありがとうごさいます」
俺はエルナン陛下にゆっくりと頭を下げた。
「これにて終いとする。 レオル、カイザー殿下を頼む。 皆のもの救助と片付けにいくぞ!」
「「おー!」」
そう言って立ち上がったエルナン国王陛下はレイナス王国の貴族たちを率いて、被害者の救出に向かって出ていった。
「さてロゼ、お前も父上を手伝ってくれるかな?」
レオル殿下はロゼへ優しく声をかけ、その艶や薄紅色の鱗を身体に沿ってゆっくりと撫でる。
その手に甘えるようにすり寄り、ロゼは近くの窓から外へと出ていった。
「ではカイザー殿下、ご案内致します」
総意とは言いきれないが、最悪の状況を間逃れた事に、内心安堵する。
竜卵をとどめるために武力による監禁すらもあり得る未来の一つとして想定していた、また両国の間で戦争にでも発展すれば、二国の間にある強国レイス王国も黙ってはいないだろう。
暢気に竜卵と共に寝ているだろう妻を思い浮かべ、我ながらとんでもない妻を貰ったものだと思いに更ける。
気が抜けたのだろう、どっと疲れが襲ってくる。
なんだかんだ丸一日以上寝ていない。
「レオル殿下、私は部屋へと戻らせて頂きます」
「そうですか、妃殿下がお怪我をされているのに、配慮が足りず申し訳ありません」
別れを告げてフォルファーと共に部屋へと戻り身支度を整えると、護衛達やフォルファーにも休むように伝え、寝室へ入る。
盛大に掛布を蹴り飛ばして淑女にあるまじき寝姿をさらしているリシャへ拾い上げた掛布を被せ直し、その隣へと滑り込めば無意識に胸元へすり寄るリシャの金茶色の髪を撫でる。
寝相の悪ささえ愛しいと感じてしまう。
「愛してる……」
旋毛へとキスをして暖かな身体を抱き締めて眠りへと落ちた。
竜を讃える祭りの真っ只中に発生したファングの乱心により、竜達の住み処となっている森から始まり王太子の相棒であるロゼが暮らす竜舎も含め城の一部が破損し、逃げ遅れた数名がいまだに瓦礫の下に取り残されているらしい。
既にレイナス王国の国王より謝罪は受けており、警備責任者等の降格や賠償などの話し合いは友好国として迅速かつ穏便に終了している。
そんな中、被害者の救出に混乱する現場とはまた違った混乱に城の一室、レイナス王国の主だった有識者や権力者達が激論を繰り広げていた。
「ダメだ! 竜は我が国の貴重な戦力にして国家財産だ。 他国に出すなど言語道断!」
「竜はただ一人の人間と生涯を供にする、竜王シオル陛下亡き後、次の相手を選んではいただけないかと試行錯誤を繰り返したが初代竜であるサクラ様、そしてファング様も決して次の人間を相手に選ぶことはなかった」
「さよう、我ら竜学者はさまざまな情報を集め、サクラ様の降臨以降は何年も竜の生態解明に取り組んできましたがその生態はいまだ謎だらけです」
「前例に当てはめれば本来は相手となると人物の元へ障害となる物を全て破壊して馳せ参じ、卵から孵る生き物、それが竜!」
「しかし今回は孵ってはおらん! ローズウェル王国の王太子妃殿下が竜の相方ではない!」
様々な意見が食い違い紛糾する会合に呼ばれて来たけれど、どうせ呼ぶならばレイナス王国側の意見が纏まってからにしてほしかったと思うのは仕方がないだろう。
「申し訳ありません、カイザー殿下」
心底済まなそうにこちらへ声をかけてきたのはあの夜会の夜最後にリシャと話していたセリオン・ヒース侯爵令息だった。
プラチナの髪に煌めき、珍しい赤い瞳をした整った容姿をしている彼がもしあの晩リシャを引き留めていてくれたならこのような騒ぎにはならなかったはずだ。
……いや、違うな、いくら社交のためとはいえ、友好国の王女に誘われたからといって情緒不安定なリシャから離れるべきではなかったのに、彼女をひとりにしてしまった自分のせいだ。
「いぇ、セリオン殿はガブリエラ王女殿下とご一緒なさらなくてよろしいのですか?」
ガブリエラ王女は先のファングの襲撃の際に、天井から落ちてきたシャンデリアを避けるため足を痛めたようだと情報がまわっていた。
「お恥ずかしながら、どうやら私は女性の感情の機微に疎いようで、ガブリエラ王女殿下のお叱りをいただいてしまいました」
異変が起きてすぐ、ガブリエラ王女に駆け寄り、その身を盾にシャンデリアから王女を守った婚約者に、ガブリエラ王女が大変分かりやすく熱い視線を送っているは周知の事実なのだが、素直になれないガブリエラ王女の態度は一番伝わってほしい相手に一切伝わっていないらしい。
ガブリエラ王女はセリオン殿に焼きもちを焼いてほしかったらしく、身分で釣り合いがとれる当て馬として白羽の矢がたったのが俺だったと泣きながら謝罪を受けた。
婚約者同士のすれ違いに巻き込まれ、はっきりいって迷惑きわまりない。
だけど、あのどこか飄々としたリシャが焼きもちを焼く姿は愛しさが込み上げて溢れ、夫婦仲も大層深まった。
出来れば怪我をしたリシャに付き添っていたい、しかし既にこの場に来てから時告げの鐘が二つ(約二時間)鳴っている。
今回の竜の暴走にリシャが巻き込まれ、負傷したことはレイナス王国側の警備が不足しており、ローズウェル王国としては被害者であるという主張を覆すつもりはない。
たまたま夜会の会場から夜風に当たるために庭園に降りたリシャが卵泥棒に遭遇し、竜の暴走に巻き込まれ、たまたま転がってきた竜の卵に付きまとわれるようになっただけだ。
そぅ、たまたま……一体どうしてこうなった。
昔から、いく先々で想定外の騒動を起こしては、ものの見事に周りを振り回し、本人はまるで自覚がない。
きっと問い詰めたところでキョトンとしているだろう妻の反応を想像していると、パンパンと両手を打ち鳴らす音が聞こえ、そちらへと目を向けた。
「皆の意見は聞かせて貰った」
会議室の最も上座に座ったエルナン国王陛下の言葉にそれまでの喧騒が嘘であるかのように静まり返った。
それほど大きな声で話している訳ではないのだが、皆が陛下の言葉を聞き漏らさぬようにきちんと意識を向けている。
強制された訳でもないのに、きちんとお言葉を聞こうと耳を澄ます姿に、エルナン陛下が国民に慕われている賢王だと感じさせられた。
竜の相方がいるわけではない、蛮勇という訳でもない。
しかしその穏やかな治世はしっかりとレイナス王国を富国へと導いた。
「我が国の守護神とも言える竜達を他国に出すべきではないと言う貴族達の意見も、研究対象である稀少な竜を他国へ渡したくないそなたらの意見も最もだ」
エルナン陛下に自分の意見にたいして理解を得られたことで貴族達も学者達も満足げに頷いている。
「竜の卵が付きまとっているのが我が国の民であったならその者を王家が保護することも可能であったが、かの竜卵が侍っているのはそちらに隣席されておられるローズウェル王国のカイザー王太子殿下の妃殿下だ」
エルナン陛下の言葉に皆の視線がこちらへ流される。
この中には明らかに俺が隣席していたことを今知ったとばかりに驚いている者が数名が見受けられて思わず苦笑する。
「竜は我々が知らぬ独自の生き方をしており大変興味深い、次から次へと新しい発見があるのが竜だ」
その発言に竜学者たちが大きく頷いている。
「しかし、皆忘れてはおらんか?」
お互いに視線をあわせて何か忘れているのだろうかと考えているようだ。
「我らがここでいかに議論を交わそうとも、竜を止められるのは彼らの相棒となる者と同じ竜のみ」
その言葉に会場にいた全ての視線が一斉にレオル殿下へ、そしてその相方であるロゼへと集まる。
「私にあの竜卵を止める事は出来ないからね、ロゼは……多分協力してくれないと思うよ」
まるでレオル殿下の言葉を理解しているのではないかと思えるほどにロゼは器用にレオル殿下の肩の上で身体の向きを入れ換えると、背中を向けてしまった。
「いくら血気盛んなレイナス王国の民だとしても相棒を求めて暴走する凶器を止めたい命知らずがいるなら止めないけどね、私はやらない」
「ですが!」
「それともリシャーナ王太子妃殿下を監禁でもするつもり?」
にっこり笑ったレオル殿下の微笑みの黒さに気圧されたように声をあげた貴族の男性が怯む。
「それは、我が国に対する宣戦布告ですか?」
両手を組みながら椅子に深く腰かけ、低く威圧するように声をかける。
「ご冗談を、私はやっと平安を手に入れ幸せに暮らす民達を自ら戦乱へ追いやるつもりはありませんよ、もちろん戦乱の目はきちっと潰しますし、自衛はしますがね」
「そうですか、安心しました。 協力が必要なときはご相談ください」
俺とエルナン陛下のにこやかで物騒なやり取りにそれまで喚いていた貴族たちが押し黙った。
「ではもし竜卵が自らの意思でローズウェル王国まで自力で移動するようであれば、我が国の竜学者たちを数名同行させローズウェル王国へ受け入れて頂きたい」
その言葉に耳を疑う。 レイナス王国の竜についての知恵者は竜を狙う各国が喉から手が出るほど欲しがっている人材でもある。
想定外の事態に動揺しながらも、悟られないように微笑みを浮かべたままエルナン陛下の言葉を待つ。
「竜の生態についてはまだまだわからないことの方が多い、この度の竜卵の行動は前例すらありません。 そしてローズウェル王国に現在竜はおらず、その飼育に必要な知識も少ない」
「その通りです、はっきりいって竜にこられたとしてこちらとしては対応しきれないでしょう」
竜の生態は未知数だ。 いや、ほぼわかっていないに等しい。
そしてわかっているのは子供の時に聞かされる寝物語や英雄譚にでてくる初代竜王シオル・レイナス王に生涯仕えたとされる紅の竜。
「この度の竜卵はこれまでの竜達と行動が違いすぎる、かの卵から産まれた竜を観察すればまた竜の生態を解き明かす鍵となろう」
「ならばなおのことあの卵はレイナス王国で!」
納得できて居なかったであろう貴族の一人が声を上げる。
「そこまで言うならグローブ侯爵が反対派ものたちを集め、責任を持ってあの卵を止めてみせろ」
尊大に言い放つと、エルナン陛下が命を下した。
城さえも破壊する竜の卵を止めろと言われ、顔を青くしたグローブ侯爵は同じく反対派らしき面々に助けを求めるように視線を送るが、ことごとく反らされている。
誰だって命は大切だ。
「カイザー殿下と妃殿下がローズウェル王国へご帰国される際にはレイナス王国とレイス王国との国境まで我が国の軍の中でも精鋭の騎士達に護衛させます」
竜を止めるために、竜卵が付き纏っているリシャへと矛先が向くのを警戒しているのだろう。
祖国から護衛は連れてきているが、もともと新婚旅行への護衛だったため同行数は少なく、多数に包囲されては今の人数ではリシャを守りきれるか不安が残る。
「ご配慮頂きたいありがとうごさいます」
俺はエルナン陛下にゆっくりと頭を下げた。
「これにて終いとする。 レオル、カイザー殿下を頼む。 皆のもの救助と片付けにいくぞ!」
「「おー!」」
そう言って立ち上がったエルナン国王陛下はレイナス王国の貴族たちを率いて、被害者の救出に向かって出ていった。
「さてロゼ、お前も父上を手伝ってくれるかな?」
レオル殿下はロゼへ優しく声をかけ、その艶や薄紅色の鱗を身体に沿ってゆっくりと撫でる。
その手に甘えるようにすり寄り、ロゼは近くの窓から外へと出ていった。
「ではカイザー殿下、ご案内致します」
総意とは言いきれないが、最悪の状況を間逃れた事に、内心安堵する。
竜卵をとどめるために武力による監禁すらもあり得る未来の一つとして想定していた、また両国の間で戦争にでも発展すれば、二国の間にある強国レイス王国も黙ってはいないだろう。
暢気に竜卵と共に寝ているだろう妻を思い浮かべ、我ながらとんでもない妻を貰ったものだと思いに更ける。
気が抜けたのだろう、どっと疲れが襲ってくる。
なんだかんだ丸一日以上寝ていない。
「レオル殿下、私は部屋へと戻らせて頂きます」
「そうですか、妃殿下がお怪我をされているのに、配慮が足りず申し訳ありません」
別れを告げてフォルファーと共に部屋へと戻り身支度を整えると、護衛達やフォルファーにも休むように伝え、寝室へ入る。
盛大に掛布を蹴り飛ばして淑女にあるまじき寝姿をさらしているリシャへ拾い上げた掛布を被せ直し、その隣へと滑り込めば無意識に胸元へすり寄るリシャの金茶色の髪を撫でる。
寝相の悪ささえ愛しいと感じてしまう。
「愛してる……」
旋毛へとキスをして暖かな身体を抱き締めて眠りへと落ちた。
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