『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

二十話『夢じゃなかった、現実ですぅ』

 目が覚めればレイナス王国で滞在先として用意された貴賓室の広々としたベッドの上だった。


「あれ? 私どうしたんだっけ……っ! 痛だだだだっ」


 ベッドから身体を起こそうとして全身のあちらこちらから激痛が襲ってくる。


 微かに目が開きにくいなぁと思って手を伸ばせば、白い包帯がしっかりと米神の傷を隠すように巻き付けられている。


「全身に打撲傷やら擦り傷やらでぼろぼろなんだ無理はするな」


 声をかけられて視線を向けると大きなベッドの脇に椅子を横付けてカイが深い深いため息を吐いていた。


「目が覚めて良かった、もう目が覚めないんじゃないかと……」


 憔悴しきった声音にはいつもの覇気はない。


「心配かけてごめんね」


「うるせぇ。 謝るくらいなら心配かけないように少しは自重しろ」


「うん」


 私の身体をそっと自分の腕の中に抱きいれる。


 私が痛くないように軽く触れるだけの包容が物足りなくてカイの背中に両手を回して抱きついた。


 大丈夫、痛くないよと伝えたくてぎゅっと抱き付けばカイの腕が力を増す。


「はぁ、なんだってお前は行く先々で厄介ごとを拾ってくるんだ?」


「えっ、知らないし」


 人をトラブルメーカーのように言わないで頂きたい……あれ、デジャブ……。


「自覚が無いのか、昔から動けば何かしらの厄介ごとに巻き込まれるか、自らの問題を起こしているのに?」
 
「えー、起こしてるかな……」


 自分がやらかしたであろう内容を振り返りバツが悪くて視線をさ迷わせ、視線に映った球体に思わず右手の手のひらを両目に押し当てた。


「うん、夢だ。 夢に違いない」


 もそもそとベッドに横なり掛布を肩まで引き上げる。


 するとカイの手によって無情にもペイっと掛布が外され飛び起きる。


 全身に痛みが走り悶絶しながら今見た物を恐る恐る確認する。


「うわぁ、夢じゃなかった」


 この丸いフォルムも大きさも薄紅色も見間違いであってほしい。


「あぁ紛れもない現実だ。現実逃避するなよ」


「これってまさかファングの竜卵じゃないよね」 


「安心しろ、比較的安全? なほうの竜卵だからな」


 果たして安心して良いのだろうか、前に説明して貰ったとき何と言っていた?


 竜卵はパートナーの元に行くと言っていなかったっけ?


 たしかパートナーと出会うと孵るんだよね、なんでここに卵があるのよ!


 ぐるぐる回る思考の渦に混乱するなと言う方が無理だろう。


 頭を抱えて悶絶していたらカイに両肩を押されてポスンとベッドに押し倒された。


「たくっ、もうしばらくおとなしく寝てろ」
 
「だって、これなんでここにあるのよ、下手したら国際問題になりかねないじゃない!」


 今は友好関係にある両国だが、これが火種となり戦争の引き金になりかねない。


 小さく震えてしまうとなだめるように私の頭を撫でて髪をすき、カイの唇が額に落ちた。


「あとは俺が引き受ける、もう少し寝てとりあえず今は何も考えず回復に専念しろ、あとでクラリーサに食事を運ばせる」  


「うん、わかった」


「いい子だ」


 優しい手と声に甘えて目を閉じれば、丸い卵が腹部にすり寄ってきた。


「お前も一緒に寝る?」


 卵をつつきながら、つい卵に話し掛ければ頭上から深い深いため息が聞こえてくる。


「まさか卵に嫉妬する日が来ようとは思わなかった」


 落ち込んでいるのか自嘲気味に呟く小さな声に驚き、卵に背を向けてカイの方へ身体の正面を向けるように体勢を入れ換える。


 夫であるカイに馴れ馴れしくしてくるガブリエラ王女に対して嫉妬していた。


 レイナス王国に来てから醜いドロドロとした底無し沼に嵌まったように自分で抑えきれない感情に振り回されっぱなしで、でも王太子妃としてふさわしい振る舞いをしようと無理やり嫉妬を押し込めようとして悪化した。


 日に日にカッコ良くなっていくカイとお近づきになろうと美しい女性や愛らしい女性が集まってくる。


 社交の一貫だと分かっていても女性達に嫉妬しているのは自分だけだと思っていたけれど、私だけではないのだろうか。


 まじまじとカイの顔を見上げる。 


「なんだよ」  


 ぶっきらぼうに不機嫌そうな声を出して睨まれてしまったけれど、耳は真っ赤だし、今ではこれがカイの照れ隠しだと知っている。


 もし、少しだけでも嫉妬してくれていたのなら、不謹慎かもしれないけれど嬉しい。


 たったそれだけの事なのに胸のなかでドロドロと渦巻いていた嫌な気持ちがすぅっと消えていく。


「何でもない」


 次から次へと多幸感が沸き上がってきてによによと崩れた顔をなんとなく見られたくなくて布団を引き上げて顔を隠す。


「そっか……竜卵殿、妻をよろしくお願いいたします」


 まるでカイの言葉に同意でもするかのように微かに竜卵が揺れた。 







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