『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

十六話『惚れた……絆された弱み』

 レイナス王国の王都観光の翌朝、カイに背中から抱き込まれる形で目が覚めた。


 一日中城下町を歩き回りお祭りを堪能し、疲れていたこともあるが、カイの宣言通り朝方近くまで愛を確かめ合った結果とどめをさされた次第です。


 身体の向きを入れ換えて満足そうな顔で眠る整った顔がなんとなく憎らしくて人差し指を伸ばしてスッと通った鼻頭をクイッと押し上げる。


 イケメンの豚っ鼻が思いの外似合わなくて小さく吹き出した。


「寝込みを襲うとか酷いんじゃないか?」


 そう言ってニヤリと笑ったカイに素早く唇を奪われる。


 角度を変え、深さを変え、緩急をつけながら貪られる口づけに頭がぼぅと芯が蕩けるような酩酊感。


「はぁ、今日の政務取り止めて二人でいようか」    


 そう言ってなつくカイの額に手刀をお見舞いする。


「ふざけてないで起きなきゃ、ほら!」


 軽く逞しい胸板をペシペシと叩くと、さも嫌そうにカイは身体を起こした。


 昨晩のうちに寝室に用意させていた二人ぶんの着替えから自分の分を素早く着替えると、部屋を出ていき朝の支度のために用意されていたらしい白湯を持って戻ってきてくれた。


 結婚して気がついた事だが、本来ならば王太子妃付きのクラリーサの仕事なのだが、なぜか私の支度を手伝いたがるようになったため、今ではカイの好きにさせている。


 クラリーサはそんなカイの姿に新婚ですもの仲睦まじいのは大変よろしゅうございますね、と止めない。


 今日はレイナス王国の王家主催で舞踏会が開かれるため、だるさと鈍痛を感じる腰をさりげなく擦りつつ、カイに手伝ってもらって身支度を整えた。


「リシャ、俺はフォルファーと今夜の舞踏会の警護の配置について打ち合わせをしてくる。 もう少し休んでいてくれ昨夜は少し無理をさせたからな」 


 椅子に座る私の額に軽い口付けを落として部屋を出ていった。


「あれで少しとか体力ありすぎでしょう……」
  
 元々の基礎体力の違いだろうか、余裕綽々のカイに戦慄を覚える。


「おはようございます、朝食をお持ちいたしました」


 カラカラと音をたてる車輪がついたワゴンを押しながらカイと入れ替わるように入室してきたクラリーサに手伝ってもらい朝食を済ませた。


 カリッと焼かれたパンの柔らかさと風味豊かなバターの滑らかさ。
 
 こんがりと炙られたベーコンは香ばしく、トロッと焼き上げられたオムレツが鼻孔を擽る。


 付け合わせの温野菜サラダは味噌をベースにしたソースがかけられており大変美味しかった。


「今晩は舞踏会がございますが、ドレスの希望はございますか?」


 食後にクラリーサが入れてくれた美味しい紅茶でまったりしていると使用済みの食器を片付けたクラリーサが訪ねてくれた。


 ドレスに関してはカイが出国する際にしっかり準備してくれていたらしく、一国の王太子妃として恥ずかしくないようにシチュエーションにあわせてコーディネート出来るように持参してきたらしい。


 全くあの忙しいなかでよくもまぁこれだけ準備できたものである。


「カイザー殿下は何をお召しになるのかしら」


「殿下はリシャーナ様に合わせるそうですわ」


「また選ぶのが面倒で私に丸投げしたわね」


 結婚してから気がついたのだけれど、カイは二人で社交へ向かうとき私に衣装のコーディネートを丸投げしてくる事が多い。


 一度着たい物は無いのかと訊ねたことがあった。


「男物なんてあまり変わらないだろう。 自分の服を選ぶより、リシャが楽しそうにドレスを選んでいる姿をみていたほうが楽しいんだから仕方ないだろ?」


 さも当然だと言わんばかりに告げられ、羞恥に耐えきれずあえなく撃沈した。


 それ以来、自分のドレスを選ぶときには、カイの衣装も運ばれてくるようになったのだ。


 クラリーサが持ってきたドレスは舞踏会専用のスカートの裾がふんわりと広がったボリュームのあるロングドレスだ。


 床まで届く長いドレスは前世のおとぎ話でお姫様が纏っていたドレスを思い出してもらえればいいかもしれない。


 光沢のあるシルクやチュール、レース素材をふんだんに取り入れ、クリスタルビーズやパールなどがちりばめられたドレスは室内の光を反射して煌めいて見える。


 数色揃えられた最新流行の王室御用達の自信作のドレスを前にして深い深いため息をついた。


 このドレスはウエストの細さを強調するためコルセットでこれでもかと胴体を縛る。


 そしてスカート部分は逆にペチコートでたっぷりと膨らませるのだ。


 ダンスを主にした舞踏会なのに、裾は長くて踊りにくいし、コルセットで苦しいしでドレスの中で出来る限りの避けたい一着なのだ。


「ガブリエラ殿下は何色をお召しになるのかしら」 


 出来る限りの高位貴族や王族とのドレスの色と被らないように、高位貴族の婦人や令嬢は早めにドレスの色を通達する。


「ガブリエラ殿下は赤と発表が出ておりますね」 


 クラリーサが持参してきたドレスの中に赤色がないのはそのためらしい。


 カラフルなドレスに手を伸ばし、紺色のドレスに手を触れる。


 深い紺色のドレスは裾に向かっていくにつれ腰の辺りから紫になり裾は鮮やかな青にグラデーションがかかっている。


 上品に配置されたクリスタルビーズはまるで夜空の星を思い起こさせる。


「これにするわ」  


「ではカイザー殿下の衣装はこちらでよろしいですか?」


 クラリーサは同じ紺色の燕尾服をみせてくる。


 前世では黒が男性のドレスコードだったが、こちらの世界ではわりと緩い。


 エスコートする淑女を引き立てる暗い色であれば問題ないのだ。  


 紺色のジャケットとパンツ、真っ白なノリのきいたシャツとグレーのベスト・私のドレスと色を合わせたスカーフは紺から青へとグラデーションしている。


 燕尾服の飾りボタンにはローズウェル王家の印が彫刻されている。


 重厚感のある黒い革靴と白い手袋はカイによく似合いそうだ。


 カイがこの衣装を着たらさぞ似合いそうで、ついうっとりしていたらニコニコとこちらを見ているクラリーサの顔が目に入りあわてて取り繕う。


「んんっ、クラリーサ、こちらをフォルファーに届けてくれるかしら?」


「はいリシャーナ様」


 燕尾服を持って退室していったクラリーサを見送って、テーブルに頬をつけ恥ずかしさに火照った顔を冷やした。







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