『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
十四話『懐かしのお祭り風景』
竜祭りには各国から王公貴族や商人たちが集まる。
世界に数頭しか生息が確認されていない竜の全てが周囲を高く連なる山脈に囲まれたこのレイナス王国に存在しているため、竜はこの国の観光資源にもなっていた。
また自然の囲いによって周辺各国とは隔絶されているせいか、レイナス王国は他の国とはちょっと違う発展を遂げていたりする。
流石にドレスでは城下町では動きにくいため、ワンピースに着替えて同じく着替えを済ませたカイと城から出ると、大通りは人で溢れ帰っていた。
「うわ~! 明治にタイムスリップしたみたい!」
ドレス、紳士服、ワンピース、袴着に着物にと色々な衣装の人々が大通りを歩いていた。
「メイジ? タイムスリップとはなんだ?」
隣を歩いているカイに声をかけられて、ついつい前世の言葉を使ってしまっていたこと気がつく。
「うふふっ、なんでもないの。 うわっ!?」
ワクワクした気持ちで人混みに足を踏み出したが、人の流れがすごすぎて全く進めず、流される。
後ろから腕を捕まれて引き寄せられれば、カイの逞しい腕のなかに抱き込まれた。
「こら、リシャは俺から離れんなよ? ただでさえ方向感覚が皆無なんだ。 こんな他国で迷子になられたらいくら俺でも捜すのに苦労するだろう」
するりと肩を抱かれて人混みに二人で踏み出せば驚くほどに歩きやすい。
「しかし竜祭りは凄いな、こんな人混みローズウェル王国の王都ですら見たことがない」
「本当だね、ローズウェル王国は平野が多いから行商しやすいけど、わざわざ険しい山を越えなくちゃ来ないレイナス王国にこんなに人が集まるんだから凄いよね」
あちらこちらの店を覗きながら、進んでいくと王城に近い広場にたどり着いた。
この広場は主に他国からやって来た行商人達が出店をだしているらしく、色々な物がところ狭しと並べられ見ていて楽しい。
異文化入り乱れる広場を歩きながら、折角なのでクリスティーナ達へのお土産を物色していく。
木彫りの竜の置物には赤い塗料が塗られてつやつやと輝いている。
美しい朱塗りのお碗を手に取れば、すかさず商人さんが売り込みを掛けてきた。
「お嬢さん、お目が高いねぇ。 そいつは夫婦椀って縁起物なんだよ」
大きさの違う二つの朱塗りの木製のお碗には、可愛らしい花が掘り込まれている。
「なんでサイズがちがうんだ? 小さい方が妻用? 夫より少なく食べろという意味か?」
店主の差し出した椀を受け取り、持った感覚を確認しながら、不愉快げにカイがたずねる。
「あぁ、お客さんは他国の方なんですね、実際に試していただいた方がわかりやすいですかね」
そう言って取り出したのはシンプルな朱塗りのお碗だった。
大きさは先程の夫婦椀と同じものと、その二つの中間くらいの大きさのものを目の前の販売台に並べていく。
「お客さんのお国では主に食事に使用されるのは銀食器になりますか?」
「そうだ」
持っていた朱塗りのお碗を店主に返しながらカイが答える。
「なら器を持ち上げて食事をする習慣はあまりありませんね? この夫婦椀はこの国では伝統料理であるウードンやハァットゥなどを食べるために使用されるんですわ」
よくよく聞けばウードンは練った小麦粉をリボン状に切ったものを茹でた物で、色々な食べ方があるそうだが、この国の特産である味噌味の汁で煮込んだ物が一般的らしい、ハァットゥは練った小麦を薄く手で引き伸ばしてか、一口大に千切ったものを茹でて汁に入れたり、ウードンのように他の食材と絡めて食すようだ。
うん……うどんとすいとん(はったと)だね。
「結構な麺の量と汁がなみなみに注がれるもので、実際に使用する時には汁の重さだけでもそれなりの重量になっちまうんですよ」
そう言って店主は夫用の大きな器に縁の少し下位、傾けなければ溢れない位までまで冷水を入れてカイに渡す。
「今は水を入れてあるから良いが、汁は熱いからもし引っくり返せば火傷しちまう。 銀食器と違ってこいつは器を手で持ち上げてつかうもんだ。 その器を嫁さんに渡してみな」
そう言われてカイからお碗を受けとれば、あまりの器の重さに驚いた。
「重っ!」
ズッシリとした重い椀に両腕がプルプルと痙攣する。
危うくバランスを崩しかけて中身を溢しそうになった私の様子にカイが慌てて引き取ってくれた。
「ありがとう」
「あぁ、そんなに重かったか?」
「うん、驚いた」
「お客さんら、良いとこの跡取りだろ? 平民の格好をしてるが、手が綺麗すぎる。 普段食器をあまり持たないから、平衡が取れずに、溢しやすい。 ほらこっち持ってみてくだせぇ」
そう言って渡されたのは小さい方の器だった。
両手で包み込める大きさの器は、しっかりと手のひらに収まり、水が入っているにも関わらず持ちやすい重さだ。
「持ちやすい!」
「ほらな? ならこっちはどうだい?」
そう言って真ん中にあった器も渡されたが、そちらは少し持ちづらかった。
「小さい方が収まりがいいですわ」
そう言うと、店主は小さい器をカイに差し出す。
「軽いな」
「だろう? それが男である旦那さんと嫁さんの力の差だ、中身なんぞ何回でもよそって食べさせてやれば良いんだよ。 大きさが違うだなんだと使いやすい器を選ばせず怪我をさせる方がよっぽどのバカ亭主だよ。 力の差を理解してやんな」
その説明で納得したのか、カイはこちらを向くとにっこりとわらった。
「リシャ、好きなものを選んでくれ。 店主、一揃い貰おう……いや、三組貰う。 リシャ、クリスティーナ嬢とシャノン嬢へのお土産にしようとおもうんだが、どうだろう? 選んでくれないか?」
今ではすっかり親友になった二人を思いだす。
「勿論よ!」
「おっ、ならおまけで夫婦箸も着けようじゃねぇか。 三組分の夫婦椀と夫婦箸だ。 若夫婦の未来に双太陽神の加護があらんことを」
そう言って祝福してくれた。
お土産にそれぞれが似合いそうな花が彫刻された碗を購入し、私達は小さな桜に似た小花が彫られた夫婦椀を購入した。
世界に数頭しか生息が確認されていない竜の全てが周囲を高く連なる山脈に囲まれたこのレイナス王国に存在しているため、竜はこの国の観光資源にもなっていた。
また自然の囲いによって周辺各国とは隔絶されているせいか、レイナス王国は他の国とはちょっと違う発展を遂げていたりする。
流石にドレスでは城下町では動きにくいため、ワンピースに着替えて同じく着替えを済ませたカイと城から出ると、大通りは人で溢れ帰っていた。
「うわ~! 明治にタイムスリップしたみたい!」
ドレス、紳士服、ワンピース、袴着に着物にと色々な衣装の人々が大通りを歩いていた。
「メイジ? タイムスリップとはなんだ?」
隣を歩いているカイに声をかけられて、ついつい前世の言葉を使ってしまっていたこと気がつく。
「うふふっ、なんでもないの。 うわっ!?」
ワクワクした気持ちで人混みに足を踏み出したが、人の流れがすごすぎて全く進めず、流される。
後ろから腕を捕まれて引き寄せられれば、カイの逞しい腕のなかに抱き込まれた。
「こら、リシャは俺から離れんなよ? ただでさえ方向感覚が皆無なんだ。 こんな他国で迷子になられたらいくら俺でも捜すのに苦労するだろう」
するりと肩を抱かれて人混みに二人で踏み出せば驚くほどに歩きやすい。
「しかし竜祭りは凄いな、こんな人混みローズウェル王国の王都ですら見たことがない」
「本当だね、ローズウェル王国は平野が多いから行商しやすいけど、わざわざ険しい山を越えなくちゃ来ないレイナス王国にこんなに人が集まるんだから凄いよね」
あちらこちらの店を覗きながら、進んでいくと王城に近い広場にたどり着いた。
この広場は主に他国からやって来た行商人達が出店をだしているらしく、色々な物がところ狭しと並べられ見ていて楽しい。
異文化入り乱れる広場を歩きながら、折角なのでクリスティーナ達へのお土産を物色していく。
木彫りの竜の置物には赤い塗料が塗られてつやつやと輝いている。
美しい朱塗りのお碗を手に取れば、すかさず商人さんが売り込みを掛けてきた。
「お嬢さん、お目が高いねぇ。 そいつは夫婦椀って縁起物なんだよ」
大きさの違う二つの朱塗りの木製のお碗には、可愛らしい花が掘り込まれている。
「なんでサイズがちがうんだ? 小さい方が妻用? 夫より少なく食べろという意味か?」
店主の差し出した椀を受け取り、持った感覚を確認しながら、不愉快げにカイがたずねる。
「あぁ、お客さんは他国の方なんですね、実際に試していただいた方がわかりやすいですかね」
そう言って取り出したのはシンプルな朱塗りのお碗だった。
大きさは先程の夫婦椀と同じものと、その二つの中間くらいの大きさのものを目の前の販売台に並べていく。
「お客さんのお国では主に食事に使用されるのは銀食器になりますか?」
「そうだ」
持っていた朱塗りのお碗を店主に返しながらカイが答える。
「なら器を持ち上げて食事をする習慣はあまりありませんね? この夫婦椀はこの国では伝統料理であるウードンやハァットゥなどを食べるために使用されるんですわ」
よくよく聞けばウードンは練った小麦粉をリボン状に切ったものを茹でた物で、色々な食べ方があるそうだが、この国の特産である味噌味の汁で煮込んだ物が一般的らしい、ハァットゥは練った小麦を薄く手で引き伸ばしてか、一口大に千切ったものを茹でて汁に入れたり、ウードンのように他の食材と絡めて食すようだ。
うん……うどんとすいとん(はったと)だね。
「結構な麺の量と汁がなみなみに注がれるもので、実際に使用する時には汁の重さだけでもそれなりの重量になっちまうんですよ」
そう言って店主は夫用の大きな器に縁の少し下位、傾けなければ溢れない位までまで冷水を入れてカイに渡す。
「今は水を入れてあるから良いが、汁は熱いからもし引っくり返せば火傷しちまう。 銀食器と違ってこいつは器を手で持ち上げてつかうもんだ。 その器を嫁さんに渡してみな」
そう言われてカイからお碗を受けとれば、あまりの器の重さに驚いた。
「重っ!」
ズッシリとした重い椀に両腕がプルプルと痙攣する。
危うくバランスを崩しかけて中身を溢しそうになった私の様子にカイが慌てて引き取ってくれた。
「ありがとう」
「あぁ、そんなに重かったか?」
「うん、驚いた」
「お客さんら、良いとこの跡取りだろ? 平民の格好をしてるが、手が綺麗すぎる。 普段食器をあまり持たないから、平衡が取れずに、溢しやすい。 ほらこっち持ってみてくだせぇ」
そう言って渡されたのは小さい方の器だった。
両手で包み込める大きさの器は、しっかりと手のひらに収まり、水が入っているにも関わらず持ちやすい重さだ。
「持ちやすい!」
「ほらな? ならこっちはどうだい?」
そう言って真ん中にあった器も渡されたが、そちらは少し持ちづらかった。
「小さい方が収まりがいいですわ」
そう言うと、店主は小さい器をカイに差し出す。
「軽いな」
「だろう? それが男である旦那さんと嫁さんの力の差だ、中身なんぞ何回でもよそって食べさせてやれば良いんだよ。 大きさが違うだなんだと使いやすい器を選ばせず怪我をさせる方がよっぽどのバカ亭主だよ。 力の差を理解してやんな」
その説明で納得したのか、カイはこちらを向くとにっこりとわらった。
「リシャ、好きなものを選んでくれ。 店主、一揃い貰おう……いや、三組貰う。 リシャ、クリスティーナ嬢とシャノン嬢へのお土産にしようとおもうんだが、どうだろう? 選んでくれないか?」
今ではすっかり親友になった二人を思いだす。
「勿論よ!」
「おっ、ならおまけで夫婦箸も着けようじゃねぇか。 三組分の夫婦椀と夫婦箸だ。 若夫婦の未来に双太陽神の加護があらんことを」
そう言って祝福してくれた。
お土産にそれぞれが似合いそうな花が彫刻された碗を購入し、私達は小さな桜に似た小花が彫られた夫婦椀を購入した。
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