『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

十三話『腹ペコな肉食獣』

 護衛達は相変わらずいるものの、声が届かない範囲まで距離を置いてくれているようで、カイに背中から抱き締められながら一緒に竜の卵を観察する。


 お腹に回ったカイの大きな手の甲にそっと自分の手を重ねた。


 新婚旅行に来たけれど、レイナス王国の王都へ入ってからは人目が気になり、あまりイチャイチャしていなかった気がする。


 カイの腕で抱き締められるのは嬉しいけれど、やはり人前でだと恥ずかしさが勝って素直に甘えられない。


 そう考えれば王太子と王太子妃にプライベートなどあるはずもなく必然的に接触が少なくなる。


「はぁ……やっと捕まえた」


 すりすりと私の肩に額を擦り付けて疲れたようなため息を吐いたカイのサラサラの髪が鎖骨を撫でてくすぐったい。


「カイがこんな事をするなんて珍しいね」


「仕方がないだろう……恥ずかしがるリシャも愛らしいが、いい加減リシャ不足だ。 補給させろよ……」


 更に強まる拘束に宥めるように手の甲をポンポンと優しく叩く。


「ふふふっ、ルーベンスがこんなカイをみたら驚くだろうね。いつもは凛とした王太子のカイがこんな甘えん坊だって知ったら床に崩れ落ちそう」


 婚約破棄騒動後、ドラクロア辺境伯爵の領地に私とカイ、クリスティーナとともに、ルーベンスの再教育もかねて島流しにされて以来、ルーベンスはすっかり兄馬鹿になってしまった。


 クスクス笑うと、カイがガックリと力を抜いてのし掛かって来て慌てて踏ん張る。


「ぬぉぉお!?」


「フッ……こんな色気のねぇ声でも可愛く聞こえるんだから惚れた弱味だよな、でもムカつく」


 腰に回されていたカイの右手が腹部から胸部を這い上がり私の顎を掴むと上向かせる。


 身長さもあるカイの顔を下から上目遣いに見上げる形になり、カイの整った顔が目に入り鼓動が跳ね上がる。


「俺の腕の中にいるのに他の男の名前なんて呼んでんじゃねえよ」


 形のいい薄い唇がふわりと唇に重ねられ、抵抗する暇もなく貪られた。


「はぁ、このまま寝室に閉じ込めてぇ」


 息も絶え絶えになりながら耳に吹き込まれた色気が多分に含まれた低い声に慌てて身をよじる。


「かっ、カイとやっと二人になれたんだから、一緒に王都の見学がしたいなぁ」


 こんな昼真っからベッドに撃沈されてたまるか!


 カイに全力で貪られたら間違いなく半日以上動けなくなる。


「ほっ、ほら! 新婚旅行に来たわけだし、レイナス王国って他の国にはない技術や工芸品が沢山あるじゃない? 竜祭りで各地から商人達も集まってるもの!」


 必死にいい募ると、ため息を吐かれた。


「はぁぁ……分かったよ、うちの妻は恥ずかしがり屋だからな。 夜は覚悟しとけよ」


 にっこりと黒い笑みを浮かべているカイがお腹がすいた肉食獣に見える。


「おっ……お手柔らかにお願いします」


 ガラスの向こうでコロリコロリと転がって、壁に当たっては反対側へ向きを変えて転がっていく姿がまるで子供の寝相のようで可愛らしい竜の卵をみながら内心悲鳴をあげてしまった。


 

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