『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

第十一話『朝食は女の戦い』

 クラリーサにレオル殿下とガブリエラ王女殿下との朝食会の支度を手伝って貰い、同じくフォルファーに手伝って貰い支度を整えたカイのエスコートでレイナス王国近衛騎士の案内で会場となる部屋へと足を踏み入れた。


 どうやら朝食会は王族の居住区で行われるらしい。


 室内には華美にはならないがしっとりとした品がある落ち着いた調度品が置かれそれら全ては最高級品だと見て取れる。


 既にレオル殿下とガブリエラ王女は食卓となる長方形のテーブルに着席しておりなぜかカイは夫婦である私の隣ではなくガブリエラ王女の隣に案内され、私はレオル殿下の隣……なんでやねん。


「朝早くの朝食のお誘い失礼いたしました」 


 レオル殿下の謝罪を受け入れ食事が始まる。


 給仕によって運ばれてきた湯気の立つ食事は全体的に茶色い色の調味料で味付けがなされているようだった。


「本日は我が国の特産品である味噌と醤油を使用したお料理をご用意させていただきました。 お口に合えばよろしいのですが」


 味噌と醤油はレイナス王国の特産品だが、まだまだ希少で高価なため市場には出回っておらず、ローズウェル王国には輸入数も限られる。


 醤油は味噌を作る際に味噌樽と呼ばれる入れ物の底から僅かにしか取れないらしい。


 前世のように気軽にドバドバ使える代物ではないけれど、懐かしさに胸が詰まる。


 味噌焼きしたらしい白身の魚は香ばしく、茹でた野菜に少量垂らす醤油は少し味噌の名残を残しているものの大変美味だった。


 スープは朱塗りのお椀で運ばれてきて器を手に取りスプーンを使わずに器を口元に運んで直接飲むらしい。


 レオル殿下の所作を真似て口へ、椀を運べば口に懐かしい味噌汁が染み渡る。


 数種類の野菜と豚肉が入っており出汁が効いていて……ホッとする。


「美味しい!」
  
 和食なおかず、豚汁に主食がパンなのが残念だ、白飯が欲しい……切実に。
 
「お気に召していただけたよう何よりです。 味噌も醤油も独特の癖がありますから好き嫌いがはっきり分かれてしまうんです」 


「私は好きです」


 異世界で味噌や醤油に出会えるなんて、はじめに味噌を作った先人に感謝したい。


「では祖国にご帰国される際にはお土産としてお持ち帰りいただけるようにご用意させて頂きますね」


 ニパッと笑うレオル殿下につられて微笑み合う。


 私は末っ子で下に妹も弟も居ないけど、きっと居たらレオル殿下のような感じなのかな?


「ありがとうございます」


 レオル殿下と和やかに食事しながらの意図的に目の前で起きている事から?意識を外す。


「まぁそうなのですね! カイザー殿下は博識でいらっしゃいますのね!」


「お褒めに預かり光栄です」


 一見和やかに外交をしているようだけど一つ言いたい! ガブリエラ王女とカイの距離が近すぎやしませんかね!?


 イラッとした感情を反映したのか、右手に持っていたフォークが食器に当たってしまいガシャリと音を立てた。


 出来る限り音を立てずに食器を操る事も貴婦人としての基本的なマナーの一つなのに、他国のしかも王族の前で露見させてしまった。


「あっ!」


 すると隣から声が聞こえてレオル殿下がカトリラリーを床に落としてしまったらしい。


「申し訳ありません、お見苦しい物をお見せいたしました。 いつも箸を使用して食事をするせいかフォークやスプーンの扱いに不安が残るのです、箸を用意してもよろしいでしょうか?」


 その言葉に私の失敗を有耶無耶にするため自ら泥を被ってくださったのだと分かった。


「どうぞ箸をお使いください」   


 私が言うと素早く換えの箸が用意され、それぞれが食事を終え用意された紅茶をいただく頃に本題がレオル殿下の口から告げられる。


「実は先日お話させて頂きましたレイナス王国の歴史資料と竜の卵見学の件ですが、責任者から出来れば警護の都合上一般公開時間は避けていただきたいとのことでした、ですからもしよければこの後ご案内させていただきたいのですが……」


 大変申し訳ないと項垂れるレオル殿下の様子から不本意であることは察することが出来る。


 レイナス王国の王都は竜祭りを見る為に遥々やって来た沢山の観光者や行商人で溢れかえっていた。


 連日見学希望者が絶えない展示場所は通常の見学希望者をさばくだけでも大変だろう。


 そんな見学希望者が集まりごった返す会場で他国の王族の警護とか私だったら御免こうむる。


 しかし私が良くてもカイが否と判断すれば、妻である私は諦めざるを得ない。


「ご配慮感謝致します、この後見学をお願い申し上げます」
 
 私を見てしっかりと頷きレオル殿下にこの朝食後の見学を依頼してくれた。


「そうと決まれば私がご案内させていただきますわねカイザー殿下!」
 
 そうハイテンションにカイとの距離を詰めるガブリエラ王女にイライラが募る。


 これは外交、これは外交、あれは友好国の王女様……


 イライラに蓋をするように自分自身に暗示を掛けながら、案内を申し出てきたガブリエラ王女に微かに引きつりつつもローズウェル王国王太子妃として感謝を伝える。


「素敵なお申し出感謝いたしますガブリエラ王女殿下」


「えぇ、リシャーナ妃殿下はレオルが案内をいたしますから」 


 ……つまり邪魔者には自分の弟君をあてがうから勝手に回れと言いたいのかこの王女めっ……


「まぁ王太子殿下自らご案内して頂けるなんて光栄ですわぁ」


 机を挟んでバチバチと火花を飛ばす私達に男性陣は引いていたが、これはいわばガブリエラ王女から私への宣戦布告。


「カイザー殿下……申し訳ございません」
 
「いや……うちこそすまない」


 こうしてそれぞれの身内の行いを謝罪されつつ、私達は朝食後竜の卵を見に行く事となった。  
 


     



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品