『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
第六話『レイナス王国』
「うわぁ〜!」
ローズウェル王国を出立して約ひと月、馬車から窓を覗いた私の目の前には堅牢な外壁に囲まれた要塞都市が聳え立っていた。
見上げる外壁の上では警備の騎士が巡回しており、王都目指してやってくる人々の動向や外壁の中……王都に暮らす者たち安全を守っているのだろう。
「さすが竜祭り、凄い人だ」
王都に入るためには守衛所を通り入都手続きがいるらしく、竜祭りにやってきた旅商人や貴族などでごった返しているみたい。
カイは、竜祭り見物に来た人の多さに驚きを隠せないでいる。
「あれ並ぶんですよね」
ピクピクとこめかみが引きつったのはご愛嬌だよね、前世で世界一有名な某ネズミの王国の待ち時間くらい掛かりそうだ。
馬車のまま王侯貴族用の守衛所の列に並び待つことしばし、入都手続きは御者台に座っている側近のフォルファーが、今回の同行者のぶんを纏めてしてくれるので楽ちんです。
無事手続きが完了したのか、馬の嘶く声とガタリと音を立てて馬車がゆっくりと進み始めた。
煉瓦造りの強固なトンネルをくぐり抜けて王都内へ馬車がゆっくりと進んでいく。
ニ階建てや三階建ての建築物の屋根は三角に尖っていて、王太子妃の勉強で聞いていたとおり、雪や雨が屋根から地面に滑り落ちやすくなっているのかもしれない。
煉瓦を交互に積み上げて建てられた建築物は煉瓦の微妙な色合いで斑に見えるが、それはそれでなかなかに味わい深い。
竜をデフォルメした紋様が描かれた三角形の旗がいくつも紐に吊るされており、民家と民家の屋根を繋いでいる。
活気ある城下町を抜けてレイナス国の王城の前までやって来た。
王城の城門は見上げるほど高く、堅牢な石造りの門を両開きの大きな木製の扉で開閉できる様な造りをしている。
城門前の広場には沢山の人が集まりそれを狙った商人達が露店を開いていて小さなお祭りの様になってます。
馬車はゆっくりと城門へと進んで行く。
事前に訪問する日程や時間などの連絡は済ませてあるため、ローズウェル王国の王家を示す旗を付けていることで、特に咎められることもなく入城出来た。
「ローズウェル王国王太子カイザー殿下、リシャーナ王太子妃殿下並びに御一行様方、ようこそレイナス王国へ、私はレイナス王国王太子レオル・レイナスと申します」
私達が来る時間に合わせて、沢山の使用人や従者、侍女達が出迎えてくれる。
そして口上を述べたのは数多の大人の中心で待っていた十歳かそこらの年齢の少年だ。
僅かに赤色が溶け込んだ金茶色の柔らかそうな髪は整った容姿に掛かり、ひときわ目立つキラキラした翠色の瞳をしている。
緊張したように立っている姿は愛らしいが、私としては彼の肩に乗っている生き物から目が離せなかった。
「盛大な歓迎感謝いたします。 レオル王太子殿下お初にお目にかかります。ローズウェル王国王太子カイザー・ローズウェルです、こちらが妃のリシャーナ・ローズウェルです」
ご紹介にあずかったので、淑女らしく挨拶をする。
レオル殿下の案内で応接室まで移動する間もついつい見入ってすまった。
ツヤツヤの薄いピンク色の鱗に覆われた体表は少し丸みがあり、ずんぐりむっくりしている。
蜥蜴のような姿に蝙蝠のような被膜の翼が背中から一対生えているそれは、東洋の龍よりは西洋のドラゴンに近いかもしれない。
やばっ、本当に竜だ! まじで実在してたんだこの世界に。
「ふふふっ、どうやら王太子妃殿下はこの子が気になっておられるようですね。 この子はロゼって言って私のパートナーなんですよ」
レオル殿下はそう言ってロゼの顎先を人差し指で擽った。
甘えるようにすり寄るロゼがめちゃくちゃ可愛い!
「パートナーと言うのは?」
カイがレオル殿下の発言に聞き返す。
「我が国には初代竜王、シオル・レイナス陛下の愛竜だったサクラ殿を始め現在四頭の竜と二つの卵が生息しています」
「四頭も……それはすごい」
「一頭はサクラ殿、そしてその番。もう一頭はサクラ殿と番から産まれた卵から孵った竜ファングです。 そして同腹のロゼですね」
「卵が二つと言うのは?」
「一つはどこから来たのかわかっておりませんが、パートナーの死後ファングが片時も離さずに大切に温めている卵です。 この卵には決して近寄ってはなりません。 もう一つはロゼと同時期にサクラ殿の番が産み落としたものです」
応接室で出された紅茶とお茶請けの一口サイズのマフィンをいただきながら不思議生物の話を聞くのはすごく楽しい。
「まだ謎が多い竜ですが、研究者の話では卵には二種類あるようですね、一つはロゼやファングのようにパートナーとなる人間を選び孵化するもの、もう一つはパートナーを失った竜が自ら孵す卵です」
白い湯気の立つカップを口に運び傾けながらレオル殿下は続ける。
「シオル陛下の死後、サクラは陛下の亡骸を国葬の儀式中に持ち去った記録が残っておりましたので、ファングのパートナーであった私の母……王妃が亡くなった際にファングがどのような行動を取るのか注視しておりました」
レオル殿下の話ではやはりファングはサクラと同様にパートナーであった王妃の亡骸を持ち去り、暫くして卵を抱えて戻ってきたらしい。
それからサクラの行動記録を辿るように同じように卵を温めていることから卵はファングの番だろうと学者達は考えているそうだ。
「ロゼの兄弟である卵は産み落とされてから孵る様子がないまま沈黙を保っています」
「あの……サクラ殿の番は卵を温めたりしないのですか?」
疑問に思い問いかけると、レオル殿下は頷く。
「パートナーを持つ卵は温める必要が無いようですね、現にファングは産み落とされてから二日後に王城の城壁を破壊して脱走し、当時孤児だった王妃の元へ向かいました」
「えっ!? 城壁を壊したのですか!? 卵が?」
正直にわかには信じがたい、だって卵だよ?
普通硬いものに当たったら殻にヒビくらいはいりそうなものじゃない?
竜の卵を普通と同じに扱うことがまず間違いなのかもしれないけど……
「はい、停めようとした騎士や卵の進路に居合わせた住人は数人巻き込まれ怪我をする被害が出ました。 また真っ直ぐにパートナーの居る所まで向かったようで、進路上にある家に穴を開けながら進んだみたいです」
「それはまた……」
卵とは思えない破壊力にカイは絶句している。
私だってびっくりだもの、巻き込まれた方お悔やみを申し上げます。
「ちなみにロゼも私が産まれた時に産室の壁をぶち破りました」
おぅ……竜の卵恐るべし……
「ですから竜の卵を見かけたら全力で逃げるように小さい子供は親から教わりますね。 まだ一つ残ってますから」
未だに孵化の様子がない卵……見てみたいような見たくないような……
「竜祭りの間は国内外から沢山の人が王都に詰めかけます。 その為竜のパートナーになりたいと望む者から対面の申し出も絶えません。 竜祭りの期間中は王城の一角を開放し、竜の卵や初代竜王の遺品等を見学できるようにしております」
「本当ですか! 行きたい!」
竜の卵は少し怖いけど、見れるなら見てみたい。
「そうだな後で二人で見学に行ってみようか?」
私に微笑みながらカイが提案してくる。
「行きます」
即答すればレオル殿下が頷く。
「お二人は国賓のため会場の警護を組む必要がありますので、こちらで見学の日程を組ませていただいて宜しいですか?」
ありがたい申し出に私とカイはそれぞれ感謝を告げた。
「夕方からお二人と同行した方たちを歓迎する夜会を予定しておりますので少しお休み下さい」
応接室から今日からお世話になる貴賓室へ案内される。
案内されたのはまぁ良いんだけどね、やっぱり
「寝室一緒だよね」
「当たり前だ、新婚が寝室を分けるなんてあり得ない」
背後からカイの長く逞しい腕が私の腰を抱きしめた。
首筋に当たる吐息がくすぐったい。
「リシャ……」
低く響く艶っぽくも甘い美声にゾクリと背が粟立つ。
「さて、夜会の準備しなきゃ! ねっ!?」
道中何度となく危機に晒されたため、ふしだらな気配には敏感になりましたとも。
「ふぅ……覚えてろよ……」
おぅ、猛獣に獲物認定された草食獣になった錯覚に陥りそうになるんですが……誰か気のせいだといって下さい……いやまじで
ローズウェル王国を出立して約ひと月、馬車から窓を覗いた私の目の前には堅牢な外壁に囲まれた要塞都市が聳え立っていた。
見上げる外壁の上では警備の騎士が巡回しており、王都目指してやってくる人々の動向や外壁の中……王都に暮らす者たち安全を守っているのだろう。
「さすが竜祭り、凄い人だ」
王都に入るためには守衛所を通り入都手続きがいるらしく、竜祭りにやってきた旅商人や貴族などでごった返しているみたい。
カイは、竜祭り見物に来た人の多さに驚きを隠せないでいる。
「あれ並ぶんですよね」
ピクピクとこめかみが引きつったのはご愛嬌だよね、前世で世界一有名な某ネズミの王国の待ち時間くらい掛かりそうだ。
馬車のまま王侯貴族用の守衛所の列に並び待つことしばし、入都手続きは御者台に座っている側近のフォルファーが、今回の同行者のぶんを纏めてしてくれるので楽ちんです。
無事手続きが完了したのか、馬の嘶く声とガタリと音を立てて馬車がゆっくりと進み始めた。
煉瓦造りの強固なトンネルをくぐり抜けて王都内へ馬車がゆっくりと進んでいく。
ニ階建てや三階建ての建築物の屋根は三角に尖っていて、王太子妃の勉強で聞いていたとおり、雪や雨が屋根から地面に滑り落ちやすくなっているのかもしれない。
煉瓦を交互に積み上げて建てられた建築物は煉瓦の微妙な色合いで斑に見えるが、それはそれでなかなかに味わい深い。
竜をデフォルメした紋様が描かれた三角形の旗がいくつも紐に吊るされており、民家と民家の屋根を繋いでいる。
活気ある城下町を抜けてレイナス国の王城の前までやって来た。
王城の城門は見上げるほど高く、堅牢な石造りの門を両開きの大きな木製の扉で開閉できる様な造りをしている。
城門前の広場には沢山の人が集まりそれを狙った商人達が露店を開いていて小さなお祭りの様になってます。
馬車はゆっくりと城門へと進んで行く。
事前に訪問する日程や時間などの連絡は済ませてあるため、ローズウェル王国の王家を示す旗を付けていることで、特に咎められることもなく入城出来た。
「ローズウェル王国王太子カイザー殿下、リシャーナ王太子妃殿下並びに御一行様方、ようこそレイナス王国へ、私はレイナス王国王太子レオル・レイナスと申します」
私達が来る時間に合わせて、沢山の使用人や従者、侍女達が出迎えてくれる。
そして口上を述べたのは数多の大人の中心で待っていた十歳かそこらの年齢の少年だ。
僅かに赤色が溶け込んだ金茶色の柔らかそうな髪は整った容姿に掛かり、ひときわ目立つキラキラした翠色の瞳をしている。
緊張したように立っている姿は愛らしいが、私としては彼の肩に乗っている生き物から目が離せなかった。
「盛大な歓迎感謝いたします。 レオル王太子殿下お初にお目にかかります。ローズウェル王国王太子カイザー・ローズウェルです、こちらが妃のリシャーナ・ローズウェルです」
ご紹介にあずかったので、淑女らしく挨拶をする。
レオル殿下の案内で応接室まで移動する間もついつい見入ってすまった。
ツヤツヤの薄いピンク色の鱗に覆われた体表は少し丸みがあり、ずんぐりむっくりしている。
蜥蜴のような姿に蝙蝠のような被膜の翼が背中から一対生えているそれは、東洋の龍よりは西洋のドラゴンに近いかもしれない。
やばっ、本当に竜だ! まじで実在してたんだこの世界に。
「ふふふっ、どうやら王太子妃殿下はこの子が気になっておられるようですね。 この子はロゼって言って私のパートナーなんですよ」
レオル殿下はそう言ってロゼの顎先を人差し指で擽った。
甘えるようにすり寄るロゼがめちゃくちゃ可愛い!
「パートナーと言うのは?」
カイがレオル殿下の発言に聞き返す。
「我が国には初代竜王、シオル・レイナス陛下の愛竜だったサクラ殿を始め現在四頭の竜と二つの卵が生息しています」
「四頭も……それはすごい」
「一頭はサクラ殿、そしてその番。もう一頭はサクラ殿と番から産まれた卵から孵った竜ファングです。 そして同腹のロゼですね」
「卵が二つと言うのは?」
「一つはどこから来たのかわかっておりませんが、パートナーの死後ファングが片時も離さずに大切に温めている卵です。 この卵には決して近寄ってはなりません。 もう一つはロゼと同時期にサクラ殿の番が産み落としたものです」
応接室で出された紅茶とお茶請けの一口サイズのマフィンをいただきながら不思議生物の話を聞くのはすごく楽しい。
「まだ謎が多い竜ですが、研究者の話では卵には二種類あるようですね、一つはロゼやファングのようにパートナーとなる人間を選び孵化するもの、もう一つはパートナーを失った竜が自ら孵す卵です」
白い湯気の立つカップを口に運び傾けながらレオル殿下は続ける。
「シオル陛下の死後、サクラは陛下の亡骸を国葬の儀式中に持ち去った記録が残っておりましたので、ファングのパートナーであった私の母……王妃が亡くなった際にファングがどのような行動を取るのか注視しておりました」
レオル殿下の話ではやはりファングはサクラと同様にパートナーであった王妃の亡骸を持ち去り、暫くして卵を抱えて戻ってきたらしい。
それからサクラの行動記録を辿るように同じように卵を温めていることから卵はファングの番だろうと学者達は考えているそうだ。
「ロゼの兄弟である卵は産み落とされてから孵る様子がないまま沈黙を保っています」
「あの……サクラ殿の番は卵を温めたりしないのですか?」
疑問に思い問いかけると、レオル殿下は頷く。
「パートナーを持つ卵は温める必要が無いようですね、現にファングは産み落とされてから二日後に王城の城壁を破壊して脱走し、当時孤児だった王妃の元へ向かいました」
「えっ!? 城壁を壊したのですか!? 卵が?」
正直にわかには信じがたい、だって卵だよ?
普通硬いものに当たったら殻にヒビくらいはいりそうなものじゃない?
竜の卵を普通と同じに扱うことがまず間違いなのかもしれないけど……
「はい、停めようとした騎士や卵の進路に居合わせた住人は数人巻き込まれ怪我をする被害が出ました。 また真っ直ぐにパートナーの居る所まで向かったようで、進路上にある家に穴を開けながら進んだみたいです」
「それはまた……」
卵とは思えない破壊力にカイは絶句している。
私だってびっくりだもの、巻き込まれた方お悔やみを申し上げます。
「ちなみにロゼも私が産まれた時に産室の壁をぶち破りました」
おぅ……竜の卵恐るべし……
「ですから竜の卵を見かけたら全力で逃げるように小さい子供は親から教わりますね。 まだ一つ残ってますから」
未だに孵化の様子がない卵……見てみたいような見たくないような……
「竜祭りの間は国内外から沢山の人が王都に詰めかけます。 その為竜のパートナーになりたいと望む者から対面の申し出も絶えません。 竜祭りの期間中は王城の一角を開放し、竜の卵や初代竜王の遺品等を見学できるようにしております」
「本当ですか! 行きたい!」
竜の卵は少し怖いけど、見れるなら見てみたい。
「そうだな後で二人で見学に行ってみようか?」
私に微笑みながらカイが提案してくる。
「行きます」
即答すればレオル殿下が頷く。
「お二人は国賓のため会場の警護を組む必要がありますので、こちらで見学の日程を組ませていただいて宜しいですか?」
ありがたい申し出に私とカイはそれぞれ感謝を告げた。
「夕方からお二人と同行した方たちを歓迎する夜会を予定しておりますので少しお休み下さい」
応接室から今日からお世話になる貴賓室へ案内される。
案内されたのはまぁ良いんだけどね、やっぱり
「寝室一緒だよね」
「当たり前だ、新婚が寝室を分けるなんてあり得ない」
背後からカイの長く逞しい腕が私の腰を抱きしめた。
首筋に当たる吐息がくすぐったい。
「リシャ……」
低く響く艶っぽくも甘い美声にゾクリと背が粟立つ。
「さて、夜会の準備しなきゃ! ねっ!?」
道中何度となく危機に晒されたため、ふしだらな気配には敏感になりましたとも。
「ふぅ……覚えてろよ……」
おぅ、猛獣に獲物認定された草食獣になった錯覚に陥りそうになるんですが……誰か気のせいだといって下さい……いやまじで
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