『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

135『お前以上の女なんて中々居ねぇよ……』

「アラン様!」


 無事クリスティーナ様の腕から脱け出した私は直ぐにアラン様の後を追って走り出した。


 部屋を飛び出して城の通路を走り、角を曲がれば月明かりが漏れる窓から夜空を眺めるアラン様がいた。


「アラン様、あの……ごめんなさい!」


 私は深々とアラン様に頭を下げた。


 今まで返事を保留したまま振り回し、本人に直接断るのではなく間接的にふってしまった。


 自分の気持ちがカイザー様にあるのだと気が付いていたのに、返事をだらだらとのばしたのは、今の関係を壊したくなかった私の我が儘だ。


「……こうなるだろうと分かっていたんだ」


 呟くように聞こえてきた声に顔を上げる。


「リシャは気が付いてなかったけど、俺が初めて自分の気持ちを伝えたときに……気付いてたんだ……リシャがカイザー殿下を慕っていること」


「アラン様……ごめんなさい」


 自然と溢れてくる涙を乱暴に拭えば、ゆっくりと歩いてきたアラン様に抱き締められた。


「あーぁ、リシャは男をみる目がないな。 こんな良い男他にいないんだぞ?」


「普通言いますか? 自分で自分のことを良い男って」


「事実だろ?」


「ふふっ、そうですね。 アラン様は良い男です」


「その良い男を捨ててまでカイザー殿下を選んだんだ、幸せにならなかったら許さないからな」


「はい」


 そう言ってしっかりと頷けば、アラン様が私の額に自分の額を当てて目をつぶる。


「カイザー殿下に嫌気がさしたらいつでもゾライヤに来ていいからな」


「そっ、そんなことになりませんよーだ」


 二人でひとしきり笑い合ったあと、アラン様は苦笑を浮かべる。


「はぁ、俺もリシャより良い女見付けないとな、方向音痴じゃなくてじゃじゃ馬じゃない嫁さん」


「方向音痴でじゃじゃ馬じゃない女性は一杯いますけど、私より良い女かぁいないんじゃないですか?」


「自分で言うな」


「痛っ! なにも叩くこと無いじゃないですか」


 頭上に軽い手刀が落ちてきたので大袈裟に痛がっておく。


「そうだリシャ、可愛い女の子産んでくれリシャ似のだぞ。 そしたら俺の息子の嫁に貰う」


「ぷっ、気が早すぎるから」


「そうだな……リシャ、婚約おめでとう」


「アラン様、こんな私を好きだと言ってくれてありがとうございました」


 そう言って別れたアラン様が見えなくなるまで私は動かずに彼の背中を見送った。




******


 リシャーナと別れた俺は、それまで姿を隠していた護衛と共に自室がある学院の学生寮の私室に帰ってきた。


 護衛を部屋から下げて扉の鍵をかけると扉に背中を付けたまま、毛足の長い絨毯が引かれた床に座り込み立てた右膝に顔を伏せ、目を瞑ったままで扉に後頭部を打ち付けた。


「はぁ、思ってたよりもきついなぁ……お前以上の女なんて中々居ねぇよ……バカリシャ……」


 ポツリと呟いた声は暗闇に吸い込まれるように消えていった。



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