『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

134『私が支えたい人』

「リシャーナ様……カイザー殿下が!」


 そう言ってこちらに走ってきた城勤めの侍女の言葉に私は青ざめて無意識にカイザー様の部屋に向かって走り出した。


「まてリシャ! 俺も行く!」


 後ろから追従する様に駆け出したアラン様を待つ事もせずに必死に走った私の足は迷うことなくカイザー様の部屋へとたどり着いた。


「嘘だろ……リシャが迷わずにひとりで目的地にたどり着くなんて」


 普段なら蹴りの一発や二発食らわせるところだが、背後で失礼な事を言うアラン様を無視してカイザー様が療養している部屋の扉に手をかける。


「カイ!」


 入室の許可すら得ずにバタンと扉を開けて室内に飛び込めば、侍女から連絡が行ったのだろうクリスティーナ様と ルーベンスが既に寝室の中にいた。


「クリス、かっ、カイは!?」


 私の問いに無言で横に首を振るクリスティーナの様子に涙が溢れた。


「うっ、嘘だぁ……」


 私はベッドへ駆け寄ると血の気の引いた青い顔で横たわるカイザー様の美しい顔を覗き込む。


 ポタリ、ポタリと伝った涙が頬を濡らしていく。


「私はまだ貴方に返事をしてない! 私をお嫁さんにしてくれるって言ったじゃない! 私を置いて行くなばかぁ!」


 ぽかぽかと力なくカイザー様の胸元を数度たたく。


「ちょっ……やめて……リシャ!」


 黙って様子を見ていたクリスティーナ様が止めに入ろうとした所で、ルーベンスがクリスティーナ様を押し止める。


 私はベッドに眠るカイザー様の顔の両脇に手をついて、療養で洗うことも儘ならなかった黒髪を櫛梳るように頭を抱え抱き締めると、そのままカイザー様の固く引き結ばれた酷薄な唇に口付けた。


 自分からカイザー様へ口付けたのは初めてかもしれない。


 微かに唇が動いて応えたような気がして離そうとした唇は、既に背中に回り込み私の身体を抱き締めたカイザー様の腕に阻まれて更に深く唇を合わせることになった。


「むぐっ!?」


 硬直して目を剥く私の後頭部を大きな手がガッチリと固定していて逃げ出すことができず、かといって抗議のために開かれた唇を割り開き押し入ってきたカイザー様の舌は逃がさないとばかりに私の口腔を縦横無尽に攻め立て、解放された時にはすっかり腰砕けになっていた。


 うぐぐっ、このイケメンめぇ。 こんな凄いキスどこで覚えてきやがった。


「荒っぽい愛の告白だね、リシャ。 もうちょっと優しく起こせないものかな」


 力が入らない身体を気力で起こしてカイザー様の顔を睨み付ける。


「だっ、騙したわね! わ、私がっ……私がどれだけ心配したとっ!」


「わっ、リシャっ、カイザー様は……」


 拘束から逃れようと身体を捩った私をクリスティーナ様が止めに入る。


 カイザー様は苦痛に顔をしかめ、私がもがくのをやめると深くため息を吐きながらぐったりとベッドに横たわった。


 私を庇って切りつけられた脇腹を押さえ、額には僅かに脂汗が浮いている。


「ちょっ、大丈夫なの!?」


「リシャ、カイザー兄上は絶対安静だ、無理をさせるんじゃない。 いい加減下りろ」


「わっ、ごっ……ごめんなさい」


 呆れたような声を出したルーベンスはまるで猫の子を持つように私の服の背中を掴むとベッドから引きずり下ろした。


「しかしよくあの大怪我でしかも致死性の高い毒まで貰ってもったよね」


 不思議そうなルーベンス殿下に思い当たる事でもあるのか、カイザー様が苦笑いを浮かべている。


「幼い頃から知らないうちに毒には慣らされていたからね」


「なっ!?」


 驚きを隠せないでいるルーベンス殿下から視線を外し、私達の方に何かを決意したような強い視線をくれる。


「リシャ、俺のお嫁さんになってください」


 私に向かって伸ばされた手を取り、自分の頬をすり付ける。


「はい……私を貴方のお嫁さんにしてください」


 ふたりで笑い合う。


「はぁ、やっと纏まったか」


「リシャおめでとうございます! これでめでたく私とリシャは正真正銘の姉妹になれますわね、たのしみですわっ!」


 きゃぁ! と歓びの声を上げるクリスティーナ様に正面から抱き付かれその豊かな双丘に顔を埋めてもがいていれば、それまで黙って成り行きを見守っていたアラン様が静かに部屋を出ていった。
 

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品