『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

114『ガールズトークの追求は恐ろしい』

 女子寮の自室に戻ってきた私は、テーブルに紅茶とお茶請けを用意してガールズトークと言う名前の事情聴取で現在窮地に立たされております。


「それで? アラン様と何がありましたの?」


「なっ、なんのことでしょう」


 ジリジリと距離を詰めながら迫ってくるシャノン様の迫力に気圧されながら、タジタジになって逃げつつも気合いを入れてとぼける。


「私も気になりますわ! リシャ教えてください」


 すかさず追撃をかけてきたのは私の手を掴んで潤んだ瞳を向けてくるクリスティーナ様。


「なっ、なにもないです!」


「うそおっしゃい」


「そうですよ。 そんなに顔を真っ赤にしてたら私だって嘘なのわかりますぅ」


 そんなに分かりやすく赤面してますか。


「もぅ、リシャが教えてくれないならアラン様に根掘り葉掘り聞いてきまーー」


「わー! わー! わー! クリス待ってください! 話します話しますから!」
 
 しばらくそんなやり取りを繰り返した末に、私はアラン様から告白された事実を、白状させられました。
 
 ニヤニヤするシャノン様となにやら身悶えるクリスティーナ様……大丈夫だろうか。


「それで? 返事はしたんですの?」


「してないです……」


「良かった……はやまっては駄目ですからね?」


「あっ、はい」


 私の両手をがっしり掴み真剣に返事をしないように止めるクリスティーナ様の勢いに押されながら首振り人形のように頷いた。


「リシャはカイザー様のことはどう思われますか?」 


 ん? なんでカイザー様が出てくるの?


「カイザー様ですか……?」


 思い出すのはレブラン様から助けてくれた時のカイザー様の大きな手。


 細身のわりにしっかりと鍛えられた広い背中から伝わる体温と香水の香り、そして抜群の安堵感……


 言うなればアラン様は一緒にいるとドキドキと心臓が早鐘を打ち盛大に燃え上がる炎のよう、対してカイザー様は頼りがいがあって、身体を暖めてくれる焚き火のようで……一緒にいて安心する。


「そうですね……ソレイユ兄様と要るようで一緒にいると落ち着きます」


「うわ、酷い……身内と扱いが一緒とか恋愛対象にすら入ってないじゃん」


「……あのヘタレ」


 私の兄発言にシャノン様は額に手を置いて首を振り、クリスティーナ様は聞き取れないくらい小さな声でボソリと呟いた。


「まぁ、良いわ。 リシャがアラン様なら有力者候補の競合相手が消えるだけだしね。 カイザー様はイケメンだしあっちを落とすから」


 ふう、とため息をついたシャノン様の様子にクリスティーナ様が眼をぱちくりと瞬いた。


「シャノン様はカイザー様がお好きなのですか?」
 
「う~ん、好きって言うよりフリエル公爵様からカイザー様と懇意になれって言われてるのよ。 その為に十六年も他家に預けてた私を連れ戻したようなものだしね」


 シャノン様はフリエル公爵の私生児でつい最近認知され庶子として引き取られたのは知っていたけれど、他家に預けられていたのは初耳だ。


「シャノン様はフリエル公爵令嬢になる前はどちらに?」


「ん? ボマン侯爵家よ。 なんかフリエル公爵様がボマン侯爵家で行儀見習いに来ていた母を夜会で手込めにしたらしくてね、男爵令嬢だった母は結婚前に純潔を奪われたせいで嫁入り先なくなっちゃうわ、妊娠するわで実家の男爵家を追われてさ、ボマン侯爵家で住み込みで働きながら育てられたのよ」 


 おっふ、何気に重いなシャノン様の生い立ち。


 ボマン侯爵と言えば先日背負って寮まで帰った少年を思い出した。


 はちみつ色のフワフワしたもさもさ頭で長い前髪と瓶底めがねで表情が見えない少年、マリンブルーの瞳の彼は確かボマン侯爵家の嫡出子だったはず。


「シャノン様、ライズ・ボマン様ってお知り合いですか?」


「えぇ、幼馴染みですわ」


 幼馴染み相手に過呼吸起こしそうなくらい怖がるって一体シャノン様は彼に何をしたんだろう……


「まぁ! 幼馴染みって素敵ですね」


「クリスだって素敵なルーベンス様とは幼馴染みで婚約者でしょう?」


 昔の子供時代のルーベンスねぇ……あんな我が儘で生意気な幼馴染み要らないわ。
 
「そうですね。 ルーベンス様が素敵に見えたのなら良かった。 ルーベンス様の性格が矯正されたのはごく最近でそれもリシャが変えたから随分性格が丸くなったんですよ?」


「相変わらず失言が多いですけどね」


 みなこの前の茶会での太った発言を思い出したようで、声を出して笑いあった。


「しかし、シャノン様はライズ・ボマン様に何かしたの?」


「え~してないわよ。 色々と思い出して友好的に接したらお前は誰だ! 本物のシャノンをどこへやったんだ! って激昂されてさ、仕舞いには悪魔が取り付いたって怯えられさ。 扱い酷くない?」


 色々と突っ込みたい、まず思い出す前のシャノン様はどんな子だったのよ、まぁ突然人格が換わったらそれは驚かれるだろうし、戸惑うと思うけど。


 ぷっくりと拗ねたように頬を膨らませた様子からもライズ様から距離を置かれている状況に不満があるのは一目瞭然だ。


「ふふふっ、シャノン様はライズ・ボマン様がお好きなんですね」


「ブッ、ゲホゲホ。 クリスってはいったい何を聞いてたの!? べっ、別にあんな奴のことなんてちっとも気になんかしてないわよ」


 クリスティーナ様の発言に口に含んだ紅茶に噎せながら、必死にいい募るシャノン様。


「そうなんですか? てっきりライズ様に構って貰えなくて寂しいとおもっているように感じられたのですが……」


 コテンと首を傾げたクリスティーナ様がぽやんとしながら痛い図星をグリグリ抉ってくる。


「……」


「シャノン様、諦めましょうクリスのこれはなおらないと思います」


「……わかったわ」


 はぁ、と深い深いため息を吐きながらシャノン様はテーブルにぺたりと塞ぎ込んでしまった。   
  
「そりゃさ、寂しいわよ。 シャノン、シャノンっていくら邪険にしてもまとわりついて来てたライズ様が私を避けるんだもん」


 本格的にいじけだしたシャノン様の頭をクリスティーナ様が撫でている。


「シャノン様……ライズ・ボマン様ってマーー」


「マゾじゃないわよ」


 私の言葉をにらみあげながら遮った。


「はぁ、やめましょ。 あんな奴の話なんで気が滅入る」


 暗い雰囲気になりかけた室内の空気を一辺させたのは


「そういえば明後日の休養日はカイザー様とどちらまで行かれるんですか?」


 確かに明後日は学院の授業がない休養日だ。


 月日の数え方はさすが乙女ゲームがもとなだけあって七日で一週間。 四週で一月めぐり、十二ヶ月経過すると一年だ。


 月には日本で言われていたところの誕生石である宝石の名前が当てられていて、曜日には七色が当てられている。


 赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の順番で曜日が回り今日は金曜日に当たる青の日だったりする。


 そしてクリスティーナ様の言う休養日が紫の日になるわけですが、カイザー様と出掛ける予定なんてありませんけど?


「あー、そう言えばそんな話もありましたね」


 訳知り顔をしたシャノン様が頷いている。


「あのー、さっぱり話が読めないんですが……」


 わからないならわかる人に聞くに限る。


「この前のお茶会をしたときに最初にリシャを捕まえた人が次の休養日にリシャとデートする権利をかけて勝負したんです。 そしてその勝者がカイザー様ですわ」


 勝手に人を景品にしてかけないでくださいよ。


「そんなわけで~。 お洒落しましょうね?」


 わきわきと手を動かして距離を詰めてくるクリスティーナ様、その手はなんですか? その手は!  


「明後日は用事が……」


 せっかくの休養日だから寮でダラダラしている予定なのだ。


「あら? たしか部屋でダラダラするっていってましたよね?」


「……」


「リシャ、諦めなよ。 言質取られてるあんたの負け」


「う~、嫌だ~シャノン様代わって!」


「代わりたいのは山々だけど無理でしょうね頑張って」


 嫌だ~行きたくない……はっ!


 ぐわしっ! っとシャノン様の白い手を掴んでいた引き寄せる。


「シャノン様とクリスも一緒に行きましょう!」


「はぁ? 嫌よ」


「シャノン様も私も用事がありますから残念ですが一緒には行けないんです。 身支度は手伝いますから当日は楽しんで来てくださいね」


「えっ、ちょっと! クリス私用事なんてーー」


「はいはい。ではリシャお大事に」


 何かいいかけているシャノン様を引きずりながらクリスティーナ様は部屋を飛び出して行ってしまった。





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