『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

112『攻略対象者は心臓に悪いです』

 寮に戻れば既に仁王立ちでカイザー様が私たちが来るのを待っていた。


「遅い……」


「すまないな」


 私達を先導してカイザー様が寮の男女共同で使用できる広間に置かれているソファーにゆっくりと下ろされた。


「リシャ! 怪我をされたとお聞きして急いで着替えを準備して参りましたわ。 お湯は使用人に用意させましたから、とりあえず汚れを落として医師に見て貰いましょ」


「あーあーあー、本当に一体何をしたらこんなにドロドロになれるわけ?」


 私の着替えが入っているらしい籠を抱えて走ってきたのはクリスティーナ様とシャノン様だった。


「いやぁ、側溝に落ちました」


「だから、どうやったら普通に生活していて側溝なんかに嵌まるのよ? 小さな子供じゃあるまいし」


「あはははっ」


「笑ったって誤魔化されないわよ? ほら掴まって、立てる?」


「もう、シャノン様は……素直に心配したって言えば良いのに」


「わっ、私は別に心配なんてしてないんだからね」


「クリス、シャノン様ありがとうございます」


「さぁ、移動しましょう?」


「そうね。 ほら行くわよ?」


 悪態をつきながらもせっせと私の世話を焼き始めるシャノン様とに支えられて、湯殿として使える屋内の水場で汚れを落とした。


「うわー、痛そう……」


「痛そうじゃなくて、痛いです」


「自業自得としか言いようがないわね」


 泥を落とした右足は健常な左足の二倍近くに膨れてしまっていた。


 着替えを済ませて水場から外に出れば、医師を従えたカイザー様とアラン様が待ち構えていた。


「ふむ、骨には異常が無いようですし、全治五日と言った所でしょうか」


「そうですか、ありがとうございます」


 診断結果に医師に向かって頭を下げる。


「しかし、なるべく痛めた足に負担をかけぬように過ごされることをお薦めします」 


「わかった。 朝早くにすまなかったな」


「いえ、また何かありましたらお呼びください、大体治療院におりますので」


 片付けを始めた医師にカイザー様が礼をのべると、医師は一礼して自分の職場である治療院へと帰っていった。


「しかし治るまで三日かぁ、講義はどうしようかな……」


「三日じゃなくて五日ですわよ? そうですわね。 その足では移動教室は厳しいかも、知れませんわね」


 クリスティーナ様の言う通り学院での授業は学びたい授業ある教室への移動が基本、階段が多くてもエレベーターなんてものが紙すらやっと導入された学院にあるはずもなく、正直移動がキツそうだった。


「え~、五日なんて無理暇で死ぬ。 これくらい若いんだから三日もあれば余裕よ。三日だけなら我慢して部屋で大人しくだらけてますから大丈夫」


 最近何かと忙しかったからここらで纏まった休みは嬉しいけれど、娯楽の少ないこの世界でどうやって暇を潰せと?


 羊皮紙を使った本はあるけれど正直三連休が限界だ。


 それにお医者さんは少し盛った日付を告げるもの、前も五日って言われて二日で動き回れるくらいに回復したし。


 動かすと痛みを発する右足を庇いながらクリスティーナ様とシャノン様に手伝ってもらい、ゆっくりと立ち上がる。


「それでは失礼します、カイザー様。 アラン様も……」


 挨拶を告げて顔を上げれば、優しげな労るような表情を浮かべたアラン様の碧い瞳がこちらを見つめていた。


『好きだよリシャ』


 声は聞こえなかったけれど、アラン様の唇がそう動いたような気がしてカッと全身が沸騰したように熱くなった。


 一気に血液が頭に上ってしまったようにクラクラと目眩がする、うぐぅ、流石攻略対象者絶対に言い慣れてるだろ。


 これだから美形はたちが悪い、油の切れた細工物のようにカクカクと挙動不審になってしまったらしい私の様子にカイザー様が切れ長の目を見開いたあと視線をアラン様に流した。


「リシャ、足が痛むの?」


 あまりの挙動不審っプリは支えてくれている二人にもばっちり伝わったようで、クリスティーナ様が私の顔を覗き込んでくる。


 そんな私の様子とアラン様を交互に見て何かを察したシャノン様はふ~ん? っと物知顔で頷いた。


「さてリシャ、お部屋に戻ったら洗いざらい吐いて貰いましょうか?」


「お、お手柔らかにお願い致しますシャノン様」


 ニヤリと悪い笑みのシャノン様に怖じ気づきながらも確実に自室へ向けて連行されていった。 



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