『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
106『ゲームだけどゲームじゃない』
シャノン様に手を引かれ無事に食堂へたどり着くと、既に混雑のピークは過ぎたのか、食堂内の楕円形のテーブルには空席が目立つ。
「この時間だとこんなに空いてるんですね」
大量に設置された銀盤トレーを一枚取り、フォークとスプーン、ナイフをトレーに乗せる。
「この時間だといつもこれくらいですわ。 うるさいどこぞのヒステリック令嬢が居ませんもの、いつもはもっと早い時間にいらっしゃるの?」
ヒステリック令嬢かぁ、そんな人居たっけか……
「えぇ、食堂が開いてからはじめのうちに済ませますね」
私と同じくトレーを持ち、ほとんど人がいない料理を受けとる為のカウンターへ進む。
カウンターには色とりどりの野菜が入ったサラダと白くふわふわとしたパンとフランスパンの二種類。
おかしなことに硬く噛みごたえがある長いパンをこちらの世界でもフランスパンと呼んでいる。
野菜や果物の名前は微妙に違うのにフランスパン、フランスなんて名前の国はこの世界には存在しないのにフランスパン。
日本で使われていた食物や道具の名前が若干弄られているにも関わらず料理の名前はもとのままと言う素晴らしいちぐはぐ感に、初めて気が付いた時には暫く笑ってしまった。
どうやらフランスと言う国は無いけれど、フランスさんと言うパン職人の方が考案した事でフランスパンと呼ばれるようになったらしい。
パンとサラダの次に肉か魚のメイン料理、もしくはメインを両方選び、スープで今晩のディナーが完成だ。
シャノン様の銀盤トレーの上にはサラダとスープのみ。
「ちょっと、夜にその量は食べ過ぎではなくて?」
私のトレーを見ながらまるで信じられないものでも見たような反応をするシャノン様。
「サラダなしでパン二種類とメイン二種類とスープってどう言うことですの!? 片寄った食生活の悪役令嬢とゲームなんて嫌ですわ!」
シャノン様はそう言うなり、自分の銀盤トレーをまるでファミレスのウエイトレスのように器用に片手に乗せると、あっと言う間に私のトレーからお肉のメインとサラダを入れ換えてしまった。
「あぁー! お肉が!」 
「ほらさっさと動かなければ他の方の迷惑ですわ」
様変わりしたトレーを手にとぼとぼとシャノン様の後ろをついていき、シャノン様が座った大きな窓際のテーブルへ自分のトレーを置いた。
「お肉がぁ……」
「まだ言ってますの? それよりもなぜ貴女は当たり前のように私の隣に座るのかしら? 他にも席は沢山の空いていますのよ!?」
キイキイいってるシャノン様は無視して、私はサラダにフォークを突き刺して口へと運ぶと、静かに食べ始めた。
あんまり好んでサラダは食べないのだけど、このドレッシングは美味しい。
「シャノン様も早く食べましょう。 せっかくの温かな食事が冷めてしまいますよ?」
食堂での食事が義務化されてからと言うもの、毒見がなくなり温かい食事が食べられるのはありがたいよね。
「はぁー」
目に見えてぐったりとしながら、椅子へ座るとシャノン様はサラダをフォークでつついている。
「もう、貴女のせいでまともにゲーム出来る気がしませんわ」
「だってゲームじゃないですもん。 私もシャノン様も前世があろうとなかろうと、美味しい食事を食べている今が現実です」
一口大に切り分けた魚をパクりとくわえる。
「ゲームじゃ……ない?」
「えぇ、少なくとも私はそう感じてます。 二次元の時と皆性格も価値観も違うんです。 ゲームなら大きなイベントで三種類くらいの選択ボタンを選んだり、フラグだけ回収すれば攻略対象者を攻略できるじゃないですか?」
「えぇ、そうね」
俺様キャラのメイン攻略者だったルーベンスは、蓋を開けてみればお子様なヘタレ王子だったし、逆ハーレムを築き上げたヒロインのマリアンヌ様は好きな人を助けるために手段を選ばず、大罪を犯した。
「でも実際にはこうしてシャノン様と食事をしたり、お風呂に入ったり、一緒に遊んだり出来るじゃないですか?」
「当たり前でしょ。 食事しなければお腹がすくし、お風呂に入らなきゃ臭いじゃない」
「たしかにVRゲームみたいにそうした日常的な行動を楽しめる物もありましたけど、『ドキパラ』はそうじゃないですよね?」
私の知識の中にある『ドキドキイケメンパラダイス』と言う名前らしい恋愛シミュレーションゲームは、たしか勉強してヒロインの能力値をあげる育成と攻略対象者とのイベントを通して「攻略対象者達との親交を深める」ことがプレイヤーの行動の主軸になる。
育成具合や、親交の深さで攻略対象者達との恋愛を成立させていくゲームだったかな。 おっ、意外と出てくるもんだね。
「たしかにこの世界ってシャノン様が言うように『乙女ゲームと似た世界』だけど、こうしてゲーム以外の事をしてる時点で『乙女ゲームと同じ世界』ではないんですよね」
蜂蜜を溶かした甘い紅茶がたっぷり入った白磁カップを口へ運ぶ。 うん、うまい。
「それにー」
「リシャー! ただ今戻りました!」
食堂の出入り口からやって来たきらびやかな深紅のドレスを纏ったクリスティーナ様がキョロキョロと食堂内を見回して居たので、右手を挙げて居場所を教えた。
私の姿を確認した途端、花でも翔ばしそうな満面の笑顔をうかべて手を振りながらこちらへやって来るクリスティーナ様。
「だってあれが前作の悪役令嬢ですよ?ぐぇっ」
背中からクリスティーナ様が飛び付いてきた拍子に首が絞まる。
「リシャ、聞いてくださいよぉ! クォーラン侯爵のエロ親父にお尻撫でられたぁぁあ」
抱きつくなりびぇぇぇーと泣き出したクリスティーナ様の頭をよしよしと撫でてやる。
クォーラン侯爵って確かフリエル公爵領と土地を接する領土拡大を掲げる過激派の顔面が陥没してるセクハラ親父だったよね。
「はぁ、本当に貴女といい彼女といい……原作崩壊ですわ」
額に手を当てて首を振るシャノン様、仕方ないじゃんこれが私なんだから。
三つ子の魂百までと言うけれど、こちとら前世の知識の下積みがありますからね、前世の家族も名前も人生もほとんど覚えていないけど……
「まぁ、私とクリスの他にもだいぶキャラが崩壊している人がいますけど、攻略するんですよね?」
「もちろんですわ!」
そうかそうか、良かったぁー。  ゲームと違うと認識してやっぱりやめたって言われたらどうしようかと思ったわ。
「協力しますからね!」
「要りません!」
宣言したら即答されました。 私とシャノン様の様子を見ていたクリスティーナ様が頬をプクリと膨らませた。
「リシャ? いったいいつのまにシャノン様と仲良くなったんですか?」
「ん? 聞きます馴れ初め!」
「女同士で馴れ初めなんてあるわけないでしょ!」
えー、ありますよ。 一期一会すべてに馴れ初めありますよ。
「あっ、シャノン様も聞きますか? 私とクリスの馴れ初め」
「聞きません! 馴れ合うつもりはないって言いましたわよね」
ふぅ、またぷりぷりし始めたシャノン様の眉間には深い二本の縦皺が……
「人の顔をジロジロと一体何を見ていますの!」
「いやぁ、笑ってた方が可愛いのになぁと……」
「なっ!? かっ、可愛いって! 一体何を考えていますの! わっ、私が可愛いのは当たり前でしょ。 ヒロインなんですから!」
噛みながらそう告げると、顔を真っ赤に染めながらシャノン様は温くなった紅茶を煽った。
「リシャ! 私は?」
「クリスはいつも可愛いですね」
そう告げるとクリスティーナ様が満面の笑みを浮かべた。
いやぁ、流石二人とも乙女ゲームの主役級美少女だわ。
「さて、ご馳走さまでした」
すっかり空になった器に、両手を胸の前で合わせて頭を下げる。 はぁ、お腹いっぱい幸せ幸せ。
「ご、ご馳走さまでした」
つられたのかシャノン様も両手を合わせて頭を下げた。
「リシャ! 場所を移動してお茶会にしましょう。 おみやげに王室御用達の焼菓子をいただいてきましたの」
「やったぁー! クリス愛してる~! シャノン様も行きましょう!」
「まだ食べますの!?」
えっ、食べますよ。 甘いものは別腹です。
 
「この時間だとこんなに空いてるんですね」
大量に設置された銀盤トレーを一枚取り、フォークとスプーン、ナイフをトレーに乗せる。
「この時間だといつもこれくらいですわ。 うるさいどこぞのヒステリック令嬢が居ませんもの、いつもはもっと早い時間にいらっしゃるの?」
ヒステリック令嬢かぁ、そんな人居たっけか……
「えぇ、食堂が開いてからはじめのうちに済ませますね」
私と同じくトレーを持ち、ほとんど人がいない料理を受けとる為のカウンターへ進む。
カウンターには色とりどりの野菜が入ったサラダと白くふわふわとしたパンとフランスパンの二種類。
おかしなことに硬く噛みごたえがある長いパンをこちらの世界でもフランスパンと呼んでいる。
野菜や果物の名前は微妙に違うのにフランスパン、フランスなんて名前の国はこの世界には存在しないのにフランスパン。
日本で使われていた食物や道具の名前が若干弄られているにも関わらず料理の名前はもとのままと言う素晴らしいちぐはぐ感に、初めて気が付いた時には暫く笑ってしまった。
どうやらフランスと言う国は無いけれど、フランスさんと言うパン職人の方が考案した事でフランスパンと呼ばれるようになったらしい。
パンとサラダの次に肉か魚のメイン料理、もしくはメインを両方選び、スープで今晩のディナーが完成だ。
シャノン様の銀盤トレーの上にはサラダとスープのみ。
「ちょっと、夜にその量は食べ過ぎではなくて?」
私のトレーを見ながらまるで信じられないものでも見たような反応をするシャノン様。
「サラダなしでパン二種類とメイン二種類とスープってどう言うことですの!? 片寄った食生活の悪役令嬢とゲームなんて嫌ですわ!」
シャノン様はそう言うなり、自分の銀盤トレーをまるでファミレスのウエイトレスのように器用に片手に乗せると、あっと言う間に私のトレーからお肉のメインとサラダを入れ換えてしまった。
「あぁー! お肉が!」 
「ほらさっさと動かなければ他の方の迷惑ですわ」
様変わりしたトレーを手にとぼとぼとシャノン様の後ろをついていき、シャノン様が座った大きな窓際のテーブルへ自分のトレーを置いた。
「お肉がぁ……」
「まだ言ってますの? それよりもなぜ貴女は当たり前のように私の隣に座るのかしら? 他にも席は沢山の空いていますのよ!?」
キイキイいってるシャノン様は無視して、私はサラダにフォークを突き刺して口へと運ぶと、静かに食べ始めた。
あんまり好んでサラダは食べないのだけど、このドレッシングは美味しい。
「シャノン様も早く食べましょう。 せっかくの温かな食事が冷めてしまいますよ?」
食堂での食事が義務化されてからと言うもの、毒見がなくなり温かい食事が食べられるのはありがたいよね。
「はぁー」
目に見えてぐったりとしながら、椅子へ座るとシャノン様はサラダをフォークでつついている。
「もう、貴女のせいでまともにゲーム出来る気がしませんわ」
「だってゲームじゃないですもん。 私もシャノン様も前世があろうとなかろうと、美味しい食事を食べている今が現実です」
一口大に切り分けた魚をパクりとくわえる。
「ゲームじゃ……ない?」
「えぇ、少なくとも私はそう感じてます。 二次元の時と皆性格も価値観も違うんです。 ゲームなら大きなイベントで三種類くらいの選択ボタンを選んだり、フラグだけ回収すれば攻略対象者を攻略できるじゃないですか?」
「えぇ、そうね」
俺様キャラのメイン攻略者だったルーベンスは、蓋を開けてみればお子様なヘタレ王子だったし、逆ハーレムを築き上げたヒロインのマリアンヌ様は好きな人を助けるために手段を選ばず、大罪を犯した。
「でも実際にはこうしてシャノン様と食事をしたり、お風呂に入ったり、一緒に遊んだり出来るじゃないですか?」
「当たり前でしょ。 食事しなければお腹がすくし、お風呂に入らなきゃ臭いじゃない」
「たしかにVRゲームみたいにそうした日常的な行動を楽しめる物もありましたけど、『ドキパラ』はそうじゃないですよね?」
私の知識の中にある『ドキドキイケメンパラダイス』と言う名前らしい恋愛シミュレーションゲームは、たしか勉強してヒロインの能力値をあげる育成と攻略対象者とのイベントを通して「攻略対象者達との親交を深める」ことがプレイヤーの行動の主軸になる。
育成具合や、親交の深さで攻略対象者達との恋愛を成立させていくゲームだったかな。 おっ、意外と出てくるもんだね。
「たしかにこの世界ってシャノン様が言うように『乙女ゲームと似た世界』だけど、こうしてゲーム以外の事をしてる時点で『乙女ゲームと同じ世界』ではないんですよね」
蜂蜜を溶かした甘い紅茶がたっぷり入った白磁カップを口へ運ぶ。 うん、うまい。
「それにー」
「リシャー! ただ今戻りました!」
食堂の出入り口からやって来たきらびやかな深紅のドレスを纏ったクリスティーナ様がキョロキョロと食堂内を見回して居たので、右手を挙げて居場所を教えた。
私の姿を確認した途端、花でも翔ばしそうな満面の笑顔をうかべて手を振りながらこちらへやって来るクリスティーナ様。
「だってあれが前作の悪役令嬢ですよ?ぐぇっ」
背中からクリスティーナ様が飛び付いてきた拍子に首が絞まる。
「リシャ、聞いてくださいよぉ! クォーラン侯爵のエロ親父にお尻撫でられたぁぁあ」
抱きつくなりびぇぇぇーと泣き出したクリスティーナ様の頭をよしよしと撫でてやる。
クォーラン侯爵って確かフリエル公爵領と土地を接する領土拡大を掲げる過激派の顔面が陥没してるセクハラ親父だったよね。
「はぁ、本当に貴女といい彼女といい……原作崩壊ですわ」
額に手を当てて首を振るシャノン様、仕方ないじゃんこれが私なんだから。
三つ子の魂百までと言うけれど、こちとら前世の知識の下積みがありますからね、前世の家族も名前も人生もほとんど覚えていないけど……
「まぁ、私とクリスの他にもだいぶキャラが崩壊している人がいますけど、攻略するんですよね?」
「もちろんですわ!」
そうかそうか、良かったぁー。  ゲームと違うと認識してやっぱりやめたって言われたらどうしようかと思ったわ。
「協力しますからね!」
「要りません!」
宣言したら即答されました。 私とシャノン様の様子を見ていたクリスティーナ様が頬をプクリと膨らませた。
「リシャ? いったいいつのまにシャノン様と仲良くなったんですか?」
「ん? 聞きます馴れ初め!」
「女同士で馴れ初めなんてあるわけないでしょ!」
えー、ありますよ。 一期一会すべてに馴れ初めありますよ。
「あっ、シャノン様も聞きますか? 私とクリスの馴れ初め」
「聞きません! 馴れ合うつもりはないって言いましたわよね」
ふぅ、またぷりぷりし始めたシャノン様の眉間には深い二本の縦皺が……
「人の顔をジロジロと一体何を見ていますの!」
「いやぁ、笑ってた方が可愛いのになぁと……」
「なっ!? かっ、可愛いって! 一体何を考えていますの! わっ、私が可愛いのは当たり前でしょ。 ヒロインなんですから!」
噛みながらそう告げると、顔を真っ赤に染めながらシャノン様は温くなった紅茶を煽った。
「リシャ! 私は?」
「クリスはいつも可愛いですね」
そう告げるとクリスティーナ様が満面の笑みを浮かべた。
いやぁ、流石二人とも乙女ゲームの主役級美少女だわ。
「さて、ご馳走さまでした」
すっかり空になった器に、両手を胸の前で合わせて頭を下げる。 はぁ、お腹いっぱい幸せ幸せ。
「ご、ご馳走さまでした」
つられたのかシャノン様も両手を合わせて頭を下げた。
「リシャ! 場所を移動してお茶会にしましょう。 おみやげに王室御用達の焼菓子をいただいてきましたの」
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