『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

104『私が悪役令嬢らしいです』

 抵抗を見せるシャノン様をずるずると力ずくで引き摺って、私は目についた空き教室へとシャノン様を引っぱり込んだ。


 カーテンが閉められた教室には窓から射し込む自然光以外に明かりがないため薄暗い。


 壁や棚に沢山の書物が納められているため、図書室か、自習室として使われていた部屋なのかもしれない。
 
「一体なんなんですの!? いきなりこんなところに引き摺り込んだりして!」


 私は怒っていますのよと言わんばかりにキメ細やかな頬を膨らませて見せている。困った……凄くその気持ち良さそうな頬をひとさし指でつつきたい。
        
「フリエル様は先程悪役令嬢って言われましたよね?」


「えぇ、それがなにか? 私忙しいんだけど」


 凄く嫌そうに顔をしかめるシャノン様。


「悪役令嬢はクリスティーナ様でしょ? 私は立派なモブ女ですわ」


 この世界が世の乙女達のために作られた恋愛シミュレーションゲーム、いわゆる乙女ゲームと同じ世界がベースとなっていることは、一年前に思い出した前世の知識から知っている。


 そして認識している悪役令嬢は私じゃなくてクリスティーナ様なんですけど。


「はぁ? クリスティーナは前作の悪役令嬢じゃない。 何を……もしかして貴女、転生者なの?」


 シャノン様の口から出た転生者と言う言葉に私が先程から感じていた違和感の原因が浮き彫りになった。
  
「やっぱり! シャノン様も転生者なのですね」


 異世界転生なんて不思議な現象が、今の私を構築しているのだから、他に同じような境遇の人が居るんじゃないかと思っていたのよ。


「はぁ……だから色々原作と矛盾していたのね? カイザー様と婚約している筈の悪役令嬢は婚約してないし、もっとデブスなはずなのに細いし、貴女悪役令嬢としてきちんと仕事をしてくれないとヒロインの私が困るのよ」


「あのぅ、まずそこからして認識がずれてるんですけど、私が悪役令嬢ってなんのことですか?」


 私の断片的な知識ではリシャーナ・ダスティアなんて名前のキャラクターに覚えはない。


「リシャーナ・ダスティアは『ドキドキイケメンパラダイス』のセカンドで出てくる当て馬よ。 そしてクリスティーナは『ドキパラ』の初代悪役令嬢」


 へぇ、この世界の乙女ゲームってそんな名前だったの、まったく思い出せなかったわ。 むしろそんな名前のゲームをよく買ったなぁ前世の自分。


 むしろ本当に自分で買ったのか前世の自分……前世の記憶がないからわからないなぁ。


 『ドキドキイケメンパラダイス』を略して『ドキパラ』かぁ……ベタですね。 もうちょっとこう捻りの効いた題名はつけられなかったんでしょうか。


「セカンドにしか出てこないアラン様が学院にいるんだから、私の当て馬はリシャーナ・ダスティアでしょう? 悪役なら悪役らしく、私がヒロインとして攻略対象者と結ばれるようにきちんと仕事をしてちょうだい」


「へぇ、私が悪役令嬢ですか。 すいません、原作知らないんですよね。 具体的にどのような事をするとか、どんなエンディングだったとか、私が悪役令嬢をまっとうした場合のメリットとデメリットを教えてください! できるところは協力しますから」


 少なくともカイザー様とアラン様は攻略対象者だろう。 ルーベンス殿下は……前作の攻略対象者だから対象外かな? 後はアラン様に看病を押し付けた少年が怪しいか……


「はぁ!? 私は貴女となんて馴れ合うつもりは」


「バッドエンドって私はどうなります?やっぱり没落ですか?」


 没落は嫌だなぁ。 父様や兄様達に迷惑をかけたくない。


「なんでそんなこと教えなければなりませんの!?」


「違うの? それなら国外追放とか幽閉? それとも教会で修道女?」


 国外追放なら今のうちに行きたい場所を決めておくかなぁ、ゾライヤ帝国はアラン様が攻略対象者なら、乙女ゲームによくあるテンプレ断罪で私を断罪するのだろうし。


 教会で修道女は退屈そう……う~ん、それなら国外追放の方が楽しいかなぁ。


 クリスティーナ様や兄様に会えないのは身を切るように辛いけど、最近何かいろんなものにじわじわと真綿で首もと絞められてるような嫌な予感がするんだよね。


「人の話を聞きなさ」


「出来れば家族に迷惑をかけたくないので没落は勘弁して欲しいのですけど……、あと幽閉は飽きるので追放が良いなぁと思うんです! はっ!? まさか処刑は無いですよね!? シャノン様?」


 一方的にこちらの希望を伝えてみたのですが、何故か可憐な白い拳の色が赤くなるほどに握り締めたシャノン様。


「いい加減に私の話をきちんと聞きなさい!」


「あっ、はい」


「良いこと! 貴女は悪役令嬢! それはわかっているわね?」


「まぁ、一応?」
 
 あまり実感はありませんけど、シャノン様の言葉を全面的に信じるならそうなのだろう。


「はぁ、悪役令嬢がこれでこの先本当に大丈夫なのかしら」


「あ、シャノン様の攻略対象者って誰ですか? 私仲人しますよ?」


 シャノン様は美人さんなのできっとカイザー様やアラン様と並んでも似合う……よね?


 シャノン様に笑いかけるカイザー様とアラン様を想像して、何故か不整脈と小さな痛みが走ったような幻覚を覚えた。


「結構ですわ。 自分の力で振り向かせますから! 貴女は私を虐めると言う役割をきちんとしていただければ充分です!」


 えっ、私がシャノン様を虐めるの?


「えっ、無理無理」


「無理でもやってもらわなくちゃ話が進まないじゃないの」


 だって無駄に顔面偏差値が高いお馬鹿な男どもならいくらでもハリセンをとばすけど、シャノン様にはハリセンは入れられないわ流石に。


「とにかく貴女は攻略対象者の前で私に嫌がらせをするのよ! 良いわね?」


 できるかどうかは分からないけれど、とりあえず返事はしておこう。
 
「はいはい」


「はい、は一回! なんだか凄く不安だわ」


 シャノン様、もしかして意外と体育会系ですか?


「とにかく私は貴女とは馴れ合わないんだから!」


「はーい。あっシャノン様! ご一緒に夕食をいただきましょう! お料理得意ですか? 味噌とか醤油とか作り方しりません!?」


「貴女は人の話をきちんと聞いた方がよろしくてよ……」


 詰め寄る私にシャノン様が大きな溜め息を吐いた。      
 



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