『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
81『良い子は真似しないでくださいね』ディオン視点
はぁ、また厄介なことになったなとディオンは深い溜め息をついた。
俺の仕事は行方不明の主の愛娘リシャーナ・ダスティア公爵令嬢、お嬢を見つけて保護するのが任務だった筈なのに、なんでこうなるんだろう。
小麦粉が入った袋はずっしりと重い、俺の気分もずっしり重い。
しかしお嬢の突発的な思考には毎度の事ながら驚かされる。
昔からイタズラに関して頭の回転が早かったが、学院へ入学されてからは更に磨きがかかったように思う。
一体どこからあの思考回路が培われているのか。これも貴族の、ダスティア公爵家の血筋がなせる業なのだろうか。
しかも前世で有名な漫才をこちらの世界で見ることが出来るとは思ってもみなかった。
もしかしたら俺のように摩訶不思議体験をしたものが過去にゾライヤ帝国にいたのかもしれない。
是非会ってみたかったなぁ……
今頃お嬢はノアとゾロを連れて第二皇子に監禁されているアラン殿下を救出に向かっているはずだ。
少しでも拘束されている軍の中心部に近い天幕から監視の目を反らすために騒ぎを起こすのが仕事な訳だが、お嬢が企んだ通りに今から行おうとしていることが成功したら、目眩まし処の騒ぎでは無くなるだろう。
陣地の比較的外側にある篝火は等間隔に設営されているため明るいが、第二皇子が始めた宴の影響か警備が手薄になっている様だった。
それもそうだ。 ローズウェル王国とフレアルージュ王国が手を組み、第二皇子が仕掛けた戦い以降動きがなかったのだ。
緊張感だってそうそう長く維持できるものでもないし、あれだけばか騒ぎをされれば、流石の俺でも嫌になる。 真面目に働くのも馬鹿馬鹿しくなって当たり前だ。
まぁお陰で俺は動くやすい訳だから助かるが。
利き手である右手の人指し指の先を口に含み、風向きを確認すると俺は迷うことなく風上へ移動した。
それなりに風があるから風下では間違いなく直撃で爆風を食らうだろう。
普段はターゲットの風上にまわることはないのだが、思いがけずに与えられた二度目の人生だ。 大切に生きたいじゃないか。
人使いが荒いダスティア公爵家ではあるが、それ以上にあの一家はお人好しなのだ。
俺は小麦粉の入った袋を木陰に置くと両手に載せられるだけの小麦粉を持って燃え盛る篝火にぶちまけた。
すぐに踵を返して近くにある桃色の花が咲く樹の後ろに隠れた。
「……」
五秒経過。
「……」
十秒経過。
いつまで待っても爆風がこない……
小麦粉の量が少なかったか? もしくは散らし方が悪かったのか。
小麦粉の袋を切り裂き口を拡げると今度はそれの中身をそのまま不発の篝火に散らした。
白い粉が宙を舞う。 これだけ白ければいけるだろう! 俺は速攻で樹の影に隠れた。
「……」
五秒経過。
「……」
十秒経過。
「うそ~ん。 なんで消えるんだよ! ここは小麦粉に引火して爆発だろうが!?」
急ぎ駆け寄れば、ブスブスと煙をあげて燻りながら鎮火した篝火が……
どうしよう……
「おい! 篝火が消えてるぞ!」
「誰だよこれ担当したやつ、ちゃんと薪を足したのか?」
突然消えた篝火を不審に思った兵士がこちらに駆け寄ってくる。
「おい! 誰か居るぞ!」
「やべっ!」
姿を見られた為に林の奥へと逃げると建物二階分はあろう高木によじ登り、今後どうするか作戦を練り直す。
「曲者は!? こう暗くちゃ周りが見えない。おい! 取り合えず生木で構わないからそこら辺の低い木を伐ってガンガン焼べろ!」
「おっ、おう」
追跡は諦めたのか二人の内の一人が言うと、周囲の樹の枝を剣で無造作に切り落とし始めた。
あーぁ、剣が傷むだろうがと思いながら様子を伺う。
俺が登った高木はざらざらとした白い樹皮をしていてそれなりの太さがある。
よく見れば男たちは同じ種類だろう白い樹皮の苗木や若木を切り落としているようだった。
しかし、この木……どっかで見たことがあるんだよな。
男のうちの一人が先ほどまで俺が隠れていた八重咲きの美しい桃色の花が咲いている木を切り倒した。
両端がほっそりと尖った葉が笹の葉に似ている。
そうだ。 この花、前世の土木作業中に見たことがある木だ。
なんと言う名前だったか……
そうだ! キョウチクトウ! 漢字を当てると夾竹桃。
竹に似た葉っぱと桃のような色の花が咲くきれいでヤバイ木だと親方が言っていたんだった。
廃校の校庭に植えられていたこの木を焼却炉へ放り込もうとして、慌てた親方にこっぴどく怒られたもんだ。
『馬鹿野郎! 死にてぇのか!?』
と……
そこまで思い出してぎょっとした!
見ればもう一人の男が燻る火だねに生木をバンバン放り込んでいる。
その間にもう一人の男も他の夾竹桃の生木を他の篝火に放り込んでいる。
一度鎮火した篝火の燃えが悪いからとアルコールまで放り込んだ途端に、アルコールを入れた男の顔を嘗めるように火の手が大きく上がった。
「うわぁー! めっ! 目がぁぁぁぁ!」
煙を吸い込んだらしい兵士は目を擦りながら絶叫するとフラフラと篝火に倒れ込んだ。
「おっ、おい! 大丈夫か!? うっ!」
助け起こそうと応援に駆けつけた一人が口を抑えて地面に蹲ると勢いよく嘔吐を繰り返す。
次第に騒ぎが大きくなる現場では謎の体調不良によりバタバタと人が倒れていく光景を目に当初の粉塵爆発の方が被害は少なかったかもしれないなぁと思いながら、前世の親方に感謝しか浮かばなかった。
「これだけ騒ぎになれば目眩ましとしては十分だろう。 上手くやってくれよ。 お嬢……」
俺の仕事は行方不明の主の愛娘リシャーナ・ダスティア公爵令嬢、お嬢を見つけて保護するのが任務だった筈なのに、なんでこうなるんだろう。
小麦粉が入った袋はずっしりと重い、俺の気分もずっしり重い。
しかしお嬢の突発的な思考には毎度の事ながら驚かされる。
昔からイタズラに関して頭の回転が早かったが、学院へ入学されてからは更に磨きがかかったように思う。
一体どこからあの思考回路が培われているのか。これも貴族の、ダスティア公爵家の血筋がなせる業なのだろうか。
しかも前世で有名な漫才をこちらの世界で見ることが出来るとは思ってもみなかった。
もしかしたら俺のように摩訶不思議体験をしたものが過去にゾライヤ帝国にいたのかもしれない。
是非会ってみたかったなぁ……
今頃お嬢はノアとゾロを連れて第二皇子に監禁されているアラン殿下を救出に向かっているはずだ。
少しでも拘束されている軍の中心部に近い天幕から監視の目を反らすために騒ぎを起こすのが仕事な訳だが、お嬢が企んだ通りに今から行おうとしていることが成功したら、目眩まし処の騒ぎでは無くなるだろう。
陣地の比較的外側にある篝火は等間隔に設営されているため明るいが、第二皇子が始めた宴の影響か警備が手薄になっている様だった。
それもそうだ。 ローズウェル王国とフレアルージュ王国が手を組み、第二皇子が仕掛けた戦い以降動きがなかったのだ。
緊張感だってそうそう長く維持できるものでもないし、あれだけばか騒ぎをされれば、流石の俺でも嫌になる。 真面目に働くのも馬鹿馬鹿しくなって当たり前だ。
まぁお陰で俺は動くやすい訳だから助かるが。
利き手である右手の人指し指の先を口に含み、風向きを確認すると俺は迷うことなく風上へ移動した。
それなりに風があるから風下では間違いなく直撃で爆風を食らうだろう。
普段はターゲットの風上にまわることはないのだが、思いがけずに与えられた二度目の人生だ。 大切に生きたいじゃないか。
人使いが荒いダスティア公爵家ではあるが、それ以上にあの一家はお人好しなのだ。
俺は小麦粉の入った袋を木陰に置くと両手に載せられるだけの小麦粉を持って燃え盛る篝火にぶちまけた。
すぐに踵を返して近くにある桃色の花が咲く樹の後ろに隠れた。
「……」
五秒経過。
「……」
十秒経過。
いつまで待っても爆風がこない……
小麦粉の量が少なかったか? もしくは散らし方が悪かったのか。
小麦粉の袋を切り裂き口を拡げると今度はそれの中身をそのまま不発の篝火に散らした。
白い粉が宙を舞う。 これだけ白ければいけるだろう! 俺は速攻で樹の影に隠れた。
「……」
五秒経過。
「……」
十秒経過。
「うそ~ん。 なんで消えるんだよ! ここは小麦粉に引火して爆発だろうが!?」
急ぎ駆け寄れば、ブスブスと煙をあげて燻りながら鎮火した篝火が……
どうしよう……
「おい! 篝火が消えてるぞ!」
「誰だよこれ担当したやつ、ちゃんと薪を足したのか?」
突然消えた篝火を不審に思った兵士がこちらに駆け寄ってくる。
「おい! 誰か居るぞ!」
「やべっ!」
姿を見られた為に林の奥へと逃げると建物二階分はあろう高木によじ登り、今後どうするか作戦を練り直す。
「曲者は!? こう暗くちゃ周りが見えない。おい! 取り合えず生木で構わないからそこら辺の低い木を伐ってガンガン焼べろ!」
「おっ、おう」
追跡は諦めたのか二人の内の一人が言うと、周囲の樹の枝を剣で無造作に切り落とし始めた。
あーぁ、剣が傷むだろうがと思いながら様子を伺う。
俺が登った高木はざらざらとした白い樹皮をしていてそれなりの太さがある。
よく見れば男たちは同じ種類だろう白い樹皮の苗木や若木を切り落としているようだった。
しかし、この木……どっかで見たことがあるんだよな。
男のうちの一人が先ほどまで俺が隠れていた八重咲きの美しい桃色の花が咲いている木を切り倒した。
両端がほっそりと尖った葉が笹の葉に似ている。
そうだ。 この花、前世の土木作業中に見たことがある木だ。
なんと言う名前だったか……
そうだ! キョウチクトウ! 漢字を当てると夾竹桃。
竹に似た葉っぱと桃のような色の花が咲くきれいでヤバイ木だと親方が言っていたんだった。
廃校の校庭に植えられていたこの木を焼却炉へ放り込もうとして、慌てた親方にこっぴどく怒られたもんだ。
『馬鹿野郎! 死にてぇのか!?』
と……
そこまで思い出してぎょっとした!
見ればもう一人の男が燻る火だねに生木をバンバン放り込んでいる。
その間にもう一人の男も他の夾竹桃の生木を他の篝火に放り込んでいる。
一度鎮火した篝火の燃えが悪いからとアルコールまで放り込んだ途端に、アルコールを入れた男の顔を嘗めるように火の手が大きく上がった。
「うわぁー! めっ! 目がぁぁぁぁ!」
煙を吸い込んだらしい兵士は目を擦りながら絶叫するとフラフラと篝火に倒れ込んだ。
「おっ、おい! 大丈夫か!? うっ!」
助け起こそうと応援に駆けつけた一人が口を抑えて地面に蹲ると勢いよく嘔吐を繰り返す。
次第に騒ぎが大きくなる現場では謎の体調不良によりバタバタと人が倒れていく光景を目に当初の粉塵爆発の方が被害は少なかったかもしれないなぁと思いながら、前世の親方に感謝しか浮かばなかった。
「これだけ騒ぎになれば目眩ましとしては十分だろう。 上手くやってくれよ。 お嬢……」
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