『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
77『謎の美女(笑)』
右、よし! 左、よし!
すっかりと暗くなった外の様子を確認するべく天幕から顔だけを出してキョロキョロと視線を走らせた。
篝火が焚かれているため仄かに明るいが、出歩くには全く問題ない。
そんな私の袖を引きながら強引に天幕の中に引き戻された。
一重の切れ長な目は鮮やかな青いアイシャドーで彩られ長い睫毛が琥珀色の瞳を囲っている。
体型を隠してしまうことが多いアバヤですら隠せぬほど胸元にはたわわな大振りな果実が、主張する大柄な美女が野太い声で聞いてくる。
「なぁ、本当に行く気か」
「勿論行きますよ?」
「でもよー、可笑しくないか? 体格的に無理があるだろう。 しかも腕やら脛やらまで毛を反り落とさなくても良かったんじゃないか? どうせ見えないだろうに」
なにを仰るやら、万が一その女性にあるまじき、太く濃いムダ毛様達が見られたらどうするんだか。
只でさえ女性物のアバヤは頭ふたつぶん身長が高いゾロ、ゾフィー様が纏うと若干丈が足りず足首が出てしまうため頑張って軽く膝を曲げた状態で身長を調節してもらった。
胸元の立派な膨らみは南瓜で偽装してある。
「ほら、さっさと出てください! 遅くなればなっただけアラン様の立場は悪くなるんですから!」
「分かった、分かったから押すなよ」
「押すな、押すなは押せってことですねっ!」
「違うだろうって、うわ!」
二の足を踏んでなかなか天幕から外へ出ないゾロさんの背中を勢い良く外へと押し出した。
挙動不審に辺りを見回すゾロさんを促して、手に籠を持たせた。
「良いですか、貴方は今から女性です! 思い付く限りの理想の女性を思い出して下さい!」
「……思い出したぞ」
「その女性ならどのように振る舞うか考えて真似してください。 とりあえず喋らなくて良いので、はい、がに股しない!」
膝を外側に向けて曲げているため、ゾロさんの太股を叩いて軌道修正しておく。
「わかったよ。 ところでどこに行くつもりだ。 今この軍の中に俺たちの味方は居ないぞ?」
堂々と歩く私の後ろをついてくるゾロさんが小声で聞いてきた。
「とりあえずノアさんの元に向かおうかと思います。 あの人は間違ってもイーサン殿下の側にはつきませんよ」
「なぜそう言い切れる?」
「んー、勘ですかね。」
「勘って……」
「勘です。 ほらちゃんと歩いて下さい!」
足を停めたゾロさんを促してノアさんの居るだろう調理場へ向かって歩く。
視線は感じるものの、私と言うより、ゾロさんの胸部に集まっているようなので気にしない。
だってあれは本物じゃないもん!
「はぁ、ダーナ……調理場はこっちだぞ?」
ハッ! またやった!?
ゾロさんを先頭に最短距離で目的地やって来た私たちは戦場と化した調理場の様子に絶句した。
鬼気迫る勢いでアバヤを着た女性達が走り回っている。
「あのっ、一体何が?」
恐る恐るその中の一人に声をかければ、キレのある身のこなしで自分が持っていた包丁を私へ押し付けた。
「貴女暇そうね! イーサン殿下が宴を催されているのよ。 全く! 何をお考えなのか! こんな戦地で宴の馳走を作れとか、とにかく人が足りないのよ!」
「はい、ノアさんは?」
「ノアさんは向こうにいるわ! 今近寄らない方が良いわよ? 物凄く不機嫌だから!」
不機嫌なノアさん……考えただけで血の気が下がるんだけど。
「ゾフィー様、参りますか」
「……あぁ」
私達のやり取りを静かに聞いていたゾロさんもノアさんの不機嫌に関わりたくないのだろう、明らかに先程よりも歩みが遅い。
わかる、わかるよその気持ち。 私も怖いから。
教えて貰った場所はまさしく地獄だった。
「貴女! 出来上がったものからお運びして! そっちはあとどのくらい?」
目の前に檄を飛ばす修羅が居る。
「ゾロさん行って呼んできて?」
「それは俺に死ねと言うことか……」
顔色が悪いゾロさんが悲壮感たっぷりに返してきた。
「……骨は拾うよ」
「わかった、俺が拾うから行ってこい!」
天幕での仕返しとばかりに背中を押された私は体勢を崩したままノアさんの元へ転がり込んだ。
「ちょっと、あんた大丈夫かい?」
「ノアさん……」
「うん?……あんたもしかしてダーー」
「ノアさんシー!」
私の名前を言いかけたノアさんの口を慌てて塞いだ。
「ノアさん! アラン様がイーサン殿下に捕まった。 あの皇子を皇帝にしたくないからお願い手を貸して!」
「は? 一体どうして……とにかく話を聞きましょうか。 皆、ちょいと席を外すからね。 頼んだよ!」
ノアさんが声を張り上げればあちらこちらからから不満の声が上がったが、ノアさんは調理場にある食料貯蔵庫となっている天幕の中に私達を促した。
「しかし見違えたわ。 肥ってた時は気がつかなかったけど、可愛い目元してたのね。 ところで後ろの美人さんは誰だい?」
興味津々と言った様子で後ろから付いてくる美女(笑)を観察している。
「ノア殿……」
美女から発せられた野太い声にノアさんがギョッとした様子で目を見開いた。
「そ、その声は、ゾーー」
「はいはい続きは天幕の中でしましょうか」
吹き出すのを必死にたえるノアさんを引き摺って天幕へ入ると、耐えきれなくなったのか盛大に笑い出した。
「ぞ、ゾロだってのかい。 本当に? ブフッ! アハハハハッ、こりゃあ良い女だねぇ」
「美人でしょう?」
ニヤニヤとゾロさんを見れば眉間に深い縦皺を刻み込んでいる。
「うるせぇ、仕方ないだろうが緊急事態だったんだからな。ダーナにやられたんだ、俺の趣味じゃねぇ」
ふて腐れて身長を偽ることを辞めたせいで男らしく筋ばった足首が下から覗いていて更にノアさんの腹筋を破壊する。
「ヒー! ちょっと、あんたこれ以上笑わせんじゃないよ。 腹が痛くて仕方がないわ! それで、一体何が起こってるんだい? 私ら末端には情報が伝わってこないんだよ。夕食の支度をしていたら突然宴を催すとのお達しのせいで軍で備蓄してあった食料があらかた消えちまうんだ。 皇子様方に何があったんだい?」
なんとか笑いを治めて真剣な表情で聞いてきたノアさんに、アラン様に連れられていった後の出来事をかいつまんで説明する。
時々ゾロさんが補足を入れているものの、ノアさんはあえて姿を見ないことにしたらしい。
「そうかい……それでこれからどうするつもりだい?」
先程までとは比べ物にならないほど真剣な声、そこに潜む気配に私は違和感を覚えたがまずはアラン様の奪還が最優先だ。
「ノアさん、従軍している女性達にコッソリ噂を流して下さい」
「ふぅん? なんて流せば良いんだい?」
「そうですね……皇帝陛下と皇太子殿下が亡くなり、イヴァン殿下がイーサン殿下に殺された。 親兄弟すら簡単に手にかけるイーサン殿下が皇帝になったら……こんなとこですかね? 後は勝手に誇張して行くでしょ?」
「そうさね、ついでに今日の宴で明日からの私達の食料が尽きたとでも言っておこうか」
ニヤリと笑うノアさんの頼もしいこと。
「ではいっちょやってやりますか」
「そうだねぇ、今までのツケは利子をつけて払ってもらおうかね」
「うわぁ、怖ぇ……」
フフフフっと笑いあう私達にゾロさんがなんな呟いたのでノアさんと笑顔を向ければ。 ゾロさんがひきつった。
「すいません! ノアさんがこちらに居ると聞いてきたんですが!」
天幕の外から聞こえてきた声に私の口角が上がる。
やりぃ! 手駒が増えた。
すっかりと暗くなった外の様子を確認するべく天幕から顔だけを出してキョロキョロと視線を走らせた。
篝火が焚かれているため仄かに明るいが、出歩くには全く問題ない。
そんな私の袖を引きながら強引に天幕の中に引き戻された。
一重の切れ長な目は鮮やかな青いアイシャドーで彩られ長い睫毛が琥珀色の瞳を囲っている。
体型を隠してしまうことが多いアバヤですら隠せぬほど胸元にはたわわな大振りな果実が、主張する大柄な美女が野太い声で聞いてくる。
「なぁ、本当に行く気か」
「勿論行きますよ?」
「でもよー、可笑しくないか? 体格的に無理があるだろう。 しかも腕やら脛やらまで毛を反り落とさなくても良かったんじゃないか? どうせ見えないだろうに」
なにを仰るやら、万が一その女性にあるまじき、太く濃いムダ毛様達が見られたらどうするんだか。
只でさえ女性物のアバヤは頭ふたつぶん身長が高いゾロ、ゾフィー様が纏うと若干丈が足りず足首が出てしまうため頑張って軽く膝を曲げた状態で身長を調節してもらった。
胸元の立派な膨らみは南瓜で偽装してある。
「ほら、さっさと出てください! 遅くなればなっただけアラン様の立場は悪くなるんですから!」
「分かった、分かったから押すなよ」
「押すな、押すなは押せってことですねっ!」
「違うだろうって、うわ!」
二の足を踏んでなかなか天幕から外へ出ないゾロさんの背中を勢い良く外へと押し出した。
挙動不審に辺りを見回すゾロさんを促して、手に籠を持たせた。
「良いですか、貴方は今から女性です! 思い付く限りの理想の女性を思い出して下さい!」
「……思い出したぞ」
「その女性ならどのように振る舞うか考えて真似してください。 とりあえず喋らなくて良いので、はい、がに股しない!」
膝を外側に向けて曲げているため、ゾロさんの太股を叩いて軌道修正しておく。
「わかったよ。 ところでどこに行くつもりだ。 今この軍の中に俺たちの味方は居ないぞ?」
堂々と歩く私の後ろをついてくるゾロさんが小声で聞いてきた。
「とりあえずノアさんの元に向かおうかと思います。 あの人は間違ってもイーサン殿下の側にはつきませんよ」
「なぜそう言い切れる?」
「んー、勘ですかね。」
「勘って……」
「勘です。 ほらちゃんと歩いて下さい!」
足を停めたゾロさんを促してノアさんの居るだろう調理場へ向かって歩く。
視線は感じるものの、私と言うより、ゾロさんの胸部に集まっているようなので気にしない。
だってあれは本物じゃないもん!
「はぁ、ダーナ……調理場はこっちだぞ?」
ハッ! またやった!?
ゾロさんを先頭に最短距離で目的地やって来た私たちは戦場と化した調理場の様子に絶句した。
鬼気迫る勢いでアバヤを着た女性達が走り回っている。
「あのっ、一体何が?」
恐る恐るその中の一人に声をかければ、キレのある身のこなしで自分が持っていた包丁を私へ押し付けた。
「貴女暇そうね! イーサン殿下が宴を催されているのよ。 全く! 何をお考えなのか! こんな戦地で宴の馳走を作れとか、とにかく人が足りないのよ!」
「はい、ノアさんは?」
「ノアさんは向こうにいるわ! 今近寄らない方が良いわよ? 物凄く不機嫌だから!」
不機嫌なノアさん……考えただけで血の気が下がるんだけど。
「ゾフィー様、参りますか」
「……あぁ」
私達のやり取りを静かに聞いていたゾロさんもノアさんの不機嫌に関わりたくないのだろう、明らかに先程よりも歩みが遅い。
わかる、わかるよその気持ち。 私も怖いから。
教えて貰った場所はまさしく地獄だった。
「貴女! 出来上がったものからお運びして! そっちはあとどのくらい?」
目の前に檄を飛ばす修羅が居る。
「ゾロさん行って呼んできて?」
「それは俺に死ねと言うことか……」
顔色が悪いゾロさんが悲壮感たっぷりに返してきた。
「……骨は拾うよ」
「わかった、俺が拾うから行ってこい!」
天幕での仕返しとばかりに背中を押された私は体勢を崩したままノアさんの元へ転がり込んだ。
「ちょっと、あんた大丈夫かい?」
「ノアさん……」
「うん?……あんたもしかしてダーー」
「ノアさんシー!」
私の名前を言いかけたノアさんの口を慌てて塞いだ。
「ノアさん! アラン様がイーサン殿下に捕まった。 あの皇子を皇帝にしたくないからお願い手を貸して!」
「は? 一体どうして……とにかく話を聞きましょうか。 皆、ちょいと席を外すからね。 頼んだよ!」
ノアさんが声を張り上げればあちらこちらからから不満の声が上がったが、ノアさんは調理場にある食料貯蔵庫となっている天幕の中に私達を促した。
「しかし見違えたわ。 肥ってた時は気がつかなかったけど、可愛い目元してたのね。 ところで後ろの美人さんは誰だい?」
興味津々と言った様子で後ろから付いてくる美女(笑)を観察している。
「ノア殿……」
美女から発せられた野太い声にノアさんがギョッとした様子で目を見開いた。
「そ、その声は、ゾーー」
「はいはい続きは天幕の中でしましょうか」
吹き出すのを必死にたえるノアさんを引き摺って天幕へ入ると、耐えきれなくなったのか盛大に笑い出した。
「ぞ、ゾロだってのかい。 本当に? ブフッ! アハハハハッ、こりゃあ良い女だねぇ」
「美人でしょう?」
ニヤニヤとゾロさんを見れば眉間に深い縦皺を刻み込んでいる。
「うるせぇ、仕方ないだろうが緊急事態だったんだからな。ダーナにやられたんだ、俺の趣味じゃねぇ」
ふて腐れて身長を偽ることを辞めたせいで男らしく筋ばった足首が下から覗いていて更にノアさんの腹筋を破壊する。
「ヒー! ちょっと、あんたこれ以上笑わせんじゃないよ。 腹が痛くて仕方がないわ! それで、一体何が起こってるんだい? 私ら末端には情報が伝わってこないんだよ。夕食の支度をしていたら突然宴を催すとのお達しのせいで軍で備蓄してあった食料があらかた消えちまうんだ。 皇子様方に何があったんだい?」
なんとか笑いを治めて真剣な表情で聞いてきたノアさんに、アラン様に連れられていった後の出来事をかいつまんで説明する。
時々ゾロさんが補足を入れているものの、ノアさんはあえて姿を見ないことにしたらしい。
「そうかい……それでこれからどうするつもりだい?」
先程までとは比べ物にならないほど真剣な声、そこに潜む気配に私は違和感を覚えたがまずはアラン様の奪還が最優先だ。
「ノアさん、従軍している女性達にコッソリ噂を流して下さい」
「ふぅん? なんて流せば良いんだい?」
「そうですね……皇帝陛下と皇太子殿下が亡くなり、イヴァン殿下がイーサン殿下に殺された。 親兄弟すら簡単に手にかけるイーサン殿下が皇帝になったら……こんなとこですかね? 後は勝手に誇張して行くでしょ?」
「そうさね、ついでに今日の宴で明日からの私達の食料が尽きたとでも言っておこうか」
ニヤリと笑うノアさんの頼もしいこと。
「ではいっちょやってやりますか」
「そうだねぇ、今までのツケは利子をつけて払ってもらおうかね」
「うわぁ、怖ぇ……」
フフフフっと笑いあう私達にゾロさんがなんな呟いたのでノアさんと笑顔を向ければ。 ゾロさんがひきつった。
「すいません! ノアさんがこちらに居ると聞いてきたんですが!」
天幕の外から聞こえてきた声に私の口角が上がる。
やりぃ! 手駒が増えた。
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書籍化作品
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