『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

76『ファーストキスなんて認めない!』

 私、リシャーナは今自分の天幕を脱け出してノアさんの元に向かって早足に歩いています。


 理由は簡単口直しが欲しかった。


 薄いわりにふんわりと柔らかい唇と私の意思を無視して蹂躙してくれたけしからん舌使いと口腔内に広がる血液味……うげぇ、思い出すだけで気持ち悪。


 うん、認めない! あんなのがファーストキスなんて絶対、絶対、ぜぇ~っっったい! 認めない!


 第二皇子の呼び出しとやらが済んで戻ってきたらとっちめてやるんだから!


 擦りすぎてひりつく唇を噛み締めて軍の中を進んで居ると、背後から大きな固い掌で口を塞がれ、そのまま近くにあった天幕の一つへと引き摺り込まれた。


「~っ!? んーんーんー!(なに!?はーなーせー!)」


「ダーナ、ダーナ俺だよ俺! しっ! 暴れんな、静かにしろ! 死にたくなければ黙っとけ! な?」


 心の中でオレオレ詐偽ですかと突っ込みをいれながら、必死に私の口を塞ぎゾロさんがいい募る。


 コクコクと素直に頷いた私の拘束を解くと、鋭い視線で天幕の外を確認するように覗き込んだ。


「ダーナ、なんであんなところをフラフラしてやがった! 危うく俺までみつかるところだったじゃねぇか!」


 舌打ちするゾロさんが小声で凄んできた。


 つうかゾロさん小声で恫喝とか器用だね。


「ゾロさんこんなこそこそと隠れなくちゃならないなんて一体何したんですか? 素直に出頭した方が罪は軽くなると思いますけど」


 なんにしてもアラン様のせいで虫の居所が悪いんだからこれ以上厄介事に巻き込まれるのは嫌なんだけど。


「バカ! なんでアラン殿下付のお前がそんなに楽観的なんだよ! 一番立場的にヤバイのは側付きのお前だろうが……もしかして何があったのか知らないとか言わないよな」


「はぁ、アラン様ならさっき第二皇子殿下に呼ばれて普通に別れましたけど?」


 本当に一体なんなのよ。


「はぁ、よく聞けよ? アラン殿下がイヴァン皇子殺害と皇太子殿下の暗殺を行ったとしてイーサン殿下に拘束された」


 イヴァン殿下と皇太子殿下を暗殺? イヴァン殿下はまぁ心情的に解らないでも無いけど、皇太子殿下はゾライヤ帝国の王城に居るのに暗殺するの難しいでしょ。


 ちょっと待て、まずアラン様にそんな野心と言うか根性ないよ。


 そもそもあの皇子は帝位なんて望んではいないだろう。


 もし即位を望むならディオンの提案に乗るはずだから。


「アラン様にそんな気骨も覚悟もあるとは思えないんですけど」


「全くだ。 とにかく真相はどうあれアラン殿下の直参だった俺やお前は見つかったら色々と不味いだろう。 イーサン殿下が皇帝に即位をされればこの国は終わりだ。 度重なる戦乱で疲弊している今、長くは持たないだろう。 出来ればアラン殿下を救いだしてなんとか建て直したいんだけどな」


 イーサン殿下が皇帝とかなにそれ怖いわぁ。


 ローズウェル王国に仕えるいち公爵家の者としても是非とも御遠慮したいですね。


「そうですね、このまま逃げる手もありますけどこれ以上後手に回れば動きにくくなること受け合いですし?」


 さて、この天幕の中で隠れていたって情勢は好転しない。


 周りを見渡せば、この天幕の主は女性のようだし、それなら……


「ゾロさーん、ちょっと探し物手伝ってください! はやくはやく!」


 今だにイラついた様子で外を眺めるゾロさんを手招くと私は近くにあった長持の蓋を持ち上げて中身を物色させていただいた。


 持ち主さん、女性の秘密である長持を物色してスミマセン。


 腐なる物やその他ヤバそうな物があったらゾロさんに見付からないように隠しておくからね。


「う~んと……あった!」


 長持の中から黒い大判の布を引き出した。
 
「っておいおい! それアバヤじゃないか、まさか……!」


 アバヤはゾライヤ帝国の女性の伝統的な民族衣装で黒い布で目と手足の先以外をすべて隠す変装にもってこいの素晴らしい衣装ですよ。


「フフフフフッ、さぁさぁさぁ。着替えましょうか? 大丈夫大丈夫! 絶世の美女にしてあげますからぁ」


 アバヤを拡げながら、冷や汗を流して逃げを打つゾロさんを追い詰める。


「……本気か? 男の俺じゃ絶対に正体が露見するって!」


「大丈夫ですよ。 このダーナ様に任せなさい!」


「それが一番不安なんだよ……」


 がっくりと肩を落として項垂れたゾロさんがノロノロと着替えているわきで私もアバヤに着替えると、化粧品を拝借して外から見える目元にのみ化粧を施した。


 ちなみにイーサン殿下やイヴァン殿下の愛妾さんがたの化粧を参考にしたので色鮮やかな化粧品をのせた目元は華やかだ。


 直ぐに身元が露見しないように目尻にポチっと泣き黒子をアクセントに追加しておく。


 うん、上出来だね。 これならば私がダーナだとは解らないだろう! ワハハハハッ……あれ?


「着替えたぞ……ダーナ、だよな?」


 アバヤを着たゾロさんが私を二度見して確認をしてきた。


「そうですわ」


 そんなに違うかね。 美人でしょう!  ほほほほほっ!


「馬子にも衣装だ、いやぁ見違えたぞ。 しかし中身がダーナだと知っていると女言葉気持ち悪いな」


 誉めてないよね!? 馬子にも衣装は誉め言葉じゃないからね!


「さてゾロさん? いいぇゾフィー様?御化粧いたしましょう?」


 両手に化粧筆と白粉や紅をもって獲物に近付く。


「おっ、おう!」



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