『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

72『必勝祈願の口づけを』

「時間もないことだし俺はまどろっこしいの苦手なんで直球で。 アラン殿下、帝位に就きたくはありませんか?」


「なに?」


「この度お話しさせて頂いての感想ですよ。 はっきりいってこの軍の要はアラン殿下だ。 他の王子様方ではこの軍が瓦解するのも時間の問題でしょう」


 確かゾライヤ帝国には第一王子が皇太子として跡継ぎに指名されている。


 あの第二王子、第三王子が帝位につく可能性が上がるのは皇太子に何かあった時。


 あの傲慢な王子のどちらかが皇帝とか、はっきりいって考えただけでゾッとするわ。


 ふと足元に見覚えがある草を見つけて屈み込む。


 摘み取り軽く葉を揉み込むと独特の青臭い香りがする。


「帝位は皇太子殿下が継がれる。 口を慎め。 俺は簒奪など」


「本当ですか? 俺にはアラン殿下が今のゾライヤ帝国の在り方に悩んでいるように見えますよ」


 まさかこんなに近くにヨモギがあるなんて! これはガンガン摘み取って是非ともノアさんにヨモギパンにしてもらおう!


 本当はヨモギ大福が食べたいけど、もち米どころか米がないからなぁ。


 はっ! 灰汁抜きってどうすれば良いんだろう?


「……なぜ?」


「そりゃあ悩んでいる事くらいわかりますよ。 上手く隠しておいでのようですので、気がついているものは少ないでしょうけど、俺の身近に貴族の重責なんて何のその、本能で問題をねじ伏せて、全てひっくるめて我が道を突き進む方がいますからねぇ」


 なんかさっきから背中にビシビシ視線を感じるような気がするけど、今はヨモギ摘みだよね。


 これはヨモギー、これは……知らん。


 いやぁ楽しくなってきたなと鼻歌交じりでブチブチ引き抜いては服の前身ごろに摘んだよもぎを入れていく。


 ため息とも苦笑とも取れる声に、真面目な話をしていたはずの二人の気配が崩れたようなの気がして顔を上げた。


「お話は済みましたか?」


「あぁ、どうでも良くなった」


 アラン様に聞けば苦笑いを向けられた。


「ふーん。 ロアン直ぐに父様のところに戻るの?」


「アラン殿下次第かな? うちの迷子をお任せしてもよろしいでしょうか」
 
「あぁ、拾った生き物は最後まで面倒をみよう」


 むむっ、生き物はないんじゃないですか?確かに生きている者ですけど、愛玩動物じゃあございませんよ、私……


「その言葉お忘れなきように。 あと摘まみ食いしないで下さいね」


「それはどうかな?」


「自分の食料はきっちり確保してあるから大丈夫よ?」


「「……」」


「どうかした?」


「いや……」


「いいえ……」  


「ふーん、まぁいっか。 皆によろしく言っておいて、迎えまってるから」


 灰汁抜きなぁ、重曹ないしなぁ。


「アラン殿下、すいません。 御迷惑をお掛けします。 決心がつきましたらいつでも助力は惜しみませんので、それからなるべく早期に回収に参ります」


「いや、早期に回収に来られると言うことは戦闘になると言うことだからな。易々と捕虜は渡せん、敵国となった以上はお互い苦労は同じだ。 それに俺はアルファド、皇太子殿下が造るゾライヤ帝国を支えていきたいんだ」


「貴方も主に負けず劣らず頑固そうですね」


「お前もな。 次に会うときは戦場だろうが俺は容赦しないぞ」


「えぇ。 俺に殺されても恨まないでくださいね。 ダーナ様を頼みます」


 ディオンとアラン様がお互いにガシッと握手を交わすと、ディオンは自然な動作で私の右手をとり手の甲へと軽い口付けをおとす。


「なっ!」


 背後からビシビシと怒気が伝わるけれど、放置しておく。


「ダーナ様、ご無事で……」


「ディオンもね!」


 ディオンの額に必勝祈願らしい口づけをすると、アラン様が固まった。 兄様や父様が無事に帰ってこれるようにのおまじないだとソルティス兄様とソレイユ兄様が教えてくれた。


 はっきりいって慣れない! 恥ずかしい! なんつう拷問だと思ったけど、これがこちらの風習だと言うんだから仕方ない。


 アラン様が回復するより早くディオンは森へと姿を消した。



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