『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

71『てっきり男色だとばかり思ってた!』

 さて、着替えを済ませたアラン様に連れられてやって来ましたいつかの泉。


 なぜ泉かって? もちろん誰かさんが自分の天幕を壊したからですよ。


 水際は拓けておりまわりに木立もないため隠れられる場所もない。


 見える範囲には私とディオン、それからアラン様のみ。


 ディオンの話が何なのか分からないけれど、これだけ周りになにもなければ、他者が近づけばすぐに分かる。


 余程大きな声で発言しなければ話を聞かれる心配はしなくても大丈夫でしょう。


「それで? ロアン、話とは?」


 水際に立ち止まったアラン様がディオンに声をかけると、ディオンはアラン様の前に片膝を着いた。


「アラン殿下にはこの度我が主のお子、ダーナ様をお助けいただきありがとうございます。 臣下一同心より御礼を申し上げます」


「ほう? あっさり認めるんだな。 もっとのらりくらりとはぐらかすものと思っていたが」 


 うん、私もディオンがあっさり認めたのに驚いた。


 主の子、あえて家名は出していないけれどもアラン様は私がリシャーナ・ダスティア公爵家の人間だと知っている以上、自分は敵国の間者だと公言したと同義。


「ダーナ様がアラン殿下の手元にあり、私だけですぐに連れて帰れない以上、下手な答弁はダーナ様に不利益になると判断しました」


「まぁそうだろうな。それで? 俺は自軍に入り込んだ鼠を始末すれば良いわけか」


「アラン様!」


「そうですね。 それが道理でしょうね」


「ディオン!」


 ついつい本名を呼んでしまい気が付いて口を塞いだ。


「ふーん。 ディオンと言うのか」


「はぁ、ダーナ様……」


「ごっ、ごめんディじゃなくてロアン! つい……」


 顔の前に両手を合わせて謝った。


「良いですけどね、ダーナ様に姿を見られた今、これ以上の潜入は諦めてましたよ。 だからこそアラン殿下に恩情として場所を移していただきましたしね」


「苦労、しているんだな。」


「わかって頂けますかアラン殿下……ダーナ様に限らず、主の御家族皆様こんな感じです」


 しみじみとわかりあわれても納得いきませんよ。


「はぁ、ダーナ……部下は大切にしなければついてこないんだそ?」


「失礼な! すっごく大切にしてますよ!」


「「どこがだ!?」」


 双方からかけられたツッコミは示し合わせたように同調していた。


 なにげにこの二人気が合うんじゃない?


「仲良しですね二人とも! ハッ! もしやアラン様、ディじゃなくてロアンを男娼に迎えるおつもりですか!?」


「えっ! アラン殿下ってそうなんですか!?」


 私の言葉にディオンはものすごい勢いで後ずさった。


「違うわ! 俺は男は抱かない!」


「「そうなの!?」」


 てっきり男色だとばかり思ってた!


「ダーナ、お前なぁ。 よしわかった今宵の伽を申し付けよう。 なぁに、問題はないよな? お前は俺の“男妾”なんだろう? つまりは俺の伽も仕事のうちだよな?」


 いやいやいや! 駄目でしょう! なんで他国の王族、しかもルーベンス並みにめんどくさい美形に処女を捧げなきゃなんないのよ!


 あり得ない!


「ディオン! 今すぐ帰るわよ!」


「そう易々とハイそうですかと帰せると思うのか? お前は大切な捕虜だぞ?」


「連れて帰りたいのは山々なんですけどね、はっきりいって俺ひとりでならなんとか逃げられますけど、直ぐに迷子になるダーナ様をつれては無理です!」


「ほう? お前一人なら逃げられると?」


「ええ、出来ますよ。 かなり骨は折れますし、犠牲も出ますけどね」


 心底面倒くさそうに肩を竦めるディオンの姿に興が削がれたのか、アラン様は足を投げ出すようにして地面に腰をおろした。
 
「まぁ良い。 それで? 話は終わりか?」


「いいえ、別件ですね」


「別件?」


 ディオンの言葉にアラン様が静かに問いかける。


「えぇ、お互いに悪い話ではありませんよ」


 にやりと見た目にそぐわない笑みを浮かべたディオンは、怖かった。

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