『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

64『同盟の証に望む花嫁』ソレイユ視点

 王との謁見のために用意された部屋に入ると、出迎えてくれたのは銀糸のような髪に和やらかなラベンダー色の瞳をした青年だった。


 銀の髪はフレアルージュの王家に引き継がれた優勢遺伝。


 彼がローズウェル王国の学院から急遽の呼び戻された王子で間違いはないだろう。


 そしてリシャーナと俺を引き裂いた元凶とも言う。


「ようこそフレアルージュ王国へ、私はフレアルージュの第三王子でロキシアン・フレアルージュです。遠路我が国へお出でいただきありがとうございます」


 親善大使のルーベンス殿下にならい、彼の後ろから目の前のロキシアン王子に礼をとる。
 
「急な申し出にも関わらずお時間を頂きありがとうございます。 私はローズウェル王国の第三王子、ルーベンス・ローズウェルです。 我が国の国王陛下より親書をお預かりしております、フレアルージュ王国の国王陛下への謁見をお願い致したいのですが……」


 謁見をと先に伝えていたにも関わらず国王ではなく王子、しかも第三王子が出てくるならやはりマリアンヌ嬢の言っていたことは本当だったのだろう。


「申し訳ありません、今は戦時ゆえ陛下は政務を離れられません。 私が代理を勤めさせていただいております」


 にっこりと対応するロキシアン王子は自分の国が現在置かれている状況を他国に感じさせない完璧な笑顔だ。


 にこやかな対応をしつつ、相手の本音を探ろうとしているようだった。


 ローズウェル王国がゾライヤ帝国とフレアルージュ王国との戦乱に乗じてフレアルージュ王国へ攻めいることを懸念しているのだろう。


 それを表に出さない、これがローズウェル王国の次代の王ならば、確かにマリアンヌ嬢に男を見る眼があったのだろう。


 同じ第三王子の立場でも次期国王候補筆頭として、ぬくぬくとぬるま湯のような生活を受け入れてきたルーベンス殿下と、兄王子達の急死に突然国を背負う重責を負ったロキシアン王子ではやはり違う。




 覚悟を決めた男は嫌いじゃない、今は戦時一刻も早くリシャーナの元に帰るにはさっさと同盟なりなんなり結ぶに限る。


「そうか、それなら貴殿に願おう」


 ルーベンス殿下は真っ直ぐにロキシアン王子を見詰める。 


「駆け引きは外交の上等手段ですが、私はあまり得意ではありません。 なので単刀直入に言わせていただく。 俺はゾライヤ帝国から大切な者達を助けたい、協力してくれ!」
 
「大切な者……国、ローズウェル王国ではなく?」


 王族は国と国民を守る者、しかしルーベンス殿下は大切な者と言った。


「あぁ、俺には一国を背負えるほどの力はないよ。 俺は王子だ、王子はなんでも出来ると思ってた……でも違った。 俺一人では生きて行くことすら出来ないだろう、市井に下りる機会を得たことで自分の無力さを痛感したよ」
 
 産まれたときから当たり前に授けられた権力をただ我が儘の為に振り回していた王子は、リシャーナに振り回されて己の力が小さいかを知ることが出来たらしい。


「それでも、無力なら無力なりに大切な者を、同じ国に住む国民と言う大切な家族を守りたい」


 真摯な、けれどあまりにも馬鹿正直で政治駆け引きも何もない真っ直ぐすぎる願い。


 自分の思い通りにならなければ喚き周囲に当たり散らす彼は成長した……んだよな?


「だから貴方も大切な者を守るために協力してくれ!」


「……わかりました、ただしこちらからもお願いがあります。 全てが済んだら貴国から我が国へ同盟の証に花嫁を娶りたい」


 ルーベンス王子に対峙しながらロキシアン王子が同盟の証にと望む花嫁、それはひとりだけ。


「マリアンヌ・カルハレス準男爵令嬢をフレアルージュの王子妃として頂きたい」


 それはロキシアン王子にとっての弱点となる者の名前。


 それを明かすほどに、ロキシアン王子は目の前のルーベンス王子の馬鹿正直さにほだされたのだろうか?


「もともとそのつもりだよ、ついでに御子も付ける」


「御子……?まさか!?」


「あぁ、保護してあるよ。 書状にも書いてあるが今七、いやそろそろ八ヶ月になったかな、これは彼女からだ」


 ルーベンスが胸元から取り出した封書を手渡す。


 一体いつの間にこんなものをと思わないでもないが、ロキシアンは封書の裏書きを見るなり胸元で大切そうに握り締めた。


「ルーベンス殿下はこの度の戦、勝てると思いますか?」


「勝てるさ、きっとな」


 にこやかに手を取り合い固い握手を交わした二人に予め用意しておいた羊皮紙に署名を貰いお互いに一部ずつを保管するように取り交わす。


「無事に同盟は済みましたね? さぁ殿下! はやく王都へ帰りますよ!」


 やっとリシャーナの待つ王都へ帰れる。


「……ソレイユ殿、リシャーナ嬢が拐われたとドラクロアから連絡があった」


 グラスト閣下から告げられた凶報に、足元が崩れるような錯覚を覚える。


 幻聴にしても酷すぎる。 リシャーナがゆうかい、愉快? 誘拐 ……!?


「グラスト閣下……今なんと?」
  
 頼む、聞き間違えであってくれ!


「リシャーナ嬢が拐われた、今行方をおっているがまだ行方が知れない」


 ……ブツリと音をたてて大切ななにかが切れたような気がした。 

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