『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

63『誰のせいかな?』ソレイユ視点

 フレアルージュ王国の王都は戦時のためかピリピリとした緊張感が漂っていた。


 王都は山と山に挟まれた盆地にあり、ぐるりと王都を囲むように高い城壁で守られている。


 先触れの兵を出していたお陰か城門をあまり待たずに通り抜ける事が出来た。


 城下の比較的豪華な宿をとり、旅の汚れを落とす。


 面会の申し出は既に済んでいるため、こちらの都合に合わせて面会してくれると門番は伝えていたので、すぐにでも面会をと飛び出しかけた俺を第三王子が必死に止めた。


「ソレイユ殿! 今は夜分です! 相手にも迷惑をかけます! 明日先触れを出しましょう! 礼儀をかいてはリシャに怒られます!」


 冷静になれば第三王子の言う通りだ。


「わかっていますよ。 しかし貴方の口からそんな常識的な指摘を受けるとは、随分と周囲が見えるようになられましたね」


「あぁ、ドラクロアでリシャに鍛えられたからな……」


「リシャ? 殿下は我が妹を愛称で呼んでおられる……?」


「ん? あぁ、リシャも俺を呼び捨てるからな。 それに市井に紛れるのに、殿下や様付けで呼ぶものなどいないだろう」


 ほうほう、お互いに……ねぇ? 


「随分と仲良くおなりになったのですね、昔は初対面の相手を罵倒したり、自分の要望はすぐにかなう、叶わなければならない! と豪語したり、御自分に都合が悪くなれば他者に責任を擦り付けていたのに、随分と丸くなられた」


「お陰様で……その節は済まなかった」


 視線をさまよわせながらも、充分な角度で謝罪することを覚えたらしい。


 これを調教した妹の手腕に賞讃を贈るとともに、あれほどまでにリシャーナ不足による禁断症状の結果を考えれば、もっと成長して貰わないと割りに合わない。


「えぇ、今後に期待しておりますよ?殿下、私はリシャ程心優しく寛大ではありませんから……ねぇ?」


 ヒィッ! と恐れに竦み上がって居ますけど、この会談失敗したらどうなるか分かっているんでしょうか?


 ゾライヤ帝国に対抗するためにはローズウェル王国だけでは駄目だ。


 正直リシャーナだけを拐って逃げ出すことも可能だろうが、お人好しの妹は文句を言いつつも、大切な家族や友人に領民を、更にはついでだと言って国民全てを守るために奔走することだろう。


 なら俺は自分の今持てる力を全て出しきり、自分の事に無頓着で基本的に無防備な妹を守るだけだ。 


 翌日早朝から寝ていた第三王子を叩き起こして、鍛練と言う名前の八つ当たりで溜め込んだ鬱憤を晴らし、フレアルージュ王国の王城に居るだろう元凶を思い浮かべる。


 元はと言えば、今回の発端はフレアルージュ王国の第三王子が無責任にローズウェル王国でマリアンヌ嬢に手を出して放り出したのが原因だ。


 俺がリシャーナと一緒に居られる時間を奪った罪は重い……


「フフフッ、失敗は赦しませんよ? ルーベンス殿下、きちんと結果が残せないようなら……」


 城への道すがら、隣を歩く第三王子に釘を指すと、曲がっていた背筋を伸ばして進みだす。


 先程までの腑抜けた表情が抜け落ち覚悟を決めた男の顔を見せている。


 そんな二人の様子をフォルファーは苦笑しながら見つめ、グラスト閣下は順次届く書類をいつ不機嫌な目の前の青年に伝えるべきかと苦悩するのであった。


 
 

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