『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
59『ゾライヤ帝国軍』
明らかにローズウェル王国とは違う風の匂い。 ローズウェル王国が草原の穏やかなそよ風なら馬車の進む渓谷の風は冷たく厳しい。
馬車で運ばれている間にわかったことは、この男がティーダ君達貧民街の子供達を拉致し、ゾライヤ帝国へと売り払っていたと言う事だった。
ある時を境に一緒に活動していた仲間を殺害されたとかで、身動きが取れなくなり商品の拉致した子供達を失い潜伏していたらしい。
何度かトイレ休憩ともさもさ黒パンのみの食事をとりつつ、森を抜けて日も沈み始めた頃に峠を越えて連れてこられたのは黒い軍旗に黄金の獅子が刺繍された砦だった。
「ほらよ、さっさと降りろ!」
トイレ以外はずっと袋詰めされていたせいかよろけた私を男は無理矢理たたせた。
関所を抜けるときにだけ猿轡を嵌められていたが、従順に従ったおかげでずっと口は自由だった。
男はおだてると気分よく聞いてもいないのにペラペラと自慢げに話してくれた。
しかし私を拉致したのはこの男ではないようで、だだ荷物である私をある場所で待っている依頼人へ届けるだけの楽な仕事だと宣った。
男との話で依頼人が居るだろうここがゾライヤ帝国の前線基地であることも把握している。
本当なら今ごろはローズウェル王国の王都で自由を満喫していたはずなのに!
黒い鎧を身につけた兵士達の不躾な視線を一身に浴びながら、最後まで自分の名前を名乗らなかった男は、私を引き摺るようにして陣営の中腹にある一際大きな天幕へと連れてきた。
「指揮官殿にご依頼の者をお連れしたと伝えてくれ」
男の言葉を受けて黒い鎧の兵士さんがなかに入ると、暫くして中から体格の良い男性がせりだした腹部を揺らしながらやって来た。
「ご苦労、指揮官殿はお忙しくていらっしゃるのでな。 私が代わりに預かりましょう、代金はそちらに」
黒い鎧を身につけた兵士がパンパンに膨れた布の袋を持ってくると、私をここまで連れてきた男はひったくるように受けとり袋の口を縛っていた紐を緩めると中から出てきた金貨に噛みついた。
「ほう、偽物じゃなさそうですね、ではこれを私はこれで失礼しますよ」
あっさりと私を繋いだ縄を手渡すと男はあっさりとその場を辞した。
ホクホク顔で引き返していく男の背中を呆然と見送ると、拘束する縄を持った男が私を引くようにして天幕の中へと戻り始めた。
「始末しておけ」
「はっ!」
天幕の入り口にたっていた兵士に男が告げた言葉は冷たく鋭い。
「ちょっと!」
止めるまもなく走り出す兵士に制止の言葉は届かずに、背後から響いた断末魔に背筋が凍るようだった。
「なんで、なんで殺したの!」
前世よりもこの世界は死が身近にある。
悲しいことだが、私の転生した乙女の為のゲーム世界には終身刑なんてない。
重罪を犯せば犯罪奴隷になるか死刑が一般的なのだ。
そして疫病、飢饉、天災、水害が日々の生活に牙を剥く。
私が知らない所で沢山の人が亡くなっているのは知っている。
そう、知っているつもりだった。
キッ! っと睨み付けた男はそんな私を嘲笑う。
「煩わしい害虫を排除しただけだ」
「ふざけないで、何も殺す必要はなかったはずよ! 私をこんなところまで連れてこれる程の腕はあるのよ! また使えば良いじゃない!」
「くくくっ、面白い事を言う。 さすがは人たらしのダスティアといった所か。 あの程度の下民などゾライアにはゴロゴロいる、使い捨てにするくらいでちょうど良いのさ。 野に放せば金次第で情報を撒き散らす虫は早々に潰すに限るのでね」
くくくっ、と可笑しそうに笑う男が気持ち悪い。この男は私を連れてきた男を下民と呼んだ。
きっと貴族階級以外の人を人とも思っていないだろう。
「私をどうするつもり? 平民を基地に連れてくるなんて、娼婦になんてならないわよ」
「そうだなぁ、お前は陛下への貢物だよ。 陛下もこんなデブのどこが良いのか、本当に悪食でいらっしゃる。 もしくは最前線に貼り付けて盾にするのも良いかも知れないな。 良い案だろリシャーナ・ダスティア嬢?」
クスクスと笑う男に憤怒が湧く。 あんたにはデブなんて言われたくないわ!どう見ても私より太いじゃない!
「誰のことよ。 私は平民の……クリスティーナよ!」
クリスティーナ様ご免なさい! 名前を御借りします。
どう考えても今私がダスティア公爵令嬢だとばれるのは不味いんです!
「ほう、ならば兵に下げ渡せば良いだけだ。 なに、ここは戦場、デブだろうが女は女だ。 そんな体でも戦場で滾った兵達の憂さ晴らし程度にはなるだろう。 何、廻されて壊れたらその首をローズウェルに放り込めばお前の正体も知れるだろう」
ゾワリと背中をかけ上がる悪寒にありありと男が本当に実行に移すだろう事が解る。
「そうよ、リシャーナ・ダスティアよ! 悪い!?」
自棄になりながら睨み付けると男はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
絶対この男後で後悔させてやる見てろよ!
ギリッと奥歯が鳴る程に噛み締めると男は礼をして見せた。
「歓迎致しますよ。 ようこそゾライヤ帝国へ、豚姫殿?」
豚姫!? 蛙で珍獣で猛獣の次に豚姫ですか!? ふざけんな。
なんか日に日に口が悪くなってる気がするわ。
「そうですか、では誉れ高いゾライヤ帝国の歓待が隣国の高位貴族に相応しいものか拝見させていただきますわ。 では縄を解いていただけますかしら? それともこれがゾライヤ帝国の歓待なの?」
我ながら火の付いた闘争心を漲らせてにっこりと微笑めば、目の前の狸親父がニヤリと笑った。
「お解きしろ、それから姫にはこれから身形を整えて第二、第三王子殿下に謁見していただく。 風呂にお連れしろ!」
狸親父の号令でここ数日まともに風呂に入っていなかった事を思い出した。
解かれた縄で傷付いた手首を摩る。
「ありがたく頂きますわ、どちらですの?」
「こっ、こちらです……」
高慢に振る舞えば、私の態度にたじろいだ兵士がおずおずと案内し始めた。
「精々逃げようなどと考えませぬよう。ここはゾライヤ帝国の軍のど真ん中ですからな」
「御忠告感謝致しますわ、失礼」
背筋を伸ばして幼い頃から仕込まれた御貴族様モードで進めば通路にいた兵士が一斉に道を開ける。
モーゼの十戒ですか?
「こちらです」
案内された天幕に次々と湯が運び込まれ、大きめの金盥に張られた湯へと浸かる。
世話役らしい全身を黒い布で被い目元だけを出した女性の介助で長い髪を洗って貰いながら、汚れが落ちていく感覚に自然と笑みが浮かぶ。
長い髪は女性のステータスになっているこの世界で、女性が髪を切るのは神の花嫁として神殿に入る修道女になるものだけだ。
全身を清めた私にその女性は極端に布地の少ない衣装を出してきた。
胸元を隠す布と踝まである長い腰布は紗々が幾重にも重ねられている。
腹部は露出することが前提らしいこの服を私に着ろと?
ぽっちゃりお腹が腰布に乗るじゃないの。
「ローズウェルのドレスを用意してくださいな。 私はローズウェルのドレスしか着ません!」
私の我が儘におろおろとした女性は、きっと狸親父に私の願いをなるべく叶えるように言い含められていたのだろう。
助っ人に来た女性が次々と浴室に出入りし始めた。
なんとか探しだして持ってこられたドレスに小さい、ダサい、色が気に食わない、ありとあらゆる難癖をつけて叩き出すを繰り返すと、浴室内から女性が居なくなった。
外には見張りの兵士がいるのみ。
そそくさと置きっぱなしになっていた衣類から始めに世話役が持ってきた服を見に身につけ、真っ黒い大きな布を見よう見まねで被り身体に巻き付けた。
残っていた衣服を手に持つと今まで世話役に言っていた台詞を口にする。
「嫌よ! はやくまともなドレスを持ってきなさい!」
「はっ、はいー!」
鼻を摘まんで声色を変えて自分で返事をして天幕から飛び出すと、案の定兵士は気が付く事なく送り出してくれた。
十分に距離を置いてから物陰に隠れて、陣営の端にある人気のない大きな天幕に忍び込んだ。
馬車で運ばれている間にわかったことは、この男がティーダ君達貧民街の子供達を拉致し、ゾライヤ帝国へと売り払っていたと言う事だった。
ある時を境に一緒に活動していた仲間を殺害されたとかで、身動きが取れなくなり商品の拉致した子供達を失い潜伏していたらしい。
何度かトイレ休憩ともさもさ黒パンのみの食事をとりつつ、森を抜けて日も沈み始めた頃に峠を越えて連れてこられたのは黒い軍旗に黄金の獅子が刺繍された砦だった。
「ほらよ、さっさと降りろ!」
トイレ以外はずっと袋詰めされていたせいかよろけた私を男は無理矢理たたせた。
関所を抜けるときにだけ猿轡を嵌められていたが、従順に従ったおかげでずっと口は自由だった。
男はおだてると気分よく聞いてもいないのにペラペラと自慢げに話してくれた。
しかし私を拉致したのはこの男ではないようで、だだ荷物である私をある場所で待っている依頼人へ届けるだけの楽な仕事だと宣った。
男との話で依頼人が居るだろうここがゾライヤ帝国の前線基地であることも把握している。
本当なら今ごろはローズウェル王国の王都で自由を満喫していたはずなのに!
黒い鎧を身につけた兵士達の不躾な視線を一身に浴びながら、最後まで自分の名前を名乗らなかった男は、私を引き摺るようにして陣営の中腹にある一際大きな天幕へと連れてきた。
「指揮官殿にご依頼の者をお連れしたと伝えてくれ」
男の言葉を受けて黒い鎧の兵士さんがなかに入ると、暫くして中から体格の良い男性がせりだした腹部を揺らしながらやって来た。
「ご苦労、指揮官殿はお忙しくていらっしゃるのでな。 私が代わりに預かりましょう、代金はそちらに」
黒い鎧を身につけた兵士がパンパンに膨れた布の袋を持ってくると、私をここまで連れてきた男はひったくるように受けとり袋の口を縛っていた紐を緩めると中から出てきた金貨に噛みついた。
「ほう、偽物じゃなさそうですね、ではこれを私はこれで失礼しますよ」
あっさりと私を繋いだ縄を手渡すと男はあっさりとその場を辞した。
ホクホク顔で引き返していく男の背中を呆然と見送ると、拘束する縄を持った男が私を引くようにして天幕の中へと戻り始めた。
「始末しておけ」
「はっ!」
天幕の入り口にたっていた兵士に男が告げた言葉は冷たく鋭い。
「ちょっと!」
止めるまもなく走り出す兵士に制止の言葉は届かずに、背後から響いた断末魔に背筋が凍るようだった。
「なんで、なんで殺したの!」
前世よりもこの世界は死が身近にある。
悲しいことだが、私の転生した乙女の為のゲーム世界には終身刑なんてない。
重罪を犯せば犯罪奴隷になるか死刑が一般的なのだ。
そして疫病、飢饉、天災、水害が日々の生活に牙を剥く。
私が知らない所で沢山の人が亡くなっているのは知っている。
そう、知っているつもりだった。
キッ! っと睨み付けた男はそんな私を嘲笑う。
「煩わしい害虫を排除しただけだ」
「ふざけないで、何も殺す必要はなかったはずよ! 私をこんなところまで連れてこれる程の腕はあるのよ! また使えば良いじゃない!」
「くくくっ、面白い事を言う。 さすがは人たらしのダスティアといった所か。 あの程度の下民などゾライアにはゴロゴロいる、使い捨てにするくらいでちょうど良いのさ。 野に放せば金次第で情報を撒き散らす虫は早々に潰すに限るのでね」
くくくっ、と可笑しそうに笑う男が気持ち悪い。この男は私を連れてきた男を下民と呼んだ。
きっと貴族階級以外の人を人とも思っていないだろう。
「私をどうするつもり? 平民を基地に連れてくるなんて、娼婦になんてならないわよ」
「そうだなぁ、お前は陛下への貢物だよ。 陛下もこんなデブのどこが良いのか、本当に悪食でいらっしゃる。 もしくは最前線に貼り付けて盾にするのも良いかも知れないな。 良い案だろリシャーナ・ダスティア嬢?」
クスクスと笑う男に憤怒が湧く。 あんたにはデブなんて言われたくないわ!どう見ても私より太いじゃない!
「誰のことよ。 私は平民の……クリスティーナよ!」
クリスティーナ様ご免なさい! 名前を御借りします。
どう考えても今私がダスティア公爵令嬢だとばれるのは不味いんです!
「ほう、ならば兵に下げ渡せば良いだけだ。 なに、ここは戦場、デブだろうが女は女だ。 そんな体でも戦場で滾った兵達の憂さ晴らし程度にはなるだろう。 何、廻されて壊れたらその首をローズウェルに放り込めばお前の正体も知れるだろう」
ゾワリと背中をかけ上がる悪寒にありありと男が本当に実行に移すだろう事が解る。
「そうよ、リシャーナ・ダスティアよ! 悪い!?」
自棄になりながら睨み付けると男はニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
絶対この男後で後悔させてやる見てろよ!
ギリッと奥歯が鳴る程に噛み締めると男は礼をして見せた。
「歓迎致しますよ。 ようこそゾライヤ帝国へ、豚姫殿?」
豚姫!? 蛙で珍獣で猛獣の次に豚姫ですか!? ふざけんな。
なんか日に日に口が悪くなってる気がするわ。
「そうですか、では誉れ高いゾライヤ帝国の歓待が隣国の高位貴族に相応しいものか拝見させていただきますわ。 では縄を解いていただけますかしら? それともこれがゾライヤ帝国の歓待なの?」
我ながら火の付いた闘争心を漲らせてにっこりと微笑めば、目の前の狸親父がニヤリと笑った。
「お解きしろ、それから姫にはこれから身形を整えて第二、第三王子殿下に謁見していただく。 風呂にお連れしろ!」
狸親父の号令でここ数日まともに風呂に入っていなかった事を思い出した。
解かれた縄で傷付いた手首を摩る。
「ありがたく頂きますわ、どちらですの?」
「こっ、こちらです……」
高慢に振る舞えば、私の態度にたじろいだ兵士がおずおずと案内し始めた。
「精々逃げようなどと考えませぬよう。ここはゾライヤ帝国の軍のど真ん中ですからな」
「御忠告感謝致しますわ、失礼」
背筋を伸ばして幼い頃から仕込まれた御貴族様モードで進めば通路にいた兵士が一斉に道を開ける。
モーゼの十戒ですか?
「こちらです」
案内された天幕に次々と湯が運び込まれ、大きめの金盥に張られた湯へと浸かる。
世話役らしい全身を黒い布で被い目元だけを出した女性の介助で長い髪を洗って貰いながら、汚れが落ちていく感覚に自然と笑みが浮かぶ。
長い髪は女性のステータスになっているこの世界で、女性が髪を切るのは神の花嫁として神殿に入る修道女になるものだけだ。
全身を清めた私にその女性は極端に布地の少ない衣装を出してきた。
胸元を隠す布と踝まである長い腰布は紗々が幾重にも重ねられている。
腹部は露出することが前提らしいこの服を私に着ろと?
ぽっちゃりお腹が腰布に乗るじゃないの。
「ローズウェルのドレスを用意してくださいな。 私はローズウェルのドレスしか着ません!」
私の我が儘におろおろとした女性は、きっと狸親父に私の願いをなるべく叶えるように言い含められていたのだろう。
助っ人に来た女性が次々と浴室に出入りし始めた。
なんとか探しだして持ってこられたドレスに小さい、ダサい、色が気に食わない、ありとあらゆる難癖をつけて叩き出すを繰り返すと、浴室内から女性が居なくなった。
外には見張りの兵士がいるのみ。
そそくさと置きっぱなしになっていた衣類から始めに世話役が持ってきた服を見に身につけ、真っ黒い大きな布を見よう見まねで被り身体に巻き付けた。
残っていた衣服を手に持つと今まで世話役に言っていた台詞を口にする。
「嫌よ! はやくまともなドレスを持ってきなさい!」
「はっ、はいー!」
鼻を摘まんで声色を変えて自分で返事をして天幕から飛び出すと、案の定兵士は気が付く事なく送り出してくれた。
十分に距離を置いてから物陰に隠れて、陣営の端にある人気のない大きな天幕に忍び込んだ。
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