『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

57『ドナドナ~リシャーナ』

 ガダンゴトンと揺れる感覚に意識が浮上する。


 ぼんやりと眼を開けると、目の前には一面ボサボサとした質の悪い麻布が広がっている、しかも臭い。


 両手足を縛られているらしく擦れた縄が皮膚を傷付けているのかヒリヒリとして痛い。


 口にも声を封じるためか布が咬まされているようだった。


 首の後ろは鈍い痛みを訴えており、頭がズキズキと痛む。


 ナゼ私はこんなところに居るんでしょうか? 此処はどこぉ~!


******


 まずさきにドラクロアから出立していったのはフレアルージュ王国行きの御一行だった。


 いっこうに離れようとしないソレイユ兄様を宥め好かして持ち上げて、ついでにおだてることでなんとか無事に出発していった。


 その後マリアンヌ様と護衛のカイザール様、クリスティーナ様が王都へ向けて出立して行ったのを見送った。


 本当は一緒に行くことも考えたのだけれど、何ヵ所か寄りたいところがあったので先行して出発して貰ったのだ。


 カイザール様がなぜか渋っていたけれど、王都へ戻る前にお世話になった教会には顔を出しておきたかったし、しかたないよね。


 幸い護衛には騎士様が五名ほど付いたので途中で子供達にお土産として古着屋で服を買い込んだり、干した果実や傷みにくい野菜や穀物、干し肉なんかを買い占めて四輪式の荷車で騎士様が三名で運んでいる。


「リシャちゃん、今日はまた随分と逞しい男の道連れがいるねぇ」


「お姉さん、おはようございます! 彼等は荷物もちです。 今日も美味しそうな野菜が沢山ですね、実は実家に帰るのでご挨拶できて良かったです」


 声をかけてきた恰幅の良いおばちゃんににっこりと返事をした。


 そう、おばちゃんはお姉さんと呼ばれると機嫌良くおまけしてくれるのだ。


 色々な店を回ってお世話になった人達へ挨拶をしていくと太陽がすっかり傾いてしまっていた。


 いつの間にか遅くなってしまっていたらしい。


 教会にたどり着いた頃には、五名の騎士様達が皆疲れはてていた。


 ちょっと軟弱過ぎませんか? この位の荷物を乗せた荷車市場のおばちゃん達普通に引いてますけど?


 道中得た物資をシスター・ミーアに引き渡すと、騎士様が次々と教会に運びいれていく。


「リシャ姉、あの女の人どうなったの!? しかも帰るって、本当に行っちまうのか?」


 ワンピースの袖を引かれて視線をおろせば、アロが不満げに見上げていた。


「あの女の人は大丈夫だよ。 ただ家族の所へ行く途中だったみたいだから家まで送っていくことになったの、今まで短い間だったけどありがとうね」


 くしゃくしゃと少し堅いアロの髪をかき混ぜてやる。


 少しだけ嫌そうな顔をして頭を撫でる私の手から逃げた。


「子供扱いすんなって! リシャ姉もすぐに行くのかよ」


「んー、そうなるかな?」


「ルーベンス兄とカイ兄とクリス姉も?」


「えぇ、ごめんね。 立て込んでて来れなかったのよ、落ち着いたらまた皆で顔を出すわ」


「ちょっとだけ待ってくれよ。 すぐに戻るから!」


 そう告げるとアロは教会のなかに走っていってしまった。


 すぐに戻ってきたかと思えば細い腕にはムクの実が多量に入った中くらいの瓶を四本抱えてくる。


「この前ドラクロア城から眼鏡をかけた男の人がみんな石鹸買い占めて行ったんだ」


 眼鏡をかけた男の人とは十中八九スロウ様でしょう。


「そっかぁ、これからはその眼鏡をかけた男の人が買い取りに来てくれるから沢山作って皆で仲良く美味しいもの食べるんだよ? 本当は貧民街の子達も挨拶したかったんだけど……」


「うん、伝えておくよ。 教会のみんなや貧民街のやつらは俺とティーダで守るから大丈夫だ! それに教会の手伝いに爺ちゃんも来てくれるしな」


「ん、爺ちゃんって?」


 教会にはシスター・ミーアのほかに大人はあまり出入りしていなかったはずなのに。


「ふぉっふぉっ。 儂が爺ちゃんですよ、お久し振りですな」


 両手を子供と繋いで教会の奥から出てきた御老体に絶句した。


「ブロキンス様!?」


 なぜに裏社会の重鎮が子守してるのよ!?


「クアロじゃ、クアロ爺で子供らに呼ばれとる。 リシャーナ嬢もそう呼んどくれ。 此処はいいのぅ、どんな花が咲くか分からない逸材が居って育てがいがあるわい。 余生の楽しみじゃな」


 ニコニコと子供達に連れられて戻っていく重鎮様を見送り隣にいるアロに視線を向ける。


「クアロ爺ちゃんすっかりちびども手懐けちゃってさ、俺もクリス姉が拐われた時に会ってなきゃとっても闇の重鎮だって信じらんないくらい面倒見が良いんだよね」


「うん、一瞬他人かと思った。 一体いつからいらしてるの?」


「リシャ姉達が城へ行った日の夕刻かな、それからずっと居るよ」


 どうやら本当に子供達とのふれあいを楽しんでいるのかもしれない。


「そっかぁ。 あの方が一緒ならきっと大丈夫だね。 アロ、これありがとうね、ちゃんと渡すから」


 瓶をポケットに入れると、少し不格好にワンピースが膨らんでしまうけど、大切な預かりものはきっちりとなくさないように身体に近いところへ入れておくに限る。


「リシャーナ様! すいません、急ぎ確認して頂きたいものがありまして」


「あっ、はーい! アロ、ちょっとごめんね」


 暗がりから呼ばれてアロに断りを入れ、声がした方へ走って……


 首の後ろに走った衝撃に意識を手放した。

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