『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

44『初!露天商』

 噴水が上げる水しぶきと地熱から朝靄が立ち込める街の中を、寝ぼけ眼のルーベンス殿下の曳く荷車ががらがらと音を立てて進んでいく。


 荷車には子供達が頑張って作り続けたムクの実の石鹸が積み込まれ、がちゃがちゃと瓶が擦れる音がする。


「あぁふぁ。 起こすの早すぎだろう」


 欠伸を噛み殺しながらも、ルーベンス殿下は足を止めることなく広場へと向かって素直に歩いていた。


 朝早く日の出と共に目が覚めて、まだ寝ていたルーベンス殿下を起こすためにベッドを襲撃した。


 部屋の外から起こしたものの返事がなく、扉を開けて覗いてみれば布団を頭から被って起きる気配が無かったので、はしたないかも知れませんが扉は全開にして直接毛布の上から体を揺すった。


「おはようございまーす! お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す! 何時まで寝てるんですか! 早く起きてっいや!」
 
 揺すってもかたくなに毛布にしがみつくので、毛布を両手で掴み一気に引き剥がした。


「寒っ、リシャ、毛布を返せ!」


「二度寝は駄目です! 今日は露店商が広場に並ぶんですから! 早く着替えてっ、開店準備もしなければならないんですから。あと顔を洗ったらこれに着替えてください!」


 モソモソとベッドに戻ろうとしたルーベンス殿下に服を押し付けた。


 売り子様に用意した服は黒い長袖の上下にクリスティーナ様やシスター・ミーアが、刺繍を施した自信作だ。


 ルーベンス殿下の私服は一目で貴族だとわかるほど素晴らしい出来なので使えない。


 どの服を着ても似合うんだから腹立たしい。


 貴族に見えず見映えのする衣服を着てもらい、二人で広場へとやって来たのだ。


 王子としていつも華美な服ばかり着ていたおかげで、ハデな刺繍の服も拒否することなく見事に着こなしている。


 ふふふっ、これならマダムが沢山釣れそうだ。


 広場では既に多くの露店商が開店準備に活気づいていた。


 噴水の回りには商業ギルドで聞いた通り大きな商隊が軒を連ね、商隊によっては地続きで三軒分の場所を確保していた。


 店先に並べられた色とりどりの珍しい品を眺めながら割り当てられている場所に向かうと予定地の前で商業ギルドの受付嬢ジルコニアさんが隣に店を構えた恰幅の良い商人となにやら睨み合っていた。


「その場所は前二日も来なかったんだ! 勿体無いから俺が使ってやろうと言っているじゃないか」


「いいえ、この場所は既に他のお客様がご予約されています。 来るか来ないかなんて関係無いんですよ! とにかく、割り当てられた空間からはみ出している物は全て撤収してください!」


「生意気な!」


 いがみ合う二人の争点はどうやら私達が借りていた空間が原因らしい。


 それぞれの空間は地面にひかれた白い粉で分けられているようでお隣さんが若干はみ出しているようだった。


「おはようございます。 ジルコニアさん。 お約束してありました残りの大銅貨ですわ」


「あっ、おはようございます! もういらっしゃらないのかと心配しておりました。 大銅貨確かにいただきました。 先日お渡しした札を店の見えるところに出して下さいね」


 ルーベンス殿下の寝坊が原因で出遅れたぶんを取り戻すべくジルコニアさんに声をかけると私達に対応をしたあと隣の商人を睨み付けた。


「正規の契約者様がいらっしゃいましたので速やかに撤収してください」


 にっこり笑顔のジルコニアさんと苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨む商人さん。


 頼むから巻き込むのやめてくれ?


 荷車から商品を詰め込んだ木箱をおろし、即席で作っていたショーケースを次々と並べていく。


 教会で使い古した丸テーブルをショーケースとショーケースの間に設置してテーブルの背後に水瓶を二つ用意した。 丸テーブルには鮮やかな赤い布を掛けた為水瓶は見えないだろう。


 二人で噴水から水を汲み上げて桶に入れ、せっせと水瓶の一つを満たしておく。


 次々とショーケースへリボンの付いた瓶を並べていると、次第にお客さんと思われる人で賑わい始めた。 次々と人が通り過ぎていくなか、基本的にうちの店は素通りされてしまっている。


 使い方も分からない瓶が並んでいる店など、何を売っているかわからないよねぇ。


 しかし、数人のご令嬢やご婦人がこちらをチラチラと見ているようだった。


 顔を赤くしてキャイキャイ騒いでいる視線の先にはしっかりうちの売り子さんがいる。


 やばい、にやにやが止まらない。


「ルーベンス、これから言うことを実践してね」


「今度は一体何をさせるつもりだよ」


「簡単よ、今からお客さんにムクの実石鹸の使い方を実演してもらうだけだから。 せっかくだし実際に使ってもらって効果を見てもらいましょう? アロやティーダ達が作ったこれが売れれば、みんなにお菓子を買えるし。 硬貨も渡せるわよ?」


 直ぐには無理だが、石鹸の製造を子供達が生きやすい生活基盤に持っていきたいのだ。


「解った、それで?」


「クアロ様からいただいた桶に水を張ってムクの実石鹸でお客様の片手を洗って水気を拭き取り、洗い終った手を笑顔で誉めるだけよ。 簡単でしょ?」


 わたしがやっても良いけれど、ルーベンス殿下の美形を利用しないと言う選択肢はない!


「……わかった。 始めてくれ」


「よっしゃっ、取り合えずあそこの噴水の近くにいるご令嬢ふたりと後ろのご婦人、あそこの女の子にたちに笑顔で笑ってみて」


 私の指示通り視線を走らせると学院でも見たことがある笑顔の仮面をはりつけだした。



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