『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

36『商業ギルド』

 ギルド会館の二階は人で溢れていた一階とは異なり、落ち着いた雰囲気の漂う空間です。


 階段を登って直ぐに小さな部屋があり、受付と思われるテーブルの後ろには豪華な装飾が施された扉が鎮座しています。


 王宮にも匹敵しようかと言わんばかりの扉から細身のこれまた美女が現れました。


 長い黒髪を結い上げて気だるげに出てきた女性はゆっくりと私を認識するなり微笑んだ。


 流された視線は同姓から見ても情事を思い起こさせる程の艶を含み左目の下の泣き黒子が色っぽすぎです。


 程よく露出した服は、下品にはならず絶妙なバランスの上に成り立っていて大変お美しい。
 
「ようこそ商業ギルドへ、ご用件を御伺いいたします」


「はい、本日初めてギルドカードの登録に参りました。 今後商売 をさせていただこうと思っておりますので色々とお話を伺いたいのですけれど……」


 教会に身を寄せると決めた日から、時間が許す限り子供たちと共に教会の裏に落ちているムクの実を集めているし、これ迄集めていたらしい、種を抜いて廃棄してあった果皮も可能な限り拾い集めた。


 廃棄された果皮は水分が抜けて茶色く変色していた。


 クリスティーナ様が種子の加工や果皮の乾燥を子ども達と引き受けてくれている。


「それではご説明をさせていただきますのでそちらのテーブルへお座りください」


 指示された品の良い丸テーブルに備え付けられた椅子に腰を掛けると、美女は此方に見えやすい様に文字を此方に向けてテーブルに大判の羊皮紙を広げた。


「改めまして私はこの商業ギルドドラクロア支部の室長を勤めさせて頂いております。テレーズと申します、お名前を御伺いしても宜しいでしょうか?」


 テレーズさんは艶然とこちらの名前を聞いてきた。


「室長でいらっしゃるのですか、始めまして、リシャです。実は近々商売を始める予定で、店を開くにも場所や許可が必要だとお聞きしたのですが」


 まさかの室長登場に、驚いてしまった。 まだまだこの世界は男尊女卑の風潮が強いにも関わらず室長の役職に就いていると言う事はそれだけ優秀な方なのだろう。


 家を継ぐのも男性が主流で女性が上に立つことは極端に少ない。 


 テレーズがギルドの室長を任されていると言うことはそれだけ彼女の力量によるところが大きい。


「そうです、商業ギルドへの加入は御済みのようですから簡単な注意事項をご説明させていただきますわね」


「室長~! し・つ・ちょー! あー、いたぁ! 何やってるんですか! 早くいかないと商人会におくれますぅー!」


 姿勢を只して羊皮紙を覗きこんだ途端。 ガチャリと受付の後ろの扉から小柄な女性が姿を表した。


「あっ、お客様だったんですねぇ。室長ありがとうございまぁーす。 後は私が代わりますので早く行ってください」
 
 栗毛のふわふわした髪の少女は自分よりも頭二つ分大きなテレーズさんを引っ張って立たせるとグイグイと階段へとおくりだしてしまった。


「もう、ジルったらわかったわ、留守番御願いね? ではリシャさんまたね」


 ヒラヒラと手を振りながら階段を降りていくテレーズを見送るとジルと呼ばれた少女は私の前に腰を下ろした。


 頬から鼻にかけてそばかすが散った可愛いらしい少女だった。


「ごめんなさいねぇ。お客様お待たせしましたぁ。私はこの商業ギルドで受付をしてますジルコニアです。ジルと呼んでくださいね、えっとぉ何のお話でしたっけ?」


 なんだろう。 この間延びした感じ?


「テレーズさんから商業ギルドでの注意事項や商売の場所についての説明を受けるところでした」


「はぁーい。では面倒なのではじめから説明をさせていただきまぁす」
 
 商業ギルドでは、露店を開く場所や開く期間によって場所代を支払う事となっている。


 露店ではなく街に店舗を構える場合も同様で、不動産も商業ギルドが仕切っている。
 

 露店商は週に三日だけ噴水の広場を会場として開催される。
 
 場所代はメインとなる噴水の中心部と通りに面した人通りの激しい場所で三日で銀貨一枚。


 噴水から離れる程に値段が下がっていき。 一番端で銅貨三十枚だそうだ。


 ただやはり端は人通りも少なく商売の内容によっては赤字になりかねない。


 既に多くのメイン通りは名前が書き加えられていた。


 外側に向かえば空いている場所もあるようだけど、やはり実演販売をするなら人通りのある場所の方が効果的でしょう。


「う~ん、来週以降の場所の確保は可能ですか?」


「えぇ、可能ですぅ」


 そう言ってジルさんはいそいそと受付から丸められた羊皮紙を持ち出すとテーブルの上に広げた。


「こちらが来週以降の場所の予約ですねぇ。予約には前金として大銅貨をお預かりしてます。 実際にお店を出した際に残りの残額をお支払い頂きますぅ」


 やはりと言うか噴水をぐるりと取り囲む場所が人気のようです。


 準備にも時間が必要だし、再来週の予約で良いや。


「再来週の予約をお願いします」


「はいはぁーい。えっとぉ再来週だと……あった! これですねぇ、まだ予約入ってないので選び放題ですよ?」


 見れば綺麗に何も書かれていなかった。


「一番人気はどこになります?」


「んー、こことぉ、ここと、あとここかしらぁ」


 ジルさんが示した場所は全て噴水に面した一画で通路からも遠くなくある意味絶好の場所取りだった。


「それじゃここをお願いいたします」


 通路と通路の間にある区画を選んで指定して大銅貨を渡した。


「わっかりましたぁ。確かに大銅貨お預かりいたしまぁす、それではこちらの木札を店の前に掲げてくださいね? これが出店許可書になりますから」


 手渡されたのは木札を持って階段を下りると、ギルド会館の一階に青い顔をしたアロが飛び込んできた。


「ちょっとアロ! どうしたの?」


「ん? アロ?」


「どうしたんですか?」


「あっ、リシャ姉いた! ルーベンス兄! カイ兄! 大変なんだっ、クリス姉があいつらに連れてかれちまった!」








 

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