『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

31『代金はきちんと払いましょう』

 さぁ今日は素晴らしい曇天の中、無駄に美形な男二人と今日も癒し系なクリスティーナ様と共にドラクロア城下へやって参りました。


 ドラクロアは辺境とは言え、隣国のフレアルージュ王国との国境に面していますので大通りには沢山の店が建ち並び買い物客や商売人などの人々で賑わっております。


 流通の主要都市としての機能を果たしているため行商人やそれを護衛する人が多く、露店商が仕入れてきた異国の品をところ狭しと路肩にならべてます。


「おい、こんなに朝早く叩き起こして一体どうするつもりだ?」


 清々しい朝なのに不機嫌な声を出しているのは麗しい我が国の駄犬王子ルーベンス殿下であります。


 朝日を受けてキラキラと耀く長い金髪を今日は三つ編みではなく黒い麻紐で後ろに一括りに縛ってます。


「しかもこんなボロを着せやがって」


「なにもそちらでなくてももう一着ご用意させていただいた筈ですが?」


「誰が好き好んで女物の服なんて着るか!」


 え~、似合うと思うのに! ちなみに私とクリスティーナ様が着ているのはルーベンス殿下が拒否した簡素なワンピースです。


 クリスティーナ様はおろした髪を緩く巻いて肩口から胸元へ流している。


 ちなみに私は標準装備の三つ編みお下げよ。 髪の落ち着きがよく楽だしね。


 現在私達が袖を通しているのはグラスト閣下に頼んでおいた一般国民が着ている普段着です。


 ルーベンス殿下とカイザール様は生成りの木綿で出来た簡素なシャツに、紺色のスラックスにベストといった服です。


 装飾の一切ないこの服は目立たないようにグラスト閣下に用意していただいた品物なんですが、絹しか着たことがないであろうルーベンス殿下の抵抗が予想されたため、選択出来るように私達と同じ婦人物のワンピースをご用意したのですが、どうやらおきに召さなかったようです。


 少しはため息をつきながらも文句を言わずに渋々着ているカイザール様をみならってほしいものですわ。


「リシャーナ様、殿下の肩を持つ訳ではありませんが、いくらなんでも早すぎませんか?」


 どうやら朝に弱いのか、ぼおっとした様子で頭を押さえながら抗議するカイザール様を受け流してずいずいと早朝の喧騒へと進んで行くと、地場産の鮮度の良い野菜や果実が店先に積み上げられていました。 


 とりあえず、一番近くに店を構えた露店商の前に積んである南瓜を一つ購入することにした。


 片手の手のひらに収まる大きさの南瓜の値段を訊ねると一つ銅貨二枚程だった。


 うむ安い。店主のおばちゃんに銅貨二枚を手渡して購入した南瓜を三人の前に差し出した。


「さてさて、皆さんに問題です。ここにあるこの南瓜は王都で買ったらいくらでしょうか?」


ちなみに日本円と比べると、
鉄貨(十円)が十枚で銅貨(百円)。
銅貨が五十枚で大銅貨(五千円)。
銅貨が百枚で銀貨(一万円)。
銀貨が五十枚で大銀貨(五十万円)。
銀貨百枚で金貨(百万円)。
金貨が十枚で大金貨(千万円)。


 白金貨や黒金貨なんてのもあるらしいが、ほとんど使い道もなければ両替も儘ならないため市井までは基本的に出回らない。


 日本円感覚でこの朝市での南瓜の価格は二百円位だ。


「う~ん、わかりませんわ。 南瓜ってこんなお野菜だったんですね。初めて料理前のお野菜を拝見致しましたわ! なんか可愛らしいお野菜ですね! リシャーナ様!」


 えっ、そこからですか!? 華奢な白い手に小ぶりな南瓜を乗せながらニコニコと楽しげに南瓜をつつく姿に、もしやと思い後ろ二人を見ると、ルーベンス殿下も興味深げに並んだ野菜を手にとっている。


「店主よ、この果実は木に実るのか?」


 手に持っているイチゴは木には実りませんよ、種類によっては木になる物もありますけど、殿下のお手にある種類のものは実りません。


「カイザール様?」


 もしやあなたまで南瓜の原型を知らなかったとか言いませんよね? と無言で圧力をかけると視線を合わせようとはせずに不自然に大通りへと視線を向けている。


「カイザール様?」


 再度名前をお呼びすると、懸命に平静を装っているのだろうが、とうとう私の視線に耐えきれなくなったのか「すいません」と気まずげに宣った。


「生産から消費までの一連の流れや、それに伴う経済効果は理解していますが、お恥ずかしながら野菜を並べられてもどれがどんな野菜なのか答える自信がありません」


 ボソボソと答えるカイザール様に頭痛がしてきたような気がするのは気のせいでしょうか。


「はぁ、わかりました。 ルーベンス殿下、クリスティーナ様次に行き……居ない!?」


 宛にならないカイザール様から改めて南瓜を見ていたはずの二人に声をかけると二人は居らず、二人で違う店を覗き込んでいる。


「あっ! ちょっと、二人とも勝手に進まないでください!」


「あんた! ちゃんとお代を払っておくれ!」


 追いかけようとした途端、南瓜を売っていた店主のおばちゃんにガッシリと腕を掴まれた。


「えっ! パプキンはお代を払いましたよ?」


「さっきの二人組はあんたの連れだろう?イチゴやらキャベツやらコーンやら色々買っていったからね」


「すいません今お支払いします。 あーもう、カイザール様! あの二人を止めてください!」


「はい!」


「あとこれを!」


 懐に入っていた銭袋をカイザール様に投げ渡す。 袋はガシャリと金属音を響かせてカイザール様の手に収まった。


 とりあえず銀貨五十枚は入っているはずなので余程でなければなんとかなるはずなのだ。


「直ぐに追い付きますから! この先にあるはずの噴水の所で落ち合いましょう」


「ほら、大銅貨一枚と銅貨二枚だよ」


 大銅貨って一体どんだけ買ったんだあの二人、急かしてくるおばちゃんに大銅貨と銅貨二枚を手渡すと先行した三人を追いかけるべく走り出した。

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