『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

27『スッゴいド派手なピンクの軍用車両』

 スッゴいド派手なピンクの軍用車両が、朝焼けの中まだ少ない早起きの人達の視線を集めていた。


 馬車から降りて四人で挨拶に向かうと、護衛らしい騎士に導かれてピンク車両へと案内される。


 ダスティア公爵家の自慢の軍馬とは明らかに体格が違う巨馬がこの重く、視界に突き刺さる軍事用馬車を二頭で引いているようだ。


 騎馬に使う馬の三倍はありそうな太い足は力強く地面を踏み鳴らしている。


 こんな馬がいるんだねぇ、父様に頼んだら買ってくれるかしら。


 パパァ、この立派なお馬さんが欲しいの! 二頭買ってぇん! ってダメだわ……私のキャラじゃない、甘えた口調でおねだりする自分を想像したら全身にみっしり鳥肌がたった。


「おっ、おはようございます。 ドラクロア夫人、ドラクロアへの道中にご一緒させて頂きありがとうございます。 また、滞在中なにかとご迷惑をお掛け致します」


 ピンク色の馬車から降りてきた貴婦人に頭を下げる。


 本来ならば一番身分の高いルーベンス殿下が挨拶をするところだけど、不機嫌な坊っちゃんは役にたたないので余計な事をしないようにカイザール様が現在拘束中です。


 よくやった!


「おはよう、リシャーナ様ですわね。 うふふっ、若い頃のアリーサにやっぱり似てるわねぇ。 直ぐにわかったわ。 ドラクロア夫人じゃなくてセイラって呼んでちょうだいね。 よく眠れたかしらぁ、御免なさいねぇ本当はもっとゆっくり王都に留まる予定だったんだけど、ダーリンが寂しくなっちゃったみたいでぇ。 お迎えがきちゃったのん」


 ふわふわとした茶色い髪を編み込み深い水底を彷彿させる青い瞳のご夫人はとても柔らかな口調で話ながら小首をかしげた。


 ピンクの背景の前に美少女が、これで陛下のお姉様とかもはや美魔女レベルじゃないわい!


 とても成人した息子がいるようには見えないし、華奢と言うよりも私よりも幼く見える体躯で本当に子供を産めたのかと女体の不思議を再確認出来るような人です。


 ドラクロアの領主様はロリコンなんですね。 先日追いかけ回された息子殿とならんでも兄妹、しかも妹にしか見えないよ。


「いえ、こちらこそご一緒させていただければ無駄な経費が浮きますから助かります」


 陛下のお財布から旅費が出ているとはいえ、無駄な出費はそのまま民に転化されてしまうんですもの!


 ある程度の出費は経済を回す為に市井に落とすことは必要だけど、それと無駄遣いは話が違う。


 どうせ行き先は同じなら一緒に行けば護衛は少なくて済むしね。


 ちなみに護衛の任務を公金で旅行だと宣っていた馬鹿はきちんと直前でメンバーから外しました。 ちゃんと仕事せいや!


「うふふっ、しっかりしてらっしゃいますのね。 うちの息子のお嫁さんにくる気は無いかしら」


 えー、息子ってあれでしょう? 初対面となった時から地下牢でのフォルファー・ドラクロアの様子を思い出す。 うん、冗談じゃない。


「申し訳ありません、私には過ぎたお話ですわ。 それに陛下の勅命もありますのでお断りさせていただきます」


 押し売りと訪問販売はキチンと断らないとダメですよね!


「あらー、残念でしたわね。 振られてしまいましたわよフォルファー?」


「勝手に私の婚約を決めないでくださいよ、この世には美しい華が多くて決められません。 それに私が身を固めてしまうなど、世の姫君達の損失ですよ」


 一体何時の間にやって来たのか背後から近付いてきたフォルファー様がこちらにやって来るなり私とクリスティーナ様の手を自然に捕ると紳士に見える礼をして見せた。


「これはお美しいリシャーナ様、またお逢い出来ましたね。 これは運命、神々のお導きでしょうか」


 フォルファー様の美しい発言に駄犬王子がカイザール様に口を拘束されてフガフガ言っているが無視無視。


「うふふ、フォルファー様の言う神々がどこの馬の骨かは知りませんが残念ながら私、自分の運命を神に委ねたりしませんの」


 にっこり笑いながら今にも口づけされそうになった右手を回収する。


「あぁ、これは手厳しい、ところでリシャーナ様こちらの可憐な美姫は?」


 少しだけ肩をすくめて見せると標的をクリスティーナ様に変えたらしい。 優雅な仕草で手際よく白魚のように美しい手の甲へと軽い口付けを落とす。


「お初にお目にかかります。 私はフォルファー・ドラクロア。 私に貴女の名前を知る権利をいただけませんでしょうか姫」


「始めましてフォルファー様、私はクリスティーナ・スラープと申します」


「もう、この子ったら、女性を見るとすぐこれなんだから! ダメでしょう?」


 嗜めるようにため息を吐きながらセイラ様は両腕を組んだ。 自分よりも遥かに体の大きなフォルファー様を相手に小さな子供を諭すかのような姿は流石一児の母親ですね。


「そんな口説きかたしか出来ないからいつまでたっても孫の顔が見れないんじゃないの。 早く可愛いお嫁さんをもらって孫を抱かせて欲しいものだわ」


 しみじみと言うセイラ様ほど孫がいても良い年齢にはとうてい見えませんがね。


「何でしたら母上が私の弟か妹でもお作りになればよろしいでしょうに。 私は喜んで継承権を放棄いたします……!?」


 セイラ様に軽口を叩きながら顔を上げた直後、フォルファー様がフリーズした。


 えっ、なんかあった?


「フォルファー?」


 愛息子の不審な反応にセイラ様が名前を呼んでいるのにも気が付かないのか、フォルファー様はフラフラとクリスティーナ様の横をすり抜けて少し離れた場所にいた人物に声を掛けた。




 
  

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