『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

26『カイザール様、意外と凝り性なんですね』

 おはようございます。 小鳥の鳴き声が清々しい朝です。 日の出を拝んだのはいつ以来でしょうか。


 昨日ルーベンス殿下が父様に地下牢へ連行されて行くのを見届けた三人組は目下答え合わせを行いました。


「ここか、ここが間違っていたから最後で辻褄が合わなかったんだな」


 カイザール様を手こずらせた難問題を前に悔しげに問題用紙を睨み付けながら再計算を始める。


 ちなみに問題は縦九マス横九マスの合計八十一マスが書いてあり、更にそれを縦に三マス、横に三マスで一つの組として区切ってあり八十一マスの中に一から九を入れていくゲームです。


 ルールは簡単。


その一、どの縦一列にも一から九の数字が一つずつ入れる。


その二、どの横一列にも一から九の数字が一つずつ入れる。


その三、縦に三マス、横に三マスで区切られたのどの組にも一から九の数字が一つずつ入る。


 この三つだけ。 言い換えれば。


その一、どの縦一列にも 同じ数字は入らない。


その二、どの横一列にも 同じ数字は入らない。


その三、縦に三マス、横に三マスで区切られたのどの組にも同じ数字は入らない。


 マスの所々に数字が散らばったナンプレ(数独)に悪戦苦闘されているカイザール様。


 前世では娯楽として良くやったなぁ。 問題を作って解きあうなんてこともやったわ。
 
「良く見るとそれしか入りようがない箇所があるはずですからそれから埋めていくのがコツですわ」


 それから数分後無事に解読出来たのか晴れやかな様子で次の問題を請求してきました。


 はまったなこいつ。


「後日にでもお渡ししますわ。 今日はお疲れでしょうし、これから陛下とお食事もありますし明日も早い。 この辺でやめておいた方がいいですわ」


 それぞれ部屋に戻り準備を整えて陛下とお食事、すまん。 疲れすぎて記憶にない!


 どうやら自覚する以上に疲れていた模様。


「はぁ、また隣で寝てるし」


 三度目になれば流石に慣れました。


 今日は寝乱れてません。


 抱き締められてますけどね。


 しかし一度寝付くと朝まで熟睡して目が覚めないのは我ながら図太いと言うか、鈍いと言うか。


「クリスティーナ様! おはようございます! 起きてください!」


「う~ん、リシャーナ様、もう少しぃ」


 身体をずらすと引き戻されそうになったので枕を代わりに抱かせる。


 脱け出して身支度を整えると、遠慮がちに部屋の扉が叩かれた。


「はい」


「おはようございます。 朝食と出発のご準備をさせて頂きに参りました」


「わかりました。 朝食はそちらの部屋へ用意して下さい」


 先程脱け出したベッドでまだ夢の中の住人なクリスティーナ様を揺り起こす。


「クリスティーナ様、起きてください!朝食ですわ!」


「むー、もうちょっと」


 頭まで毛布を引き上げすっぽり毛布にくるまったミノムシのようなクリスティーナ様。


「はぁ、あれやるか」


 我が家の寝坊助な長男のソルティス兄様を起こす秘技。 本来なら鉱石で出来た調理鍋を思いきり叩くのですが仕方がないのでもう一つの方でいきたいと思います!


 ええと、確かこの辺にぃ……良し! 有ったぁ!


 ごそごそと荷物を物色してやっと見つけた目的の物を取り出した。


「クーリースーテーィーナーさまー。 起きてくださーい!」


 取り出した手鏡を持って耳元へ近付くと濡らした右手で一気に力をいれて撫でた。


 ぎっ、ぎきゅーううう! きゅきゅきゅぅー!


「いやー! リシャーナ様ぁ! 止めてー! 起きます! 起きますからぁ!」


 うぉ! 良い反応ですのぅ。 これは人によって効き目が違うからダメなら違う手をと思ってたんだけど。


 手鏡の手を止めると大きな紫色の瞳を潤ませて両耳を塞ぐクリスティーナ様が私を睨み付けていた。


 いや、正確には手鏡をだけど。 手鏡から右手を外すとほっとした様子で耳から両手を外した。


「くぅぅぅ、リシャーナ様、それは反則ですわぁ」


 懲りずにまたベッドに潜り込むクリスティーナ様のためにもう一曲!


 ぐぎゅ~! きゅっ! きゅっ! きゅぃ~!


「起きました! 起きましたぁぁぁぁ!」


 ガバッとベッドから起き上がると走って化粧室へと走って逃げて行った。


「すぐに朝食ですから隣の部屋でお待ちしてます」


 コンコンと扉を叩くも返事がない。


 ぎぎぎぃぃぃ~!


「すぐいきますぅ!」


 泣きが入ったような返事が聞こえてきた。


「はぁーい」
 
 ドタンバタンと音が化粧室から響いているので私は先に朝食の仕度が整ったテーブルへと座った。


 直ぐに運ばれてきた紅茶は香り高い一級品で花のような香気が鼻腔を擽る。


「お待たせしましたぁ。 申し訳ありません、朝は苦手ですのぅ」


 身支度を整えたクリスティーナ様の本日の御召し物はレモンイエローのシンプルで動きやすいワンピースだ。


 ちなみに私は濃紺のワンピースです。ドラクロアまでの長い道中ドレスなんて着てられません。


 焼き立ての香ばしいパンを野菜を磨り潰したポタージュと共に咀嚼する。


 取れたての鶏卵もふわふわに焼き上がっていてとっても美味。 幸せ、パンもう一つおかわりしちゃおっと。


 この豪華な料理も暫く食べれないと思うと、ついつい手が出てしまう。


 食後に果物のジャムを溶かした紅茶を飲んだ後、旅に同行する護衛の騎士が呼びに来たのでクリスティーナ様と一緒に騎士の案内人の後に付いていくと王城の扉の外に四台の馬車が用意してあった。


 二頭の馬で引く商人が所持することが多い幌馬車が二台と、ロバが繋がれた農作業用の小型の馬車。


 そして一番目立つのが六頭だての黒光りする一際大きな馬車だった。


「なんで俺がこいつと一緒の馬車なんだ! しかもボロボロじゃないか!?」


 多少窶れてはいるものの、昨晩は地下には戻されずに済んだらしいルーベンス殿下が、隣にうんざりした顔で立ち尽くすカイザール様に指をさしながら護衛の騎士に朝も早よから文句を言っていた。


 確かにボロボロに見えるわよね、偽装してあるし。 ちなみに私のお気に入りの一台だ。


「あら、お嫌でしたか? 長距離移動用で見た目は地味ですが乗り心地良いですよ?」


「六頭だての馬車なんて私はじめて見ました!」


「軍事遠征用の装甲車、いったいどこから持ち出してきたんだよ」 


「勿論我がダスティア公爵家からですわ。 ボロボロで申し訳ありませんでした」


 流石カイザール様、ボロボロに偽装されていてもキチンと軍事用だって見抜いてる。


 この馬車の優れているところは、王国軍の使用している馬車とは違い車輪にスプリングがついていて揺れが少なく、ダスティア公爵領の鍛冶屋が鉄の板を叩きに叩いて外壁を強化した特注品。


 貴族が乗っていると解れば長距離では賊に襲われることも有るため立派な外装の上にボロボロの幌で偽装してあるのよ。


 ただ難点があって、本来の軍事用遠征車は四頭で引く馬車が車両が重すぎて六頭だてになってしまった。


「いや、その」


「こんなこともあろうかと、殿下の為に特別な馬車を用意してございますがいかがなさいます?」


「なんだ。 なら早く言え」


 そう、ならお目にかけましょう! 王子様専用車両カモーン!


 ロバが引く小型の馬車がきたのでお披露目に荷台に掛けてあった布を引き剥がす。


 ジャジャーン! ロバを見て顔をひきつらせた殿下が布を外した瞬間激昂した。


 沸点低っくいなぁ。


「ふっ、ふざけるな!あれのどこが馬車だ!」


「あら、心外ですわ。 素晴らしい馬車じゃありませんか。 外壁は鉄格子で出来ておりますから換気設備は整っており、常に新鮮な風を感じられますし、遮る壁もございませんから眺めも抜群で道中素晴らしい景色を堪能出来ますわ」


 ねっ? 素晴らしいでしょう? と笑顔で言えば盛大に顔をひきつらせている。


「いったいどこに自国の王子を犯罪者の護送車に乗せる者がいるんだ!」


「え? ここにいますけど?」


 一体なにか問題でもありましたかしら?


「まぁ、たっ確かに殿下を我々只の貴族と同列に扱うわけには参りませんねっ、ブフッァ!」


 カイザール様は笑いを必死に堪えながら告げていたのだがついに我慢の限界を突破したのか小さく噴き出した。
 
「うふふっ、リシャーナ様はおちゃめですね。 そんなところも素敵ですわ」


「ありがとうございますクリスティーナ様。 さぁ、ルーベンス殿下お好きな馬車にお乗りくださいませ」


 にぃ~っこり微笑むと、ピクピクと顔を引きつらせて鼻をならしてダスティア公爵家の改造馬車に乗り込んでいきました。


 ここはあえて牢を選ぶのが男気でしょう!


「まぁ、いいわ、さっさと乗ってしまいましょうか。 ロバは置いていきますね。 ところでセイラ様はご一緒ではなかったのかしら?」


 馬車に乗り込みながら見送りに出ていた騎士に声をかける。


「セイラ夫人は先に城下を散策されて王都の街門にてお待ちしているとのことです」


「そう、わかりました。 父様によーー」


「その馬車待てー!」


 城の門から飛び出してきた父様が髪を振り乱してこちらにかけてきます。 あっ、転んだ。


 この馬車父様に無断で持ち出したから今更没収されたらドラクロアまでの快適な旅がパァになっちゃう!


「急いで発車して!」


 従者に声を掛けると困惑した声が返された。


「えっ、しかしよろしいのですか?」


「ええ! 全速前進!」


「はいぃぃぃ!」


 ここは逃げるが勝ちよ! 車は急に止まれません!


「リシャーナ!」


「大丈夫ですか!? もう歳なんですから無理しないで下さい! 行って参ります! 兄様たちをよろしくお願いいたしますね!」


 ガラガラと進みだした馬車は止まらずに進むため、窓から身を乗り出して父様に手を振り王城を出発した。




  



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