『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

16『陛下の甥っ子様』

 フォルファー殿は全く抵抗することなく騎士の方々によって詰め所の中に存在する地下牢へと一時拘留されることになりました。


「そうそう宰相閣下、後ろのこねずみちゃんはどこのご令嬢ですか?」


 行きたくないけど、証人として強制連行されてぞろぞろと地下牢への道中、目の前を上機嫌で歩くチャラ男は全くこたえた様子がありません。


「私の娘だよ」


「えっ、本当ですか? 似てませんね」


 途端に不機嫌なオーラを漂わせ始めた父様の様子に気が付いているのかいないのか、器用に身体を捻ってこちらへと笑顔を向けてきた。


 うぉー、見るなぁ! 無駄に爽やかな笑顔に、ゾワゾワと悪寒が背筋を這い上がってくる!


「娘は妻に似ているのでね」


 私の反応を知ってか知らずか、フォルファー殿の視線を遮るように立ってくれる父様の背中にしがみ付いた。


「いやぁ、宰相閣下にこんなにも可憐で包容力のある聡明なご令嬢がいらっしゃったとは」


「これのどこに可憐な要素があるんだよ……痛っ!」


 直下型美声を遺憾なく発揮して私を誉め出したフォルファー殿の言葉に続いて、私の後ろから付いてきていたルーベンス殿下の呟きが聞こえてきた。


「あらルーベンス殿下の足元に虫が! オホホっ残念逃げられてしまいましたわ」
 
 グリグリと足の甲を踏みつけた。


 まったくこんな可憐なご令嬢が目にはいりませんかねぇ、あら? 涙を流せば少しはルーベンス殿下の目の曇りがはれますかしら。


「いやぁ、こねずみちゃんが突然目の前に現れたときは、女神でも現れたかと思いましたよ」


 女神って誰のことでしょうねぇ、美辞麗句って適正に使わないと嫌みですよ。


「美しいご令嬢、貴女の御名前を知る権利を私に下さいませんか?」


 いやぁ、出てくる出てくる! どこから出てくるんだろう美辞麗句。


「フォルファー、少しでいいから黙れ。これ以上ロベルトの前で無駄にリシャーナ嬢を口説くんじゃない」


「おぉ、女神はリシャーナ様と仰るのですか。 御名前すらもお美しい!」


 見かねた国王陛下の苦言もなんのその、これが正しいタラシ道なんでしょうかねぇ。


「ドラクロアの令息って女の趣味悪いんだなぁ……」


 あの天然記念物並みに純粋なクリスティーナ様に向かって悪女呼ばわりしたルーベンス殿下は人の事をどうこう言えるのかねぇ。


 そうこうするうちに辿り着いた地下牢は、一般人物用の木製ベッドとトイレしかない簡素な牢獄ではなかった。


 石壁にはタペストリーが掛けられ、石の床には毛足の長いフカフカ絨毯。


 ベッドも私の生家で使っているクイーンサイズの高級品と遜色なく天蓋までついている。よくよくみればトイレとクローゼットまで立派な作りだった。


 一応監視がしやすいようになのか、ベッドにはカーテンは付いていなかったけれど、着替えやトイレ時に目隠しになるように扉二枚分の衝立が一枚用意されていた。


 所謂VIP用の牢獄ですね。入りたくはないけど。


「へぇ、こんな綺麗な牢屋もあるんですねぇ、なんと!トイレするとき丸見えじゃないですか」


 牢へと自ら入っていき、牢内を探索しながらおもむろに便座に座る。


「はぁ、本当にお前は一体何をしに王城まで来たんだよ」


 今度はクローゼットを開いてごそごそと探すフォルファー殿の姿に国王陛下は脱力を隠せないようです。


「うん~。なんかドラクロア領内で国の宝物にそっくりな宝石を身に付けたご婦人が母上の開いた夜会に何人かいて、それに気が付いた母上が出所を聞き出して、複数の商人を辿ったら王都の大商人に行き着いたわけです」


 肩をすくめてあっけらかんと自供するフォルファー殿はその間もこちらを見ては目が合うたびにウィンクをくれやがる。


「それでぇ、面白そうだからちょっと貴族に顔が広いことをバラしたら、尻尾を振ってきたから仲間の振りをして流す予定の宝飾品は偽名を使って全てドラクロアで買い取っておきました」


 話の内容ほど深刻に聞こえないのはなんででしょうね。


「しっ、失礼します!」


 騎士が二名がかりで四角い物を持ち上げながらやって来ました。


 運び込まれた重厚な衣装箱には天鵞絨が貼られ、緻密な彫刻の施された蝶番と頑丈な錠前が付けられています。


「おっ、来た来た。はい、陛下に錠前の鍵を献上いたします」


 フォルファー殿は首から下げた鎖を胸元から引きずり出すと、首からはずして鋼の格子の隙間から陛下へと差し出した。


「衣装箱をこちらへ」


 父様が騎士を促して陛下の隣へと置かせる。


「うむ、どれ」


 フォルファー殿の手から受け取った鍵を錠前の穴に差し込み時計回りに回すと、カチリと何かが外れた様な音が石の壁に反響した。







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