『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

12『道連れ(生贄)ゲットだぜ!』

「クラリアス伯爵子息、カイザール様を推薦致します!」


 あんぐりと口を開けて茫然とする国王陛下、心当たりがないのか眉間に皺を寄せているルーベンス殿下。


 そしてなぜか身体を捻るようにして顔を伏せ、口許に手を添えて小刻みに震える父様。


 三者三様の反応……えっ、なんか変なこと言いましたっけ? 


「クラリアス伯爵子息? あそこに子息なんて居たか?」


 殿下よ、怪訝な声を出してますけど居ますから! 失礼な、自国の貴族の名前覚えましょうよ。


 私は覚えてませんけどね。 えっへん!


「リシャーナ嬢、本気か?」


「えぇ、生け贄は彼くらい打たれ強い方のほうが楽ですし」


「ぶっ、い、生け贄。 くっ、ぶふっ」


 文字通り生け贄ですよ父様、事実を述べただけですがツボに入る要素有りましたっけ?


「そ、そのクラリアス伯爵令息とは一体どういった関係なのかな?」


 うわずってますよ陛下。


「学院の先輩です。 色々優秀な方ですよ」


 見た目は特に優秀な方ですよ。


 にっこりスマイルです。 誤魔化されろ!


「本音は?」


「見た目は極上、学力、武術は折り紙つき。 中身は化け狸な令息様です!」


 顔面偏差値と性格の良さは反比例でもしてるんですかね。


 美形とかいて魔王と呼びたいです、本当に関わるとろくなことがない。
  
 災厄しか運んでこないんだから。


 父様に公爵家の権力と宰相のコネを最大限駆使して顔も性格も平凡な旦那様を見つけてもらうもん。


「化け狸っぶふっ!」


 父様が初めて公爵家にカイザール様を連れてきたときには既に立派に化けてましたよ彼。


「これが公爵令嬢って何かの間違いだろまだ猛獣の方がまだ可愛いわ」


 はい? なんか文句でもありますか? 駄犬王子の癖に、蛙の次は猛獣ですか。


 ちょっと睨んだくらいであからさまに視線をそらすとか分かりやすいわ。


 クリスティーナ様と違った意味で正直すぎて既に頭が痛いわよ。


 これ指導してどうにかなるの?


「それではカイザール様の補助員任命よろしくお願いいたします」


 断れないならこれ以上付き合うのは疲れるだけだもの。


「あっ、あぁ手配をしておく。 リシャーナ嬢にはこれからルーベンスとドラクロア辺境伯領に行って貰う」


「はい? ドラクロアですか?」


 ドラクロアってフレアルージュ国と国境を接する辺境で前王国軍の大将さんの引退先じゃなかったかしら。


「い、嫌だ……」


 ぼそりと聞こえた声に目を向けると顔面をこれでもかと蒼白にして身体を抱くようにしてぶるぶるとルーベンス殿下が震えていた。


 ちょっとどうしたの?


「嫌だー! ドラクロアになんか行かないからなぁ!」


 くるりときびすを返して脱兎のごとく部屋から飛び出していく駄犬。


「えっ、ちょっと!?」


 あのバカ、この上逃亡罪とか罪状増やすつもり!? 勘弁してよ!


「こら! 待ちなさい!」


 私にまでとばっちりがきたらどうしてくれんのよー!? 遠ざかる背中を追いかけて廊下へと駆け出した。


 逃がすか、こんちくしょう。


「リシャーナ、思いっきり遊んでやれ」


「はーい。 遊んできまーす!」


 手を振りながら飛び出していった娘の後ろ姿に腕組みをしたまま物騒な台詞を吐くロベルト宰相に国王陛下は苦笑をうかべた。


「はぁ、一体誰に似たんだ」


「ルーベンス殿下は間違いなく陛下の御子ですよ。 あの逃げ足と性格は学院時代の陛下とそっくりじゃないですか」


 とてもじゃないが若かりし日の過ちをほじくりかえされては堪らない。


 それでなくてもロベルトは国王の側に幼い頃から居たため、側近兼親友としてあーんなことやこーんな失敗を熟知しているから始末が悪い。


「と、とにかく。 ルーベンスを捕らえるぞ」


「ふふふっ、仰せのままに」


 隙の無い礼をしてルーベンス捕獲の指示を出すべくロベルトが退室していくと、それまで居た他の者達も追従したために部屋には国王だけが残されていた。


「はぁ、お前の娘は外見は死んだアリーサに生き写しだが、中身はお前そのままだよ、まったく」


 王妃の悪質な嫌がらせから遠ざけるためロベルトの奏上を受け入れた。


 かりそめの伯爵令息と言う肩書きを手に入れ、すっかり地味になり、目立つ行動を避け出した第二王子。


 学院での様子はロベルトから定期的に聞いてはいたが、そのどれもこれもが意図的に仕組まれた平凡な伯爵令息としての話だった。
 
 優秀すぎた為に、要らぬ嫉妬と悪意にさらされてきた第二王子は噂のみが誇張していき、爪を隠した彼を誰も第二王子だとは思うまい。
 
「凡人に擬態したカイザーをそうとは知らずに引っ張り出したあげくに化け狸扱い出来る鋼の精神はロベルト、文句を言いつつも見捨てられないお人好しはアリーサ譲りだな」


 自分の過ちを過剰防衛気味に防いでくれたかつての友人の飛び蹴りを思い出して、二人が去っていった扉を見詰めた。
 

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