『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!
13『駄犬王子逃走中』
「もうっ、無駄に逃げ足速いんだから! どこいった!」
父様の声援を受けて部屋を飛び出したものの、体格差は無情だったようであっという間にルーベンス殿下を見失ってしまいました。
「ルーベンス殿下を見ませんでしたか?」
「えっ、殿下でしたらあちらに走って行かれましたよ」
すれ違う侍女やら官僚やらを捕まえては同じ質問を繰り返すことうん十回。
情報が集まること集まること。 あの成人に近付いた体躯と目立つ美貌で物陰に隠れるのは至難の技。 追跡に必要な情報がわんさか出てきます。
「ありがとう」
逃走場所に城内を選んだ時点で逃げ場なんて無いのにわかんないかなぁ。
しかも始めの指導者の条件が学院内のみだったにも関わらず、謹慎処分で登院禁止になったので、条件が勅命で緩和されたと大幅に拡大解釈出来ちゃう。
受けたものは仕方がないし、気にしたら負ける気がするので好きにさせてもらいましょうか。
「殿下でしたら先ほどその階段を階下へと降りられましたよ?」
何人目かわからない騎士に声をかけると、そう言って外を指差しました。
ぽっちゃり嘗めんなよ。 動けるぽっちゃりここにあり!
「とりゃ~! って流石に二階から飛び降りるのは無理~」
ピカピカに磨かれた階段の手摺を滑り台代わりにして降りる。
たのしいのよ。 これがまた。
目撃証言を元に追跡していたら、廊下の隅で見つけましたよ違和感。
「捲れてる、これってもしかして……」
不自然に捲れた絨毯に近付くと微かに風が漏れている。
そっと壁に力をかけるとガガガッと床を擦り入り口が現れた。
「忍者屋敷、じゃなくて秘密通路って本当にあるんだぁ」
覗き込めば人ひとりが通れるだけのスペースを確保された通路が見渡せる。
「まぁ、あの駄犬王子は父様も捕獲に動くだろうし、すぐ捕まるよね? 秘密通路なんて発見するの奇跡に近いし行ってみよ~」
本来の目的をあっさり放棄して通路へ滑り込むと、必要最低限の明かりとりとしてなのか、通路の外壁には換気もかねて指一本分くらいの隙間が空いているようで意外と明るい。
「へぇ、これくらいの隙間なら外から見ても只の壁にしか見えないかも」
多少埃臭いけど、秘密になってる通路に掃除の徹底を求めちゃだめっつうもんでしょ。
「いい加減にしないか! 疑いの目がこちらに向く前に早く逃げなければ縛り首になるんだぞ」
「今動けばかえって怪しまれます」
通路の階段を降りると話し声が聞こえてきました、うっ、動けない。 これなんか話がきな臭いなぁ。
「しかし、宝物庫に宰相の手の者が入った。 発覚するのも時間の問題だっ!」
「尻尾は始末して有りますから、尻尾から我々にたどり着くことは無いでしょう」
「それはーー」
「ですから怪しまれる行動を慎んで政務にお戻りください」
なおも反論しようとする男の声がもう一人によって遮られた。
壁越しだとくぐもってますけど、男性二人ですね。
「ふん、私が捕まればそなたも同罪。 裏切ればどうなるかわかっておろうな?」
「えぇ、それはもちろん」
明るく答えた声は張りがあるので若い男性だろう。
もうちょっとなんか手掛かり無いもんだろうか。
壁に耳を押し付けるようにして張り付くと、途端に壁の一部が崩れてカラン、コロンと転がった。
「何の音だ?」
訝しげな声が音に反応して呻きました。
うわっ、まずい。 ばっ、バレたか。
「チューチュー」
ついつい鼠の真似をしてしまいました、誤魔化されろ!
「なっ、なんだ鼠か。 驚かせやがって、とにかく私は職務に戻る! なにか有ればすぐ知らせよ! わかったな!」
そう言い捨てるとバタン! と大きな音を発して出ていったようです。
ふぅ、なんとか切り抜けた~。
安堵に力を抜いた途端、寄りかかっていた扉が動き、私はそのまま床に転がった。
うっ、痛い、安心して油断してたわ。
「これはまた随分と可愛らしいネズミですねぇ」
頭上からかけられた台詞に顔を上げる。
うわー、また出たよ。 美形なんか大嫌いだ。
「あはは、どうもお邪魔しました」
笑って誤魔化しつつ、後ろにあるはずの隠し通路へとジリジリと下がる。
「はい。こんにちは、いったいどこのネズミだろうねぇ……君は」
蛙に猛獣の次はネズミですか。 どれだけ動物増えるんだろう、しかも仮にも女の子を例える動物なんだからもう少し可愛いどうぶつないの?
ひたすら下がったのに背中に当たったのは木造の壁でした。 うそーん、閉まってるぅ。
くるりと後ろを振り返り壁をペタペタ触って見たものの、どうやって開けるんだ、これ。
「逃げられると思ってでもいるのかな? ネズミちゃん?」
何時の間にやら背後にやって来た美丈夫殿に耳元で囁かれた。
ぎゃー、鳥肌が立つじゃないかこの野郎!
下半身直下型の美声で耳つぶすんなばかぁ~。
「なんのことですか? 私はしがない迷子ですわ。 女性に覆い被さらないで下さいませんこと? 失礼ですよ」
こうなったら知らぬ存ぜぬでやり過ごすっきゃないか。
「へぇ、堕ちて来ないんだぁ。 大抵のご婦人は腰砕けになるんだけどなぁ」
クスクスと笑いながらまるで珍獣でも見る目で距離を詰めてくる。
くそぅ、近寄るなぁ。 あっ、そうだ。 お兄様直伝のあれがあるじゃない。
幸いと言うか間合いは十分。 くるりと美丈夫青年に向き直るとにっこり笑顔を浮かべましょう。
突然の方向転換後に笑顔を浮かべた私につられてはにかむ青年。
てりゃ!
「ぐっ!」
狙うは急所一点のみ! さっきのまでのやり取りから浮き名を流しているだろう事は間違いなさそうだし、女の敵に遠慮なんていらないよね。
あくまでも自己防衛だい。
靴越しにふにゃりとした感触が~、ってそれどころじゃない。
前屈みに倒れ込んだ今が脱出の好機!
すぐさま立ち上がって男の横をすり抜けると部屋の出口だろう扉へと走る、つもりだったのに足首を掴まれて第二歩を踏み出し損ねた。
「うわっ、ちょっと離しなさいってば!」
「くっ、俺とした事が油断した。 逃がすと思うかネズミちゃん?」
顔に脂汗を浮かせて丸まったままカッコつけても滑稽ですよ。
「はいさいなら!」
重心を掴まれた足に移動して重力に逆らわずに肘から青年の背中に倒れ込む。
たしかプロレス技でジャンピングエルボーって技だったような気がする、跳んでないけどね。
ぽっちゃりに重力を加えてぶち当たればそれなりにダメージは与えられちゃうもんね。
「ぐえっ!」
よっしゃ手が外れた!
「まっ! 待って!」
背後から静止を求める苦しそうな声がしたけど知りません! 誰が待つか~。
父様の声援を受けて部屋を飛び出したものの、体格差は無情だったようであっという間にルーベンス殿下を見失ってしまいました。
「ルーベンス殿下を見ませんでしたか?」
「えっ、殿下でしたらあちらに走って行かれましたよ」
すれ違う侍女やら官僚やらを捕まえては同じ質問を繰り返すことうん十回。
情報が集まること集まること。 あの成人に近付いた体躯と目立つ美貌で物陰に隠れるのは至難の技。 追跡に必要な情報がわんさか出てきます。
「ありがとう」
逃走場所に城内を選んだ時点で逃げ場なんて無いのにわかんないかなぁ。
しかも始めの指導者の条件が学院内のみだったにも関わらず、謹慎処分で登院禁止になったので、条件が勅命で緩和されたと大幅に拡大解釈出来ちゃう。
受けたものは仕方がないし、気にしたら負ける気がするので好きにさせてもらいましょうか。
「殿下でしたら先ほどその階段を階下へと降りられましたよ?」
何人目かわからない騎士に声をかけると、そう言って外を指差しました。
ぽっちゃり嘗めんなよ。 動けるぽっちゃりここにあり!
「とりゃ~! って流石に二階から飛び降りるのは無理~」
ピカピカに磨かれた階段の手摺を滑り台代わりにして降りる。
たのしいのよ。 これがまた。
目撃証言を元に追跡していたら、廊下の隅で見つけましたよ違和感。
「捲れてる、これってもしかして……」
不自然に捲れた絨毯に近付くと微かに風が漏れている。
そっと壁に力をかけるとガガガッと床を擦り入り口が現れた。
「忍者屋敷、じゃなくて秘密通路って本当にあるんだぁ」
覗き込めば人ひとりが通れるだけのスペースを確保された通路が見渡せる。
「まぁ、あの駄犬王子は父様も捕獲に動くだろうし、すぐ捕まるよね? 秘密通路なんて発見するの奇跡に近いし行ってみよ~」
本来の目的をあっさり放棄して通路へ滑り込むと、必要最低限の明かりとりとしてなのか、通路の外壁には換気もかねて指一本分くらいの隙間が空いているようで意外と明るい。
「へぇ、これくらいの隙間なら外から見ても只の壁にしか見えないかも」
多少埃臭いけど、秘密になってる通路に掃除の徹底を求めちゃだめっつうもんでしょ。
「いい加減にしないか! 疑いの目がこちらに向く前に早く逃げなければ縛り首になるんだぞ」
「今動けばかえって怪しまれます」
通路の階段を降りると話し声が聞こえてきました、うっ、動けない。 これなんか話がきな臭いなぁ。
「しかし、宝物庫に宰相の手の者が入った。 発覚するのも時間の問題だっ!」
「尻尾は始末して有りますから、尻尾から我々にたどり着くことは無いでしょう」
「それはーー」
「ですから怪しまれる行動を慎んで政務にお戻りください」
なおも反論しようとする男の声がもう一人によって遮られた。
壁越しだとくぐもってますけど、男性二人ですね。
「ふん、私が捕まればそなたも同罪。 裏切ればどうなるかわかっておろうな?」
「えぇ、それはもちろん」
明るく答えた声は張りがあるので若い男性だろう。
もうちょっとなんか手掛かり無いもんだろうか。
壁に耳を押し付けるようにして張り付くと、途端に壁の一部が崩れてカラン、コロンと転がった。
「何の音だ?」
訝しげな声が音に反応して呻きました。
うわっ、まずい。 ばっ、バレたか。
「チューチュー」
ついつい鼠の真似をしてしまいました、誤魔化されろ!
「なっ、なんだ鼠か。 驚かせやがって、とにかく私は職務に戻る! なにか有ればすぐ知らせよ! わかったな!」
そう言い捨てるとバタン! と大きな音を発して出ていったようです。
ふぅ、なんとか切り抜けた~。
安堵に力を抜いた途端、寄りかかっていた扉が動き、私はそのまま床に転がった。
うっ、痛い、安心して油断してたわ。
「これはまた随分と可愛らしいネズミですねぇ」
頭上からかけられた台詞に顔を上げる。
うわー、また出たよ。 美形なんか大嫌いだ。
「あはは、どうもお邪魔しました」
笑って誤魔化しつつ、後ろにあるはずの隠し通路へとジリジリと下がる。
「はい。こんにちは、いったいどこのネズミだろうねぇ……君は」
蛙に猛獣の次はネズミですか。 どれだけ動物増えるんだろう、しかも仮にも女の子を例える動物なんだからもう少し可愛いどうぶつないの?
ひたすら下がったのに背中に当たったのは木造の壁でした。 うそーん、閉まってるぅ。
くるりと後ろを振り返り壁をペタペタ触って見たものの、どうやって開けるんだ、これ。
「逃げられると思ってでもいるのかな? ネズミちゃん?」
何時の間にやら背後にやって来た美丈夫殿に耳元で囁かれた。
ぎゃー、鳥肌が立つじゃないかこの野郎!
下半身直下型の美声で耳つぶすんなばかぁ~。
「なんのことですか? 私はしがない迷子ですわ。 女性に覆い被さらないで下さいませんこと? 失礼ですよ」
こうなったら知らぬ存ぜぬでやり過ごすっきゃないか。
「へぇ、堕ちて来ないんだぁ。 大抵のご婦人は腰砕けになるんだけどなぁ」
クスクスと笑いながらまるで珍獣でも見る目で距離を詰めてくる。
くそぅ、近寄るなぁ。 あっ、そうだ。 お兄様直伝のあれがあるじゃない。
幸いと言うか間合いは十分。 くるりと美丈夫青年に向き直るとにっこり笑顔を浮かべましょう。
突然の方向転換後に笑顔を浮かべた私につられてはにかむ青年。
てりゃ!
「ぐっ!」
狙うは急所一点のみ! さっきのまでのやり取りから浮き名を流しているだろう事は間違いなさそうだし、女の敵に遠慮なんていらないよね。
あくまでも自己防衛だい。
靴越しにふにゃりとした感触が~、ってそれどころじゃない。
前屈みに倒れ込んだ今が脱出の好機!
すぐさま立ち上がって男の横をすり抜けると部屋の出口だろう扉へと走る、つもりだったのに足首を掴まれて第二歩を踏み出し損ねた。
「うわっ、ちょっと離しなさいってば!」
「くっ、俺とした事が油断した。 逃がすと思うかネズミちゃん?」
顔に脂汗を浮かせて丸まったままカッコつけても滑稽ですよ。
「はいさいなら!」
重心を掴まれた足に移動して重力に逆らわずに肘から青年の背中に倒れ込む。
たしかプロレス技でジャンピングエルボーって技だったような気がする、跳んでないけどね。
ぽっちゃりに重力を加えてぶち当たればそれなりにダメージは与えられちゃうもんね。
「ぐえっ!」
よっしゃ手が外れた!
「まっ! 待って!」
背後から静止を求める苦しそうな声がしたけど知りません! 誰が待つか~。
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