『原作小説』美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!

紅葉ももな(くれはももな)

2『陛下、無茶ぶりはパワハラです』

 思い起こせば二月前に父様から火急の帰宅要請が来たときから諦めていたんだよね。


 帰宅後に浴室に強制連行されて、用意されてあった正式なドレスを着せられた時点で行き先は察しがつきました。


 身分問わず衣装の簡略化が図られて以来、ゴテゴテしい従来のドレスは略装されて、膝下までのワンピースが主流になっている現在、足元まであるロングドレスは夜会や晩餐会などの社交の場で礼服として纏われる事が多い。


 機能性とデザインを考慮したお仕着せに次々と切り替えられるなか、唯一王族は由緒正しいドレスの着用を心がけているようで、謁見も例に漏れず盛装しなければならないのだ。


 父様に付き添われて国王陛下に拝謁を賜った時には緊張しても仕方がなかったと思う。


「陛下、宰相ロベルト・ダスティア及び御召しのリシャーナ・ダスティア参りました」


 父様と共に案内されたのは王の私的スペースだった。


 あまり華美ではなく白を基調とした室内には、シンプルなデザインの家具が設えられている。


 シンプルに見えても最高級品であろう事は、目立たないように刻印されている模様を見れば一目瞭然。


「おぅ、良く来てくれた。 二人ともまぁ掛けなさい」


 漆黒の革張りソファーに深く腰を掛けたまま手招く国王陛下に父様に続いて側近くまで進む。


 こうして陛下と直に御逢いするのは四年、いや五年振りか? 日々の心労か国を背負う者の重責からか、目に見えて老けましたね陛下。


 公爵令嬢として恥ずかしくないよう笑顔で御挨拶をすると目尻に皺を刻みながら鷹揚に頷かれております。


 第三王子は反吐がでるけど、この優しい陛下の魅力に弱いんですよ。 内政としては可もなく不可もなく国を治めているのは優しい人柄のおかげかも。


 出来ればもう少し息子に関心を向けて頂きたかったです。


 それでも匂い立つような大人の魅力はドキドキしますね。


 父様といい陛下といい、渋すぎて萌えます。 ナイスミドル最高です。


「これはリシャーナ嬢、綺麗になられましたな。 目元が母君に良く似ておられる」


「お褒めに与り恐縮です。 陛下も御変わりなく御健勝と御繁栄お喜び申し上げます」


 お世辞だとしても、陛下の賛美は素直に嬉しいんですよね。 本心から言ってくれているのがわかりますもの。


 何よりお母様に似ていると言って貰えるのは何よりの誉め言葉です。


 幼くしてお母様を亡くした私の記憶に残るお母様の姿は、父様との婚礼を記念して描かれた肖像画と、公爵家のエントランスに飾られたている私を抱いたお母様とお父様、姉様と二人の兄様が描かれた大きな肖像画です。


 他にも沢山ありますが私の好きな絵は家族全員で写っている絵ですね。


 お母様が亡くなった時は肖像の前から離れなかったと教えて貰ったことがありますが、今では寂しくはありませんよ? その分父様と兄様達や姉様が猫可愛がってくれましたから。


「まぁ掛けなさい、お茶を入れよう。王立学院での話を聞かせておくれ」


 ワインの入ったグラスを父様に差し出して、自分もぐいっとグラスを空ける。


 度数はあまり高くないワインでもまるで水でも飲むように煽るのは体に良いとは思えない。


 侍女が運んできた紅茶や焼き菓子をテーブルの上に並べて一礼すると直ぐに下がって行った。


 陛下のお許しを頂いてからその中から果物の甘露煮の入ったパウンドケーキを頂く。


 うーん、美味しい。お菓子も絶品だし紅茶も最高!


「実はなリシャーナ嬢に聞きたい話があってな」


「……ルーベンス殿下、ですね」


「察しが良いな、リシャーナ嬢はあれの事をどう思っているかな?」


 どうって言われてもねぇ。


「御自分の魅力を理解され、それを最大限活用する力量をお持ちです」


 相手は王族、当たり障りなく答えておくに限る。


「本音は?」


 そこを聞きますか。


「本音ですか」


 困惑を浮かべて言い淀むと陛下は苦笑を滲ませた。


「思うところを飾らずに素直にそのまま言って構わない。 あれの学院での様子を実際に見ているものの意見が欲しい。 もちろん不敬には問わない」


 陛下の言葉に、父様を窺い見ると頷いてくれる。父様公認なら遠慮は要らないでしょう。 思うところを素直に言わせて貰おうじゃないの。


「では、ある女生徒への恋情に我を忘れ、学生としての本分を蔑ろにされております。 耳に心地良い甘言をうのみになされ苦言を呈した者を遠ざけて退校へ追い込まれることもあります。 殿下に限られた話ではありませんが」


 陛下の耳に届くくらいには話が大きくなっているのでしょう。 でなければ私が呼ばれるどうりはない。


 別に他にもあの学校に行っている生徒はたくさんいるわけでして、誰でも構わないはずなのだから。


「ふふふ、さすがロベルトの娘だな。 良く見ている、それならリシャーナ嬢はルーベンスが王位に就くのをどう思う?」


 その質問はちょっとなぁ。 頭を掻きながら父様を見上げるとまたもや無言で促された。 はぁ、もうどうにでもなれだ。


「そうなった際には他国へ嫁入りさせていただきます。 国内外荒れるでしょうから今のうちに備えをオススメ致します」


 あの自己中なルーベンス殿下がちょっと注意したくらいで大人しくするとは思えない。 実際王国の権力の縮図である王立学院ですら、情けなくもマリアンヌ嬢の取り巻きと化しているのだから。


「ははは、ロベルトは良い娘に恵まれたな」


「お褒めに与り光栄でございます。 自慢の愛娘ですから」


 父様にそう言ってもらえるのがとても誇らしいです。


「リシャーナ嬢ならば国母も勤まる大器だろうに本当に勿体無いことをしたなぁ」


「うふふ、お戯れを。 私にはそんな重責とても勤まりませんわ」


 内心脂汗を掻きながら口許を隠して優雅に見えるように微笑む。


 せっかく子供の頃にへし折ったフラグを立て直されては敵わない。


「そうか……仕方ない。 それでなぁリシャーナ嬢折り入って頼みがあるのじゃが」


 にっこりと満面の笑顔の国王陛下。 嫌な予感しかしません。 逃げて良いですか?


「御断り致します」


 冷や汗が背中を伝う。 不敬は問われないなら逃げるが勝ちだ。


「そうか、ではここからは不敬に問わないとの言を撤回しよう」


 なっ、なんですとぉ。


「国主としてリシャーナ・ダスティアにルーベンスの監視及び動向の報告義務を申し付ける。 以後ルーベンスに関することに限り報告と本人への苦言を義務として不敬には問わない。 存分にやってくれ」


 だぁー、何でそうなるのぉ~!


「なんならまた昔のように思いっきり蹴りつけてやってくれ」


 昔の話を持ってこないでくださいな、子供なら許されても一応年頃の乙女になに求めてるんですか!?


「拒否権は……」


「ない。 勅命」


 ですよね、はぁ。 私の平和なキャンパスライフよ去らば。


「リシャーナ、諦めろ」


「父様……」


 事前に反対はしていたのでしょう。 父様の言葉で断ることは出来ないのだと再認識出来ましたとも。


「主命、慎んでお受け致します」


 ガックリと肩を落とす私とは反対に、上機嫌で私のカップに紅茶を手ずから注ぎ入れる陛下。


「それじゃぁ宜しくなリシャーナ嬢」


 精神をガツガツ削られたお茶会を辞してその日は寮には帰らずに屋敷に泊まりました。


 と言うわけで、苦言はさておき包み隠さず行動を御報告して参りましたが流石に婚約者へのこの仕打ちは目に余るんですよ。


 謎のデジャブで機嫌は最悪、体調も最悪。


「しかしマリアンヌ嬢との恋情に自国の有力貴族の名前すらお忘れとはお痛わしい」


 クリスティーナ様をさりげなく背後に庇いながら目の前の不機嫌に見下ろしてくる男に笑みを浮かべて見せる。


 笑顔を絶さずに嫌味を言う、これって意外と神経逆撫でされるのよ。




「さぁ、クリスティーナ様はこちらへ」


 さっさとルーベンス殿下を蔑ろにしつつクリスティーナ様を避難させるべく後ろで成り行きを見守っていた女生徒へと手渡す。


 マリアンヌ嬢に婚約者を寝取ら、げふげふ。 持っていかれたご令嬢方ですのでもちろん味方ですよ。


 次の婚約者候補はダスティア公爵家と国王陛下が有能な独身の騎士や貴族を斡旋することになっております。


 もちろん顔と爵位ばかりが取り柄のぼんぼん子息じゃないですよ。


 ご紹介させていただくのは皆実力ある異性です。


 容姿は元婚約者には劣るかも知れませんが、中身は最高品質です。


 なるべく令嬢の好みの男性をリストアップして根回ししましたから。


「さて殿下、私たちはこれにて失礼させて頂きますわ」


 くるりと華麗に回れ右をきめていざ退散。


「まてじゃじゃ馬! 話はまだ終わってない」


 右肩を捕まれてぐいっと乱暴に引かれて走った痛みに顔を歪める。 痛いじゃないの、何すんのよ馬鹿力。


「はぁ、終わりですわよ。 その手を離してくださいません? 話の通じない相手にいくら言葉を尽くしても無駄ではありませんか。 なら無駄な努力はしない主義なので」


 まるで埃でも払うように手を退けると、火を吹きそうな勢いで赤面していくのがわかります。


「この、言わせておけば! この娘を拘束しろ!」


 喚いてますね、無駄です無駄。


「あらあら、口では勝ち目がなければ武力に頼られる。 そんな好戦的で浅慮な方が次期国主候補筆頭とはお痛わしい」


「この!」


「私は言いましたわよ? これは国王陛下のご意志だと」


「そんなバカな話があるか!?」


「書状が信じられないのでしたらご自分で御確認なさいませ。 臣下の忠言にお心を傾けるのも主君の義務ですが、鵜呑みにして自分で真実を調べずに断罪するのは愚者のすること!」


 笑顔を引き剥がして無表情で述べれば、殿下とそれまで息巻いていたおバカ令息に動揺が走る。


「御自分が正しいと思われるのでしたら御同行いたしますわ。 どうぞお好きに」


 どうぞ、と右手を差し出すと、言葉につまったルーベンス殿下は踵を返して歩き出した。


「ルーベンス様!?」


「殿下!?」


「行くぞ」


 慌てて後ろへと続く取り巻きを引き連れて去っていくおバカ。


「はい、ごきげんよー」


 見送りも早々に保護したクリスティーナ様の容態を確認するために治療院へと急ぐのです。







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