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私のわがままな自己主張 (改訂版)

とみQ

 風が心地好い夕涼みの時間。コトコトと電車が行っては過ぎて、帰宅ラッシュの人達が駅の改札からこぞって排出されては通り過ぎ、私達の横を通る度に心臓がバクバクと高鳴っていた。
 というか今のこの状況を一体どのように打破していくか。打破と言うとまるで嫌な事のように感じるからそれでは語弊があるか。
 とにかくずっとこのままの状態というのは不味い。
 高校生として精神衛生上も不健全であるし、単純に恥ずかしい事この上無い。
 誰のせいかと問われればおおよそ私のせいなのであるが。
 まさかあのタイミングで高野とこんな事になろうとは全く予想していなかった。
 正直今すぐこの戒めを解き二人離れ、またねと別れを告げ家路につくべきなのだと思う。
 だがそんなにうまく事が運ぶのならばとっくにそうしている。
 高野とこうして密着し、制服越しに彼女の温もりを感じ、息使いすら耳朶をくすぐるような距離で心持ちは上の空。
 何を考えているのかと問われればそれは高野の鼓動や髪の匂い、そして温もりとか所謂彼女を構成するおおよそ全ての事なのだと思う。
 周りの音や視線は気になるけれど、それ以上に高野の事が私の心の多くを占領し、今正に膠着状態に陥っていた。
 その時高野のスマホがさらさらとしたさざ波のような音を奏で始めた。着信音だ。彼女の鞄の中のそれがぶるぶると震動を私にまで響かせてくる。


「高野……出なくていいのか?」


「あ……うん……」


 それを合図に私達は再びいつもの距離感へと引き戻る。
 正直助かったと言うべきだろう。離れる瞬間の高野と目が合い、その眼差しにまたドキリと心臓が跳ね上がりそうになったが、それでも後ろを向き誰かと話し始めた彼女の後ろ姿に見つつ、幾らか頭も冷えて落ち着いてきた。
 私達は一体どのくらいああしていたのだろうか。
 羞恥の念から悶絶しそうになると同時に手には高野から渡された誕生日プレゼントがある事に気づく。
 今日は私の誕生日。いつも気に掛ける事も無いからそんな当たり前の事すら忘れていた。家族ですらそんな催しに興じる事など無いというのに。
 確かにいつかの帰り道、そんな事を聞かれたような気はするのだが、律儀に覚えていてくれたのだ。
 たったそれだけの事で心が温かく、ホワホワとした気持ちになるのは浮かれている証拠だろうか。
 後ろを向いていた高野が不意にこちらを振り向き目が合った。
 薄く微笑む彼女は様子もすっかり元通りになり、いつもの高野美奈だった。
 そして胸の前で小さく手を振る彼女。少し暗くなって来たがそれでも彼女のその微笑みは私の目にははっきりときらびやかな輝きを以て突き刺さってくるのだ。
 やがて彼女は電話を終え、とことこと小走りで私の元へと戻って来た。


「君島くん……その……大丈夫?」


 おずおずと訊ねる彼女のその上目遣いに私は反射的に目を逸らしてしまう。


「あ、ああ……大丈夫だ。その……すまなかったな」


「ううん。全然謝るようなことじゃないよ? だって私たち……」


「私たち?」


「私たち、友達だもん」


「あ、ああ、そうだな」


 反射的に聞き返してしまったがその返答は当然なもので。私は一体そこにどんな答えを求めていたというのか。自分で自分が恥ずかしくなった。


「所で、さっきの電話は……」


「あ、うん。お母さんからだった」


 そう言う高野は何故か少し笑顔が曇ったように思える。


「じゃあ、帰るのか?」


「あ、うん……」


 気のせいかもしれないが高野の言葉の歯切れが悪い気がする。そう思い掛けて私は首を振る。
 そんな訳、ある筈が無い。もしそれが事実だとしたら私は私にとって自惚れのような感情を抱いている事を肯定する事になる。断じてそんな事、あり得ない筈だ。私達はただの友達同士なのだから。それは今しがたお互い確認を取ったばかりなのだ。


「そうか。じゃあ、またな。気をつけて……」


「君島くん」


「??」


「あとちょっとだけ、付き合ってくれないかな?」


「え……?」


 自分でも間抜けな声を出してしまったと思う。だが勘弁してほしい。今高野からそんな提案を受けるなどとは全く以て予想していなかったのだから。 

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