私のわがままな自己主張 (改訂版)
 とある喫茶店。
 まだ五歳だった私は、両親と共にお昼を食べていた。
 美味しそうにスパゲッティを頬張る私に、私の父親だったその男は言った。
「隼人、元気でな。この先もう会う事もないだろう」 
 私は呆けた顔で父親の顔を見る。彼の言葉を呑み込みきれず、咀嚼する顎が止まる。父親に微笑み掛けてみるが、その瞳はいつもの優しいそれにはならなかった。
 私は今のこの事態に急速に頭が冷え、真っ白になっていく。
「え? なんで? おとうさん、どこかへいっちゃうの?」
 子供ながらにその異様な雰囲気を察しつつも作り笑いを浮かべそんな事を言ってみる。
 もしかしたら単なる冗談なのかもしれない。そんな含みや淡い期待も今にして思えば少からずあったように思う。
 だが帰って来た言葉は子供の私の心を打ち砕くには十分過ぎるものであったのだ。
「お前など、これから私の子供でも何でも無いのだ。二度と私の前に現れないでくれ。お前など……、お前など大嫌いなのだ」
 言っている意味はしっかりと理解出来た訳では無い。いや、受け入れられなかったと言うべきか。
 父親の放った言葉に私の心はざわつき、波立ち、畝り。気づけばぽとり、またぽとりと瞳から雫が零れ落ちていく。
 一度溢れてしまうとそれはもう止められなくて。決壊した瞬間からぽろぽろと湯水のように流れていくのだ。
「え、なんで? どうしてそんなことゆうの? ぼく、いいこにするから……わがままもゆわないから……いかないでよ……」 
「煩いっ! 黙れっ! もう何も喋るんじゃない!」
 びくっと自分でも驚く程に肩が跳ね上がる。恐怖というよりは衝撃の方が大きかったように思う。
 私はこの男の事が大好きだったのだ。いつも笑顔で、優しくて、私の事を、本当に大切に想ってくれていると感じていたから。
 そんなだから私は尚更父親のその言葉が信じられなかった。
 父親の顔を見続けるがもう彼は私の事を見てはくれない。それ以上何も語らず徐に立ち上がりその場を後にする。
「まってっ! まってよ! おとうさああ~~ん!!」
 涙を流しながら店から出ていくその男の背中を見つめていた。実際涙で滲んで良くは見えなかったが。それにより幸か不幸か、その男の最後の表情はモザイク掛かったようにはっきりとは記憶に止まってはいない。
 そしてふと私をその場に止める強い力に気づく。
 母親だ。
 彼女は私が父親を追い掛けるのを必至に抱き止め、その場に止め続けていたのだ。
 まだ五歳だった私は、両親と共にお昼を食べていた。
 美味しそうにスパゲッティを頬張る私に、私の父親だったその男は言った。
「隼人、元気でな。この先もう会う事もないだろう」 
 私は呆けた顔で父親の顔を見る。彼の言葉を呑み込みきれず、咀嚼する顎が止まる。父親に微笑み掛けてみるが、その瞳はいつもの優しいそれにはならなかった。
 私は今のこの事態に急速に頭が冷え、真っ白になっていく。
「え? なんで? おとうさん、どこかへいっちゃうの?」
 子供ながらにその異様な雰囲気を察しつつも作り笑いを浮かべそんな事を言ってみる。
 もしかしたら単なる冗談なのかもしれない。そんな含みや淡い期待も今にして思えば少からずあったように思う。
 だが帰って来た言葉は子供の私の心を打ち砕くには十分過ぎるものであったのだ。
「お前など、これから私の子供でも何でも無いのだ。二度と私の前に現れないでくれ。お前など……、お前など大嫌いなのだ」
 言っている意味はしっかりと理解出来た訳では無い。いや、受け入れられなかったと言うべきか。
 父親の放った言葉に私の心はざわつき、波立ち、畝り。気づけばぽとり、またぽとりと瞳から雫が零れ落ちていく。
 一度溢れてしまうとそれはもう止められなくて。決壊した瞬間からぽろぽろと湯水のように流れていくのだ。
「え、なんで? どうしてそんなことゆうの? ぼく、いいこにするから……わがままもゆわないから……いかないでよ……」 
「煩いっ! 黙れっ! もう何も喋るんじゃない!」
 びくっと自分でも驚く程に肩が跳ね上がる。恐怖というよりは衝撃の方が大きかったように思う。
 私はこの男の事が大好きだったのだ。いつも笑顔で、優しくて、私の事を、本当に大切に想ってくれていると感じていたから。
 そんなだから私は尚更父親のその言葉が信じられなかった。
 父親の顔を見続けるがもう彼は私の事を見てはくれない。それ以上何も語らず徐に立ち上がりその場を後にする。
「まってっ! まってよ! おとうさああ~~ん!!」
 涙を流しながら店から出ていくその男の背中を見つめていた。実際涙で滲んで良くは見えなかったが。それにより幸か不幸か、その男の最後の表情はモザイク掛かったようにはっきりとは記憶に止まってはいない。
 そしてふと私をその場に止める強い力に気づく。
 母親だ。
 彼女は私が父親を追い掛けるのを必至に抱き止め、その場に止め続けていたのだ。
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