私のわがままな自己主張 (改訂版)
 次に私の元にやって来たのは工藤だ。工藤は落ち着き無く目を泳がせながらやがて私の向かいに腰を下ろした。
 私はそんな工藤を見てため息をつく。
「工藤、落ち着くのだ。勉強だ」
「わ、わーってるよ! ……ただ、あまりに感動してだな」
 そういいつつ工藤は部屋の空気を胸一杯に取り込み動作をした。その表情は至福に満ちていて。
「……工藤、流石に気持ち悪いのだが」
「う、うるせーなっ! お前はずっとここにいて嗅ぎ放題だもんな! この羨まし男!」
「いや……別にそんなつもりでは……」  
 工藤が急にそんな事を言い出すものだから私も妙な気持ちになってしまう。確かに女の子の部屋に居座るというのはかなり支配欲をかりたてられるものでもある。
 この部屋は仄かに甘い香りが漂っていてとても落ち着くのだ。
「とにかくだ! 工藤だってこの後あちらの部屋で高野と二人きりであろう。何を話すつもりなのだ」
「あ? ……確かに!! そう言えばそうじゃねーか! 君島っ! でかした!」 
「いや、この状況を作り出したのは私では無い。どちらかというと椎……」
 その時ふと思った。椎名が今のこれを言い出したのには何か意図があるのではないかと。
 確かに眠くて疲れて休みたいと、そんな気持ちもあっただろう。
 だがこうしてこの部屋とあちらの部屋で二人きりの状況が全てのパターンで出来上がるのだ。何か話したい事があれば堂々としてしまえる。例えば先程はぐらかされたプールでの事だとか。
 いや、だがあれはお互い最早触れないようにしている事であってわざわざぶり返すような事でも無い。
 何なら忘れてしまいたいくらいなのだ。
「しかし、おまえってさあ。椎名のこと好きなのか?」
「ぶはっっ!!」
 唐突な工藤の言葉に盛大にむせ込んでしまう。しかも彼女の事を考えていた最中だっただけに余計に不意を突かれたようになった。
「なんだよ、やっぱ図星なのか」
「ち、違う! 私は断じてそんな事は無い! 椎名の事など何とも思ってはおらん!」
「え? そうなのか? 何でだよ。あいつすげーかわいいじゃん」
「なっ!? 何を言っている? ……お前は高野が好きなのだろう?」
「いや、そりゃそうだけどよ。それとこれとは別問題っつーか? それにあいつあんなだけどけっこーエロいよな? 露出も高目だし」
「……」
 確かに工藤の言葉には分かる部分もある。椎名はいつも無防備でラフな格好だ。今日もハーフパンツから生足が覗き、部屋で足を動かす度に視線をそちらに向けてしまうのだ。
 正直目のやり場に困ってしまう。
 だが、工藤の言葉を聞いてそれに同意する気持ちよりもまず、言い様の無いもやもやとした気持ちが湧いてきていた。
 それが妙に気分が悪く、正直ムカムカする。
「工藤」
「ん?」
「お前は高野が好きなのだろう? ならば彼女以外の女性についてそんな事をペラペラと喋る事は不誠実だとは思わないのか? 正直不愉快だ。止めてくれ」
「お、おお……わかったよ」
 工藤は私の圧力に気圧されたのか。それ以上は何も言わなかった。教科書を広げる私に倣い、机の上に同じように広げていく。
 一瞬気まずくなったかとも思ったが、その後の工藤はいつも通りだった。そういったあっけらかんとした所は彼の愛すべき部分なのかもしれない。
 勉強を進めながら私もいつも通りの自分に戻っていった。ささくれ立った心は時間の経過と共に薄れ、やがて消えていく。
 思いの外熱心に勉強に励む工藤と接しながら、私は少しずつ恥ずかしい気持ちになっていった。
 工藤にあんな言い方をしてしまった自分が情けなくて申し訳無くて。
 いや、別に間違った事を言ったとは思ってはいない。ただ、もっと他に言い方があったのではないか。そうは思ってしまうのだ。
 そして何事も無かったかのような工藤が妙に大人びているように思えて、私はまた言い様の無い不安な気持ちに駈られるのだ。
 それと同時に自分でも自分自身の心の内が今一理解出来ないでいた。
 どうして私は先程あんなに腹を立てたのだろう。
 カチコチカチコチと時計の音が耳に届く。
 もうすぐ交代の時間だ。
 私はそんな工藤を見てため息をつく。
「工藤、落ち着くのだ。勉強だ」
「わ、わーってるよ! ……ただ、あまりに感動してだな」
 そういいつつ工藤は部屋の空気を胸一杯に取り込み動作をした。その表情は至福に満ちていて。
「……工藤、流石に気持ち悪いのだが」
「う、うるせーなっ! お前はずっとここにいて嗅ぎ放題だもんな! この羨まし男!」
「いや……別にそんなつもりでは……」  
 工藤が急にそんな事を言い出すものだから私も妙な気持ちになってしまう。確かに女の子の部屋に居座るというのはかなり支配欲をかりたてられるものでもある。
 この部屋は仄かに甘い香りが漂っていてとても落ち着くのだ。
「とにかくだ! 工藤だってこの後あちらの部屋で高野と二人きりであろう。何を話すつもりなのだ」
「あ? ……確かに!! そう言えばそうじゃねーか! 君島っ! でかした!」 
「いや、この状況を作り出したのは私では無い。どちらかというと椎……」
 その時ふと思った。椎名が今のこれを言い出したのには何か意図があるのではないかと。
 確かに眠くて疲れて休みたいと、そんな気持ちもあっただろう。
 だがこうしてこの部屋とあちらの部屋で二人きりの状況が全てのパターンで出来上がるのだ。何か話したい事があれば堂々としてしまえる。例えば先程はぐらかされたプールでの事だとか。
 いや、だがあれはお互い最早触れないようにしている事であってわざわざぶり返すような事でも無い。
 何なら忘れてしまいたいくらいなのだ。
「しかし、おまえってさあ。椎名のこと好きなのか?」
「ぶはっっ!!」
 唐突な工藤の言葉に盛大にむせ込んでしまう。しかも彼女の事を考えていた最中だっただけに余計に不意を突かれたようになった。
「なんだよ、やっぱ図星なのか」
「ち、違う! 私は断じてそんな事は無い! 椎名の事など何とも思ってはおらん!」
「え? そうなのか? 何でだよ。あいつすげーかわいいじゃん」
「なっ!? 何を言っている? ……お前は高野が好きなのだろう?」
「いや、そりゃそうだけどよ。それとこれとは別問題っつーか? それにあいつあんなだけどけっこーエロいよな? 露出も高目だし」
「……」
 確かに工藤の言葉には分かる部分もある。椎名はいつも無防備でラフな格好だ。今日もハーフパンツから生足が覗き、部屋で足を動かす度に視線をそちらに向けてしまうのだ。
 正直目のやり場に困ってしまう。
 だが、工藤の言葉を聞いてそれに同意する気持ちよりもまず、言い様の無いもやもやとした気持ちが湧いてきていた。
 それが妙に気分が悪く、正直ムカムカする。
「工藤」
「ん?」
「お前は高野が好きなのだろう? ならば彼女以外の女性についてそんな事をペラペラと喋る事は不誠実だとは思わないのか? 正直不愉快だ。止めてくれ」
「お、おお……わかったよ」
 工藤は私の圧力に気圧されたのか。それ以上は何も言わなかった。教科書を広げる私に倣い、机の上に同じように広げていく。
 一瞬気まずくなったかとも思ったが、その後の工藤はいつも通りだった。そういったあっけらかんとした所は彼の愛すべき部分なのかもしれない。
 勉強を進めながら私もいつも通りの自分に戻っていった。ささくれ立った心は時間の経過と共に薄れ、やがて消えていく。
 思いの外熱心に勉強に励む工藤と接しながら、私は少しずつ恥ずかしい気持ちになっていった。
 工藤にあんな言い方をしてしまった自分が情けなくて申し訳無くて。
 いや、別に間違った事を言ったとは思ってはいない。ただ、もっと他に言い方があったのではないか。そうは思ってしまうのだ。
 そして何事も無かったかのような工藤が妙に大人びているように思えて、私はまた言い様の無い不安な気持ちに駈られるのだ。
 それと同時に自分でも自分自身の心の内が今一理解出来ないでいた。
 どうして私は先程あんなに腹を立てたのだろう。
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